ドラゴン長門シリーズ【その3・ビスマルク編Ⅱ】

提督に連れられ、町へと買い物に出掛けたビスマルク。そこで会ったのは、元艦娘と元提督の老夫婦。そこで『なぜ艦娘になったのか』という問いに対し、ビスマルクは過去へと思いを馳せる―――。
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BLITZ @Silver_Naught

私の背中には翼がある。比喩ではない。美しいと皆が羨む自慢の翼だ。具体的にいつ生えたのかわからない。ただ、幼少の頃に夢を見た。その夢には一人の女性が出て来ただけ。あれはただの夢でしか無かった…だがその夢が覚めた後、起きてみれば自身の背中には純白の翼が生えていたのだ。 #ドラゴン長門

2014-06-20 16:59:05
BLITZ @Silver_Naught

私には両親がいる。普通の人間だ。勿論翼なんてない。その2人から生まれた私も普通であるはずだった。それまでの私は普通の少女として生きていたし、それで良かった。だが翼が生えたことで私の人生は変わった。少なくとも、これから私の進むべき道が変わったのは確かだ。 #ドラゴン長門

2014-06-20 17:00:01
BLITZ @Silver_Naught

当時の私は友達に自慢して回った。そしたら皆が「天使みたい」だと言ってくれて、皆が褒めてくれて、それが嬉しくて、私はこの翼が大好きになった。どうすれば翼は動くのか、どうすれば飛べるのか、手入れをするにはどうすればいいか、私は翼に関係があること全てに夢中になった。 #ドラゴン長門

2014-06-20 17:00:34
BLITZ @Silver_Naught

また喜んだのは自分だけでない。私の両親も喜んだのだ。最初こそ両親とも戸惑っていたが、2日もしないうちに慣れたらしい。私のこの姿を「我が家に天使が舞い降りて来てくださった」と言い、それからも大事に育ててくれた。裕福な家庭ではなかったが、幸福であったと断言出来る。 #ドラゴン長門

2014-06-20 17:01:40
BLITZ @Silver_Naught

だがそれもしばらくすると、皆慣れたのか、羨ましがる人が少なくなった。前のように持て囃されなくなったことに不満を抱いた私は、更に皆に自慢して回った。だが自慢すればする程、周りが離れて行くような気がする。こんなに頑張っているのに、なぜ見てくれない?注目してくれない? #ドラゴン長門

2014-06-20 17:02:37
BLITZ @Silver_Naught

そんな中でも両親は変わらず私を愛情込めて育ててくれた。皆がそっぽを向く中、変わらずに…。だが足りない。親の愛だけでは足りない。皆の愛が欲しい。皆私を見てよ!綺麗だと褒めてよ!私は特別な存在なんだから!皆には翼がないでしょ!?私にはあるんだから!特別な私を見てよ!! #ドラゴン長門

2014-06-20 17:03:02
BLITZ @Silver_Naught

12歳になったある日、一つの話が持ち上がった。私の存在を聞きつけた人が、私をテレビに出演させてくれると言い出したのだ。小さなテレビ局だったが、私にはそれが希望の光に見えた。テレビに出れば皆が私の存在を知る。またあの頃に戻れる…皆が私を羨む! #ドラゴン長門

2014-06-20 17:03:54
BLITZ @Silver_Naught

私は小躍りしてその事を両親に話した。娘の晴れ姿だ、きっと喜んでくれるに違いない。出演料も出るし、それを貰えば多少なり家計の足しにもなる。上手く行けば、これが切っ掛けで俳優になれるかもしれない。皆幸せになれる!…だが予想に反し、両親はテレビの出演を許さなかった。 #ドラゴン長門

2014-06-20 17:04:32
BLITZ @Silver_Naught

出演したい、出させて!そう両親に頭を下げるが、何度頼んでも首を縦に振らない。母は私に世界の広さを説き、父は私に人の中にある闇を説いた。だが私の心は両親の想いと反比例していく。なぜ?これは私のためであり、家のためなのに、なぜ拒むの?こんな真剣に頼んでいるのに、何故? #ドラゴン長門

2014-06-20 17:04:51
BLITZ @Silver_Naught

親と会話する度、イライラが募る。なぜ理解してくれない、これはチャンスだと!これを逃せば、これまでと何も変わらない生活を送るだけなのに!テレビに出るだけで良い!私のこの姿を見てくれればそれでいい!味方だと思ってたのに!!信じていたのに!! #ドラゴン長門

2014-06-20 17:06:34
BLITZ @Silver_Naught

頭の中で何かが弾けた。あるいは業を煮やした。とにかく衝動に駆られるまま、私は家を飛び出した。飛び出して、その翼で大きく羽ばたいて空へ舞った。既に飛び方をマスターしていた私はあっという間に家が豆粒になるくらい高くへと飛んだ。その時私は、ある決意を胸に秘めた。 #ドラゴン長門

2014-06-20 17:07:15
BLITZ @Silver_Naught

お金を貰うまで、有名になるまで帰らない。家出同然で飛び出した私にはもう目的に進むしか無かった。でもいつか、きっと…! だが私は甘かった。軽く考えていた。持て囃されたい、そんな下らない気持ちで世界へと飛び出すべきではなかった。 家はもう、見えなくなってしまった。 #ドラゴン長門

