ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10100245:メニイ・オア・ワン #3

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「後は、わしが引き継ぐ」「ちょっと待ってくださいよ」デッドエンドは言いかけた。ノボセの隻眼がギラリと光った。「クチゴタエスルナー!」「ハイヨロコンデー!」「外の哨戒にあたれ!」「ハイヨロコンデー!」タフガイが駆け出して行った。デッドエンドが、畜生、と呟き、彼に続いた。21

2014-09-15 21:33:57
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出て行きそびれたスポイラーは恐縮しながら椅子を差し出した。「その……つまり……ナンシー・リー……容疑者でして」ノボセは彼の肩を叩いた。「行け」「ハイヨロコンデー!」スポイラーは戸口へ走り、もう一度オジギをしてから戸を閉めた。「……さて」ノボセとナンシーは目を合わせた。 22

2014-09-15 21:39:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

老人はコートを着たまま椅子にかけ、卓上で手を組んだ。その指は、右手の中指、左手の人差し指と中指を欠いている。長きキャリアのなかで果敢に闘い、ケジメを重ねた者の手であった。彼こそはノボセ・ゲンソン。伝説のデッカー、NSPD重鎮、引退後なお現場にあって、49課を指揮する老戦士だ!23

2014-09-15 21:50:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しばしの沈黙の後、ノボセ老はナンシーを真っ直ぐに見据えながら切り出した。「こんな機会でもなければ、話す機会も持てんものだ」「……ドーモ。久しぶりね」「今の状況は当然把握しておろうな」「そうね」「何が起こっている」「……」ナンシーは答えない。やがてノボセが言った。「手を出せ」24

2014-09-15 21:56:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは数秒躊躇い、そののち、手を机に乗せた。ノボセは懐からキーを取り出し、彼女の拘束を無雑作に解除した。ナンシーは呆気に取られかけた。「逃げるわよ?」「どうやってだ、お嬢さん」ノボセ老は低く言った。「……」ナンシーは肩をすくめた。 25

2014-09-15 22:07:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「時間は多くない」ノボセが言った。「早晩、ハイデッカーどもはこの場所を嗅ぎ当てる」「仲間じゃないの?警察にも色々あるのね」「そうだ」ノボセは重々しく頷いた。「ハイデッカーは設立されて間もない組織だ。そしてネオサイタマ市警を実際呑み込もうとしておる。……わしの話を、少ししよう」26

2014-09-15 22:20:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

雷鳴が遠く聴こえる。「ラオモト・カン、そしてソウカイ・シンジケートにまつわる一連の出来事は、わしに一つの考えをもたらすに十分だった」彼はやや声のトーンを落とした。「……ニンジャによる社会支配に対し、わしらは戦わねばならぬ。闇の社会に根を下ろす悪に、楔を打ち込まねばならぬと」27

2014-09-15 22:30:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャの絶対数はそう多くはない。社会に害を為す戦闘者達……彼らを都度、淡々と取り締まれば、それでよいか?そう上手くはゆかん」「当然ね」「最終的に、わしは職を辞した。表向きには、引退だ。警察組織内の何人かの協力者の力添えのもと、どうにか確保した庭。それが49課だ」28

2014-09-15 22:43:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あの様子じゃ、日頃から苦労してるんじゃない?」「彼らはニンジャだ」ノボセ老が言った。ナンシーは無言だ。ノボセは続けた。「なおかつ、あの三人だけではない。ニンジャとなる以前から、デッカー、あるいはマッポの立場にあった者達が、49課には集められている。そうではない者も居るが」 29

2014-09-15 22:59:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャとなった者は、警察組織の中で遅かれ早かれ単純な問題沙汰を起こす。そうした者らが集められている。闇社会のニンジャの犯罪を取り締まる、ニンジャの武力だ」「毒をもって毒を制す?」「彼らの精神の根底にあるのは正義感だ」ノボセは言った。「素行に問題があろうと、それは揺るがぬ」30

2014-09-15 23:06:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……私から特に言うことはないわ」ナンシーが呟いた。ノボセは頷いた。「ネオサイタマを、或るアトモスフィアが覆いつつある。戦争が始まり、政治が、都市が、姿を変え始めた。ハイデッカーの隊員達を間近に見たことがあるか。正式に予算が組まれている。何もかもが、すり替えられつつある」31

2014-09-15 23:16:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

再び、沈黙が訪れた。やがてノボセ老が口を開いた。「この夜、ネオサイタマの名士が立て続けに三人、命を奪われた。フジキド・ケンジと、お前の手で」「事実よ」ナンシーは頷いた。「懲役を加算して頂戴ね」「殺害現場の付近に、黒い旗が立てられた。『忍』『殺』の旗が」「ええ。その通り」 32

