『トップアイドルを目指していた春香さん』

まとめました。
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_ @gou_zou

クラスに転校生の女の子がやってきた。地味で、メガネで、休み時間も放課後もいつも一人でいて、周りの女子に構われても無理して笑顔を作ってる。クラスの誰も知らないけど、僕は前からその子の事を知っていた。 ―その子の名は天海春香……少し前までアイドルだった女の子― #みたいなノベマス

2014-09-15 22:03:00
_ @gou_zou

時々、Cランクで引退させてしまった「あの春香」の事を思い出すんだ。彼女はあの後どうしたのか。多分いつまでもアイドルは続けなかったろう。アイドルだった頃を一つの思い出として、所謂普通の女の子に戻っただろう。でも、普通の女の子だからこそ、大きな一つの挫折が彼女の心を蝕んだだろう。

2014-09-15 22:07:09
_ @gou_zou

僕が彼女を「見つけた」のは本当に只の偶然だった。偶々買った雑誌の隅っこの端っこに、本当に小さく載っていた写真とインタビュー。ぎこちないながらも懸命に応える文面だった。後は地方のゆるキャラの華やかしと、やっぱり地方のチラシ配りが幾つか。それが彼女の「アイドル」としての全てだった。

2014-09-15 22:13:31
_ @gou_zou

最後は、あまり大きくもないライブを開いて(それも大成功とはいえなかったようだが)、その後小さな仕事を幾つかこなして、そのまま引退した、と聞いている。彼女がどうしてアイドルを辞め、そして転校してきたのか知る由もないけれど、知った所で陰鬱な気分になるだけだろう。

2014-09-15 22:16:16
_ @gou_zou

彼女は時々―あるいは常に泣いているように見える。とても地味な外見と、分厚い眼鏡がなんだか何かしらのバリアのように見えて、僕は彼女に一度も話しかけられずにいた。 僕以外のクラスメイトは誰も、彼女の過去について知らない。

2014-09-15 22:19:09
_ @gou_zou

―ある放課後、河原で彼女を見かけた。夕陽に輝く川面を見つめているのかいないのか、微妙に焦点の合わない瞳で 「……けて 逃げるフリをして……」 歌っていた。 「……る私 マーメイ……」 きれいな、かわいい歌声。正直、転校してきて以来、彼女のこんな声を生で聴いたのは初だった。

2014-09-15 22:25:54
_ @gou_zou

黄金色の光に映える横顔は、確かにかわいいと言える。『バリア』に隠されたコレを見出し、売りだそうとした人は、たしかにある程度有能だったんだろう。 でも、やはり初めて見る彼女の、歌っている笑顔……といえるのだろうか。どこか寂しく、自嘲気味の表情は、見てるこちらをひどく哀しくさせる。

2014-09-15 22:29:37
_ @gou_zou

ふと、彼女がコチラに気づく。「あっ……!」と、隠した善行を見られた子供のような表情。なるほど、年齢よりも大分幼く見えるこういう表情にヤられた人は、確かにいたんだろう。そして、今はもういないんだろう。 僕以外には。 初めて彼女を知った時のように、少しだけ興味が湧いてきた。

2014-09-15 22:33:51
_ @gou_zou

「……歌が、好きなの?」 ガラス球を傷つけないように、知らない子供に尋ねるように、訊いてみる。本当は知っていたんだ。彼女が歌うことが好きでアイドルになったことを。そんな彼女のことを、もう少し知ってみたい。 しかし 「えっ、あの、あ、あ、あ、その」 彼女がどんどん青ざめていく。

2014-09-15 22:38:01
_ @gou_zou

「え、え、え、えっと……その……」 背筋が丸まり、眼鏡で表情を隠すように俯く。イベント等で何度か見た、あの、胸を張ってアイドルを演じている彼女は、ここにはいなかった。 ―これが、今の天海春香。 僕はたぶん、触れるべきではないものに触れたんだろう。只の女の子の、一番弱い部分に。

2014-09-15 22:40:50
_ @gou_zou

「あ、あ、あ、あの、ご、ごめんなさい……っ」 掠れるような声で叫び……いや、呟き、彼女は走って……逃げていった。 僕もまた、その場から走って逃げた。 ……それ以来、彼女とは二度と喋ったことがない。 『トップアイドルを目指していた春香さん』 完   #みたいなノベマス

2014-09-15 22:42:56
_ @gou_zou

OFAでトップアイドルになった春香さんプロデュースすんべ

2014-09-15 22:45:59