2014-06-20 17:07:55
BLITZ @Silver_Naught

家を飛び出して数時間、予め調べていたテレビ局のある街へと訪れた。田舎出身の私は、こういった都会へ来ることは無かった。そういえば両親は頑なに街へは行かないでと言い続けていたのを思い出す。あの時は周りがまだ自分に興味を持っていてくれたから行こうとも思わなかったが…。 #ドラゴン長門

2014-06-24 16:27:01
BLITZ @Silver_Naught

この街中で舞い降りたら皆どんな反応をするだろう?天使が舞い降りたと、皆がどよめくだろうか?皆、羨ましいと口々に言うだろうか?そう考えると、早く街に降りたいと気持ちが急ぐ。だがまだだ…ここで一度姿を見せれば、テレビに出た時印象が薄れてしまうかもしれない。 #ドラゴン長門

2014-06-24 16:27:28
BLITZ @Silver_Naught

ここはジッと堪えて、テレビに出るまでの我慢。こういうものはインパクトが大切だ。ああしかしテレビに出るとは言ってもどんなテレビだろう?アイドルと同じくステージの上で踊ったりするのだろうか?そうなら踊りの練習をしなければ!歌にも磨きを掛けたい! #ドラゴン長門

2014-06-24 16:27:51
BLITZ @Silver_Naught

他にはどんな事があるだろうか?いや、この際欲は言わない!テレビに出れるならばなんでも良い!どんなことでもしよう!あの時の、皆から憧憬の視線を浴びることが出来るのなら!口元にそんな笑みを浮かべながら空を滑空していると、眼下に目的の建物が見えてきた。 #ドラゴン長門

2014-06-24 16:28:21
BLITZ @Silver_Naught

周囲に人は居ないようだ。私は好都合だとばかりに急降下し、一応人目につかぬよう建物の裏へと降り立つ。自身が成長するに比例して大きくなった翼は隠せない程デカく目立つようになった為、見つからないよう足早に入り口へと向かう。上空からでは分からなかったが年季の入った建物だ。 #ドラゴン長門

2014-06-24 16:38:20
BLITZ @Silver_Naught

しかし決してボロい建物というわけではなく、それが返って味の出る結果となっている。よく不景気と言われる世の中で長く続いていると思われるこのテレビ局ならば…!雰囲気のみでの判断だが、そう思った。既に膨らんでいた期待が更に膨らみ、やる気が増してくる。 #ドラゴン長門

2014-06-24 16:39:57
BLITZ @Silver_Naught

さて、人目につかないよう、そろそろ中に入ろう。私は足取り軽くガラス製の両開きの扉を押して入った。すぐ横には受付があり、もちろん人もいる。その人はとても驚いた表情をしていた。当たり前だろう、誰が来たのかと思って見てみれば、天使のような美しい翼を持つ人が来たのだから。 #ドラゴン長門

2014-06-24 16:40:05
BLITZ @Silver_Naught

半ば放心状態の受付の人に、私は声を掛ける。 Bis「ちょっといいですか?以前ここの人から紹介を受けたのですが…」 受付「へ!?あ、はい!も、もしやプロデューサーの言っていた…」 Bis「あの…?」 受付「あ、ご、ごめんね、今担当の人をと呼ぶから」 #ドラゴン長門

2014-06-24 16:40:36
BLITZ @Silver_Naught

存外、取り合ってくれた。こういうのはアポが必要なのかなと少々心配だったが、私のことを知っていたらしい。来たら通せと言われたのだろうか。それにしては動揺していたようだが…まぁ誰が来たのかと見てみれば、こんなに綺麗な翼を持つ美女が来たのだから受付の人も狼狽えて当然! #ドラゴン長門

2014-06-24 16:42:12
BLITZ @Silver_Naught

受付の人は備え付けられているマイクで人の名前を呼ぶと、奥の方から走ってくる足音が響いて来た。現れたのはサングラスを掛けて濃口髭を生やした中年の男性。あの時私をスカウトしてくれた人だ。 ??「おお、よく来たね、いらっしゃい」 Bis「こんにちは!」 #ドラゴン長門

2014-07-03 11:24:10
BLITZ @Silver_Naught

Bis「連絡も無しに突然来てしまってすみません…」 ??「いいのいいの。で、今日来たのはテレビに出たい、という解釈でいいのかな?」 Bis「はい!是非!」 ??「うん、よろしい。私はここでプロデューサーをしているんだ。君もプロデュースしていくからよろしく」 #ドラゴン長門

2014-06-24 16:46:51
BLITZ @Silver_Naught

Bis「はい!よろしくお願いします!」 Pro「うん、いい返事だ。じゃ、ちょっとこっちに来てね」 Bis「あ、あの、その前に、誓約書とか初めてなんですが、どう書けば…」 Pro「あー大丈夫。いらないから」 Bis「え?いらないんですか?」 Pro「うん、いらない」 #ドラゴン長門

2014-06-24 16:47:26
BLITZ @Silver_Naught

…こういうのは契約書を書くものだと思ったのだけど…。頭の中でそう呟くが、プロデューサーと名乗る人はサッサと奥へ行こうとする。思考を掻き消し、遅れないよう男性の後ろへ着いて行く。とにかく、これで私はかつての栄光を取り戻せる。ついでに、お金も貰える…もうすぐだ…。 #ドラゴン長門

2014-06-24 16:47:42
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