2014-09-15 23:23:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……かつてラオモト・カンとソウカイ・シンジケートを滅ぼしたニンジャスレイヤーは、この夜、何を目的に動いている」「……」二者は睨み合った。ナンシーは呟いた。「旗を立てる為よ」 33

2014-09-15 23:31:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KABOOOM!「御用!御用御用!」その時、部屋に届いて来たのは、なんらかの爆発音と鳴動、群れをなす御用サイレンの音だった。ナンシーは腰を浮かせた。ノボセ老は動かない。「来たか。ハイデッカーの包囲だ」低く言った。「一度目は威嚇だ。奴らとて、公にマッポ同士で殺しあう事はできん」34

2014-09-15 23:40:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「引き渡さないの?私はテロリストの片割れよ。システムを混乱させ、犠牲者を生み、市民を……」「当然、我々49課は犯罪者を逃がしてやるつもりなどない」ノボセ老は言った。「力を貸す事もない。だが」彼は厳めしくナンシーを見た。「我らとハイデッカーの競り合いは、この後しばし続くだろう」35

2014-09-15 23:47:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KABOOOOM!「御用!御用御用!」廃スーパーマーケット「をべなや」の正面店舗ウインドウが爆散し、分厚い煙が夜空に立ち上った。敵は正面店舗にはいない。裏側の事務所内だ。威嚇目的である。包囲部隊指揮官はタクティカルスコープを下ろした。Y字切れ込みの入った装甲フルヘルメット。37

2014-09-16 00:13:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あまり根比べに時間を割いてもつまらぬ」指揮官はブレーサーの液晶画面を操作し、戦略指示を出した。ハイデッカーの包囲部隊には装甲車両が3台、新型のオナタカミ・ホバー自動機「ハイタカ」が4機含まれている。物量は十分すぎるほどだ。どのみち、おおっぴらにマッポ同士が戦闘はできぬ。 38

2014-09-16 00:27:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

極悪非道の残虐テロリストとして周知されているナンシー・リー容疑者を匿い続ける大義は49課にはない。縄張り意識が高じての行動に引っ込みがつかぬか。指揮官は侮蔑の感情をもって49課に思いを馳せた。不良デッカーの掃き溜めは、新秩序の構築者たるハイデッカーに生理的拒否感を抱くのだ。39

2014-09-16 00:33:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

49課は自らを袋小路に追い込んだ格好と言えよう。この件を不祥事として徹底的に追求し、日頃から気に食わぬ行動を繰り返す愚連隊を解体、辞職に追い込むのがよい。抵抗を理由に殺害してもよい。何故なら、この指揮官はニンジャである。その名をマージナル。40

2014-09-16 00:39:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

正義を司るハイデッカー・スーパーバイザーのマントを翻し、彼は裏口方向へ移動する。「ドーモ!」「ドーモ!」「ドーモ!」一糸乱れぬ動きでハイデッカー達がオジギを行う。更に、一人が進み出て報告した。「中とIRCセッションが確立しました」「ご苦労」彼はブレーサーUNIXをタイプした。41

2014-09-16 00:43:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ojigiコマンドののち、彼は高圧的メッセージを送信した。『諸君らは重大な内規違反の疑いをかけられている。ナンシー・リーをすぐに引き渡さねばならない。さもなくばこの件について査問委員会を招集する事になる』数秒後、49課からメッセージが返った。『我々が署に直接連行するのが筋だ』42

2014-09-16 00:49:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『本件に関しては我々ハイデッカーが現場の指揮権を持つ。協力に感謝する。すぐにナンシー・リーを引き渡せ。さもなくばこの件について査問委員会を招集する事になる』『そんな話は聞いていない。我々はハイデッカーを承認しない』マージナルは眉根を寄せる。どこまで頑ななのだ。愚かな。 43

2014-09-16 00:54:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『これは命令だ』『命令に根拠無し。異論あらば、しかるべき手続きを踏んで申請せよ』しかるべき手続きだと?マージナルは舌打ちした。日頃息を吸う用に違反行為を繰り返す49課が手続きの話をするとは。やがて再度のメッセージが届いた。『要するに、朝の9時まで待ってみろ。ボンクラ野郎』44

2014-09-16 01:00:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウヌッ……!」「どうなさいました」随行事務官が心配そうに尋ねる。マージナルは退けた。彼は心中激しく罵った。獣と変わらぬ知性の持ち主どもが、賢しらに!49課はハイデッカーの邪魔をしばしばする。ニンジャ犯罪に喰いつく事が多いからだ。そのたび、秘密保持と揉み消しに労力がかかる。45

2014-09-16 01:12:26