#完全ノープラン艦これ与太話 【ノー・リモース・リコンストラクション】 #1～#2

春魔解丼 @vespiking

間宮のスシ屋崩落はシェル・インシデントを逃れた蒼龍の耳にもすぐに届いた。間宮自身も生死不明であると。大変な事になった、と当時は唖然としたものだ。直接の親交はなかったが、動力部を握り潰されるようなショックを受けた。しかし間宮は、生きていた。生きて、スシを握っていた。 #KZNPLN

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大混乱の中、正確な情報は判然としないが、間宮の最初の目撃情報はおよそシェル・インシデント収束の翌日。前司令長官、大淀の死亡が発表された約２４時間後であったという。ショッキングなニュースと瓦礫の山に絶望し、疲弊した復興作業員の前に、彼女は現れた。リキシャーを引いて。 #KZNPLN

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スシ・バー一体型の巨大なスシネタ冷蔵リキシャーを引き、体力を吸い取る炎天下、間宮はひとり黙々とスシを握った。そして、その場にいた皆に平等に振舞った。銀に輝くそのスシはとても美味であり、全身から力が湧いてきたという。復興作業員らは間宮のスシのみを心の支えに、働いた。 #KZNPLN

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ここまでならば、スシが復興に希望を与えた美談である。オートメーションされた回転スシ・バーに客を取られてばかりのトラディショナル・スシ職人ギルドにとって、願ってもないプロモーションでもある。だが、話はここで終わらない。先のヨタモノがその典型例だ。 #KZNPLN

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「スシが売れない……？こんなにオイシイのに……イタマエの艦橋も大きい……」弥生は不思議そうにスシをほおばり、幸福感に包まれる。ネタは実際安いバイオアナゴ・スシだが、握り方ひとつで、ディスカウント・ストアのそれとは天地の差だ。「蒼龍＝サンのスシ、とてもオイシイです」 #KZNPLN

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「ええ、まあ。……こんな状態ですし、マトモに物が売れるとも思ってないですけれど……値は落としています。相当に切り詰めてる。味も落とさない範囲で。でも、流石に無償提供までは、できないですから……さっきみたいな人が増えたんです。間宮さんも、一体どうやって生計を……」 #KZNPLN

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「なるほど。間宮って艦のボランティアが、結果的に価格破壊になってるんですね」夕張は好物のスシ・ソバをすすりながら呟いた。「実際難しい話です。誰も悪くないんですよ……間宮さんも、今の帝都を見て、精一杯頑張ってる。さっきの方もそう。働く為にスシが必要。真実です」 #KZNPLN

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夕張は思案した。帝都は復興に向かっている。そう思っていた。だが、空から眺めた街の姿に、人々のカネ巡りは映らない。敬虔な日本人はカネをケガレとして忌み嫌う。だがカネとは即ち、血液だ。復興には経済の循環が必要なのだ。いくら外側を整えようと、循環が澱めば、都市は死ぬ。 #KZNPLN

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夕張が関与しているのは、まさに外側の修復、形成外科めいたマシンテックの領域だ。政府からは絶賛される。諸外国からの評価に直結するからだ。だが、このまま黙って外面だけを整え続けるのか？死に体となった帝都の、エンバーミングめいた修復作業に注力する。それでいいのか？ #KZNPLN

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夕張はチャを一気に飲み干した。そして決めた。循環器全てを治す力はない。ならばせめて、毎日食べている鳳翔のスシ・ソバ。その味を受け継いだ蒼龍の店を、善意で澱みつつあるスシ職人ギルドの循環だけでも、どうにかしようと決意した。「ごちそうさまでした！」夕張はオジギした。 #KZNPLN

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「あら！面白そうだわ！」鳳翔は手を叩いて喜んだ。「予算の工面は？」「ばっちりよ。間宮さんの成功例を波及させようって事で、復興費用を割かせたわ。どうせ、ほっといたらアマクダリ事業に流れるカネよ。スシに変えたほうが、よっぽどマシだわ」夕張は誇らしげに書類を掲げた。 #KZNPLN

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書類には大きく「ネオヨコスカ・スシ・リコンストラクション」のオスモウフォントが力強く輝いていた。間宮と他のスシ屋は、事情が明らかに違い過ぎる。まずは同じ土俵に立つべきだ。復興予算でスシを握り、帝都で大規模なスシ勝負を行う。品評は都民。スシが無償。スシ屋も儲かる。 #KZNPLN

