夢の話 ～Good night～

上原 恵 @Uehara_Kei

【夢の話 〜Good night〜】「それじゃ、あとはよろしくね」寝袋に入ったｺｳは、近くを浮遊するﾌｳに声をかける。『分かったよ』返ってきた答えにひとつ息をついてｺｳは静かに瞼を下ろした。「おやすみ」『うん、おやすみ』 #ss_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 短く挨拶を交わして、しばらくすると整った寝息が聞こえ始めた。昔から彼女の寝付きの良さは変わらない。『さて……』ふよふよと漂っていたﾌｳはゆっくりと降りてきて、闇を焦がす炎をじっと見つめた。#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 幽霊となってから眠ることが出来なくなった。その事実に気付いた当初は愕然となった。長い夜をずっとひとりで過ごす。恐怖さえ覚えたのを今でもはっきりと思い出せる。現在でこそ夜の時間に慣れて、見張り役を買って出ている訳で――。#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 『……あれ？』ﾌｳは背中を刹那に駆けた感覚に首を捻った。もう感覚なんてものは捉えられないから忘れていたが、多分この感じは。感覚の正体に気付くと、ﾌｳは慌てて自らの身体を抱きしめるように押さえ付けた。#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 触れている掌越しから伝わる微かな震え、止まれと命令したところで無駄だった。『……今更、怖いのか』突如にしてやってきた感覚の名前を口にして、ﾌｳは自嘲気味に薄く笑う。克服したとばかり思っていたが、まだ乗り越えていなかったか。#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 一度思い出してしまったものはそう簡単に振り払うことは出来ない。諦めたようにﾌｳはそのまま膝を引き寄せて、顔をうずめてなんとかやり過ごすことにした。耳が痛くなるのではないかと思う静寂は全てを飲み込んでしまいそうだ。#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei だから、自分という曖昧な存在は造作もなく夜闇に葬り去られてしまうのではないか。込み上げてくる不安は更に恐怖を掻き立てて、黒く滲むようにﾌｳを容赦なく蝕む。染まっていく黒を新たに塗り潰す術をﾌｳは知らない。#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 怖い。嫌だ。怖い。嫌だ。このままだと見えない何かに飲み込まれる。耐え切れなくなってきつく目を瞑った時だった。頭に置かれるものがあった。のろのろと目を開けて、そのまま大きく見開く結果となる。#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 視界に映ったのは眩い金色、すでに眠りについたはずのｺｳだった。驚きのあまり言葉をなくしていると、置かれた手がやさしく頭を撫でる。何度も、何度も。『ｺｳ……？』掠れた声でようやく尋ねると、ｺｳは撫でながら言った。#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 「大丈夫だよ」彼女の一言に、ﾌｳは弾かれたように顔を上げた。見つめるｺｳの澄んだ青の双眸は穏やかで、まるで女神のような微笑みを浮かべていた。「大丈夫」はっきりとした口調で告げる言葉は不思議と力を持っていて、瞬く間に芽生えた恐怖を解かしていく。#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei それは、まるでひだまりみたいで。『ありがとう』囁くようにお礼を言うと、ｺｳは満足げに相好を崩してそのまま寝袋に戻っていく。そして眠ってしまった。『……寝ぼけてたのか？』そういえば、向けられた眼差しはぼんやりとしてとろんとしていた。#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei 『まったく……』すっかり夢の中へ旅立ってしまった幼なじみを見遣って、ﾌｳは呆れたように呟いた。しかし、その口許は緩んでいた。先程までの震えが嘘のように治まっている。自分ひとりではどうしようもなかったことを容易く消し去ってくれた。#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

@Uehara_Kei たとえ無意識でも囚われている自分に手を差し延べてくれる、あたたかな光。――救われているよなあ。たまらなくなって、ﾌｳは泣きそうな顔で少し笑った。もう夢は見ることは叶わないけど、今が夢の続きのようなものだから。【fin】#SS_02

上原 恵 @Uehara_Kei

すっげー衝動的に書きたくなった結果がｺﾚ、ひっでぇ……ひっでぇよ。何かの機会で別の場所に載せる時は直しまくるよ。

上原 恵 @Uehara_Kei

眠れなくなったﾌｳはどんな思いで夜を過ごしてるのかなーって考えたら、少し匙加減を間違えました(苦笑)いつもは考え事してたり、口笛とか吹いてるんだよきっと。