日本海沿岸で発生した4つの怪死事件

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アドリア海2 @phortl

自分はその正体不明の男からの怪電話におびえ、一時はそれをきってしまおうかとも考えた。しかしながらそんなものがかかってきている時点で自分がすでに安穏たる日常から足を踏み外している事実は明らかであり、ここは相手から少しでも情報を得ていたほうが得策だろうと考え直しその衝動をこらえた。

2014-10-02 13:06:51
アドリア海2 @phortl

「あなたがね、あの日本海沿岸のゲストハウスで、XXくんと一夜をともにしていたことは、ゲストハウスの宿泊名簿でわかっているんだから」 「・・・・・」 「正直に言ってくださいよ。あそこでXXくんから何か聞いたんじゃないの?」 「・・・・・」

2014-10-02 13:07:07
アドリア海2 @phortl

「僕はね、別にあなたをどうにかしてやろうと思って電話を掛けているわけではないんですよ。僕の興味はXXくん限定なんだから。あなたはただ正直にはなしてくれればいいんです。むしろそうしたほうがあなたにとっても幸運な結果につながると思いますよ」

2014-10-02 13:09:45
アドリア海2 @phortl

男はアメとムチでこちらを懐柔したいのか、急に猫なで声を意識し始めたが、彼の加工抜きの地声はそのままテレビでよく見るボイチェン処理された架空請求業者のそれと通じる部分があり、薄気味の悪さをより増大させることにしかならなかった

2014-10-02 13:17:39
アドリア海2 @phortl

「僕はね、ただXXくんを報ってやりたいだけなんです。それだけではないあなただって助けたい。こういう不幸の連鎖を早く終わらせたいただそれだけの思いでこうして電話を掛けているのですよ」 「あなたは警察ですか?」 「いいえ」 「興信所ですか?」 「いいえ」

2014-10-02 13:19:49
アドリア海2 @phortl

「ではあなたは何者ですか?」 「僕ですか、僕はジャーナリストです」 「じゃーなりすとですか?」 「ジャーナリストです」 「どこの雑誌社の所属ですか?」 「僕はどこにも籍をおいておりません。フリーのジャーナリストです」

2014-10-02 13:21:10
アドリア海2 @phortl

これを聞いて自分はあっと思った。 フリージャーナリストを名乗る人間ほど胡散臭いものはなく、多くは営業実績を持たない基地外であると自分は経験則的に知っていた。実際のところかつて自分が失った旧友自体がその「自称ジャーナリスト」だったのだ。

2014-10-02 13:25:33
アドリア海2 @phortl

「フリージャーナリストの人が、どうやってXXさんや僕のことを救うことができるというのですか?」 「XXさんは怯えていたでしょう?」 「・・・・」 「近々自分が死ぬことになると震えていたのでしょう?」 「・・・・」

2014-10-03 15:13:55
アドリア海2 @phortl

「そういう哀れな犠牲者は、実のところを言うと彼だけではないのです」 「はあ」 「今年に入ってから、僕が知るだけでも、3人が同じような末路を遂げているのです」 「末路というと死んだのですか?」 「はい」

2014-10-03 15:15:44
アドリア海2 @phortl

「その人たちも焼死ですか?」 「いえ、死に方はいろいろです。どれも見てくれは事故で片付けられるようなものですがね。ただおかしなことに、彼らは皆死ぬ直前になって、自らの死と、その大体の日付を、知己の者相手に言い当ててから亡くなっている。XXさんだってそうだったのではないですか?」

2014-10-03 15:23:44
アドリア海2 @phortl

「・・・・・・」 「XXさんもあなたに自身の死を宣告して見せたのではありませんか?」 「・・・・・・」 男がゲストハウスでの出来事をあまりに的確に看破してくるので自分はものも言えず硬直するしかなかった

2014-10-03 15:27:49
アドリア海2 @phortl

「僕はね、そういった被害者達が誰に何をされたのかを記事にして世に知らしめることにより、その御霊を救済したいのですよ。実際彼らは何者かに命を奪われたわけだから。これはもう間違いがない」 「・・・・」