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「まあ、これだけで上手くいくとも思ってない。ただ、やらないよりはマシかと思って」夕張は自信なさげに笑う。この企画は実際急拵えだ。いわば、停滞したカネを国家から引き摺り下ろす大義名分に過ぎない。この企画が成功して、初めて夕張はスタートラインに立つ。 #KZNPLN

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「いいんじゃない？長期的に考えましょ」飛龍は興味深げに書類に目を通す。分野は違えど、蒼龍と飛龍はいわば兄弟弟子。スシも空母のカラテも、すべてのドーはカラテに通ずる。飛龍にとっても他人事ではなかった。 #KZNPLN

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だが、同席した蒼龍の顔は険しい。「ウーン、うん。そうか……ウン」蒼龍は懐から手帳を取り出し（弥生の高角砲はここでまず火を噴いた）、ソロバンで計算する。「……エート、ど、どうですか……？」「……アッハイ、いいと思います。でも……スシネタが足りない」 #KZNPLN

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蒼龍は手帳を差し出した。弥生がそれをひったくり、食い入る様に眺める。「オオオ……じつに興味深い、じつに……手書きの、肌のあたたかみ……」夕張はとりいそぎ弥生の頭頂部へカラテを加え、手帳を剥奪し、頭を抱えた。「アイエエエ、そうか……」 #KZNPLN

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書かれていたのは、ツキジからのスシネタの配分だ。夕張は天を仰いだ。何故、ここに考えが及ばなかったのか。崩壊した帝都では現在、スシネタとなる魚類の収穫量が激減している。ツキジはそれを厳正に振り分け、各スシ屋に提供していた。 #KZNPLN

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無論、此度の大破壊で被災したのは帝都近郊のみだ。帝都でスシ屋を営むほどの職人は皆、たとえば自身のメンターなど、独自にスシネタの回収ルートを確立している。スシ業界全体でみる、ツキジへのスシネタ依存度は比較的低い。全体でみると。蒼龍も例外の1隻であった。 #KZNPLN

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鳳翔はこの鎮守府に所属する、歴とした軍人だ。漁村などに太いパイプを持つ民間スシ職人とは事情が違う。シェル・インシデント時、何故龍鳳らは帝都にいたのか。夕張は蒼龍のメモに書かれた『生先翔鳳』の文字を見て、唇を噛んだ。鳳翔の仕入先こそ、他でもない。ツキジだった。 #KZNPLN

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「……大丈夫、ですよ。ハハハ。今あるネタで、どうにかやり繰りしましょう！だから、ウチにはあんまり予算、割かなくて大丈夫ですよ！もっと、間宮さんとかに回してください！」蒼龍は空元気で夕張の背を叩いた。じわりと、背中の痛みが夕張の胸を打った。 #KZNPLN

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ふと、夕張は隣を見た。弥生が頭のタンコブを押さえて震えている。弥生だけだ。そうだ。今はもう、いないのだ。自分の考えなしを指摘し、上品ぶった口調で諌めて、正してくれる悪友は。――熊野はもう、この工廠にいないのだ。熊野は大本営に行ってしまった。自分は今、工廠長なのだ。 #KZNPLN

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「……センセイ！どこか、この近くとかで……どこか、新鮮な魚が採れる場所って、ないの！？」飛龍が叫んだ。飛龍もいたたまれなかったのだ。だが、それは鳳翔も同じだ。「ウーン……今の時期、ホラ、結構キビしいのよ……戦争中だし、制海権の問題もあって……」 #KZNPLN

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「ウーン……カスガダマ、は最前線だし……。バシー沖は最近、演習の影響で漁獲量減ってるのよね……。ズンダ海峡も最近閉鎖されたし……サメワニ、サメワニ沖なら……って、無理か……あそこ、最近どこかのヤクザが……」「待って！センセイ！」飛龍が叫んだ。「今、なんて！？」 #KZNPLN

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「サメワニ沖、ウン、あそこは漁獲量もいいんだけど、最近どうも、どこかのヤクザが制海権を……」飛龍は頭を抱えた。そして、頭痛を堪えるような顔で零した。「……そのヤクザ、すっごい知ってる……ウン、ウン。っていうか、今その海域誰が持ってるか、すっごい知ってる……」 #KZNPLN