2014-10-03 15:34:09
アドリア海2 @phortl

「またそれがかなえば加害者たる何者たちかも迂闊に行動することができなくなる。それはめぐりめぐってあなたの身の安全につながるのです」 「じゃあ僕の身は現状安全とは言えないのですか?」 「だってあなたXXさんから何か聞いたでしょう?」 「・・・・・・」

2014-10-03 15:35:38
アドリア海2 @phortl

「その内容があなたの脳内のみに存在するのであれば、あなたの生命が脅かされることになったとしても、何の不思議もないでしょうね」 「・・・・・」

2014-10-03 15:43:47
アドリア海2 @phortl

「ですから私としては、あなたがXXくんから得た言葉についてこちらにも教えていただきたいのです。さすればまず私という別な人間がそれを知る。のみならず私はそれを記事にまでする。そうすればあなた個人が付け狙われねばならぬ理由はなくなるわけです」 「・・・・・」 「話してくださいよ」

2014-10-03 15:48:14
アドリア海2 @phortl

確かに自分はXXから二つの言葉を渡されていた。ただそれはあくまで彼の妹宛の伝言として託されたものであり、また生前の彼はそれがよそに漏れることをひどく恐れ嫌っていた。ここで自身の生命云々について脅されたところで、安易にそれを口外することはいささか誠意を欠く行為に思えた。

2014-10-03 15:53:28
アドリア海2 @phortl

何より相手は素性の知れぬ「自称ジャーナリスト」であり、彼の話した内容がどこまで真実であるのかについては自分には知りようもなかった。XXがあの夜自分を相手に自らの死を予告したという事実を見切っているあたり、ある程度の事情に精通しているようではあったが

2014-10-03 16:22:26
アドリア海2 @phortl

例えば男の話どおり本当にXXを含め4人の人間が葬られていたとして、その手を下した当人がこの男でないという保証を、その段階での自分はどこへも求めることができなかった。

2014-10-03 16:24:06
アドリア海2 @phortl

「話したほうがいいよ」 男はまたぞんざいな口調に戻り、情報の提供をねだった 「それでみんな助かるんだからさ」 「ちょっと」 「うん」 「ちょっとよくわかりません」 「うん?」

2014-10-03 16:30:26
アドリア海2 @phortl

「あなたが言っていることのいろいろ中身だとか」 「うん」 「あと、XXさんがあの日何を言っていたかも、今となってはあまり覚えていないというか」 「XXが自分の死を宣言したのは覚えてるでしょ。認めるよね?」 「いやそれも急には思い出せないというか」 「あ~そういう事言い出すわけだ」

2014-10-03 16:35:53
アドリア海2 @phortl

電話の向こうで男はふごふごバルタン星人のように笑った 「あんたあれでしょ、僕のこと不審者か何かと思ってるわけでしょ」 「いや別にそういう」 「僕はあれだよあの、いわゆる正義の味方だから」 「はあ」 「闇金界隈なんかも僕のこと結構恐れてたりするから」 「はあ」

2014-10-03 16:42:44
アドリア海2 @phortl

「じゃあさ、僕が別に怪しくない人間であるってことを証明するために、あなたにだけ今書きかけの記事をpdfで送るから」 「はあ」 「だからメールアドレス教えてくださいよ」 「ええと」 「捨てアドでいいからさ」 「はあ」

2014-10-03 16:48:11
アドリア海2 @phortl

「いやあなたもうこうして電話番号だって割れちゃってるわけだしさ、別に捨てアドの一つや二つ別に隠す意味もないわけでしょ?仮にあなたが僕を警戒してるにしてもさ」 「はあ・・・」 「だからさ、ほら、教えてくださいよ」

2014-10-03 16:53:02
アドリア海2 @phortl

悪い意味で、男の言うことには一理あった。結局自分は手持ちのフリーメールアドレスを一つ男に渡した。 彼は 「とりあえずそれを読んでみてくださいよ。それで気が変わったら知っていること教えてください。変わると思うけど。明日また電話するから」 と言ってふごふご笑いながら通話を切った。

2014-10-03 17:23:29
アドリア海2 @phortl

5分後そのアドレスのメールボックスに、pdfファイルが一つ送られてきた。 開いてみると半アマチュアがフリーのDTPソフトで作成したような安っぽさを漂わせるレイアウトにて、その記事は書き綴られていた

2014-10-03 17:41:34