東→荒←真

東堂さんと真波くんが荒北さんを取り合ってるだけの話。
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いちはら @nicowwwouo

「チィース」 気怠げな挨拶と共に部室に足を踏み入れた荒北は、目の前の光景に眉を顰めた。 「…何してんのォ?東堂」 荒北の不審そうな声に東堂が振り向く。 「おお荒北!これを見てくれ」 そう言って東堂が指差した先、彼の足元ら辺に視線を落とすとそこに横たわる人物がいた。

2014-10-09 23:31:22
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「…あ?真波?」 「そうなのだ。俺が部室に来たらすでにこの状態だった」 全く、人が倒れているから何事かと思ったぞ。と東堂。 真波はすやすやと眠っていた。 きっとまた授業をサボって山でも登ってたのだろう、髪が汗で濡れている。

2014-10-09 23:31:52
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 荒北はチッと舌打ちすると真波の前にしゃがみ込んだ。 「おいコラ真波!テメェんなとこで寝てんじゃねぇヨ!」 風邪引くだろうがぁ!と荒北は真波を揺さぶった。口調は乱暴だが言ってる事はただの親切だし揺さぶり方も優しい。

2014-10-09 23:32:17
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 東堂は目の前でしゃがみ込む荒北の背中を眺めながらにんまりと笑う。こういった荒北の優しさが東堂は好きだった。 「…ん……」 真波が小さく息をもらし、うっすらと瞼を開けた。 「む、起きたか?」 「ったく、やっとかヨ」

2014-10-09 23:32:41
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 荒北が顔を覗き込むと寝起きのぼんやりとした目がこちらを見ていた。 「この寝ぼすけが、早く起きろよ」 拳で軽く額を小突いてやると荒北は立ち上がり、ジャージに着替えるために自分のロッカーに向かおうとした。 「ん〜…母さんもうちょっと寝かせてよ」

2014-10-09 23:33:07
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo ピシリ、と荒北の動きが止まる。東堂は真波の明らかに寝ぼけた発言に吹き出した。 「真波ィ…寝ぼけてんなよ?」 「あれ?荒北さん?」 眠気から完全に目覚めたらしい真波は、荒北のドスの効いた声にきょとんとしている。

2014-10-09 23:33:42
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「真波…お前今寝ぼけて荒北の事を母さんと呼んでいたぞ」 肩と声を震わせながら東堂が言う。明らかに笑いを堪えきれていない様子に荒北が無言で東堂の頭をはたいた。 「痛いではないか!」 「ウッセー!肩も声も震えてんだよ腹立つ!」 「理不尽だ!」

2014-10-09 23:34:02
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「何か荒北さんの手つきが優しくてお母さんみたいだな〜と思ってたら、口が勝手に母さんって言っちゃいました」 ごめんなさぁいと悪びれる様子もなく言って笑う真波。 どうやら先程の自分の発言は覚えていたようだ。 荒北と東堂の動きがピタリと止まる。

2014-10-09 23:34:33
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「ふむ…荒北が母親か…」 何やら考え込む東堂に嫌な予感しかしない荒北は顔を引きつらせた。真波は呑気に背筋を伸ばしている。 「ならば、父親はこの俺だな!」 ドーン!と効果音が付きそうな勢いで声を発した東堂に荒北がまた無言でその頭をはたいた。

2014-10-09 23:35:01
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「痛い!2回目だぞ⁉︎」 「突然意味わかんない事言わないでくれナァイ?」 「意味がわからないとは何だ!荒北が母親なら父親は俺だろう⁉︎」 「だからそれが意味わかんねぇんだよバァカ!あと真波ィ!俺お前の母ちゃんじゃねぇからァ!」

2014-10-09 23:35:25
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 2人の言い合いを呑気に眺めていた真波は、荒北に怒りの矛先を向けられ、分かってますよ〜とへらりと笑った。しかしすぐに、あ、でも…と言葉を切ると 「荒北さんがお母さんなら俺、お父さんやりたいなぁ」 と、にこやかに言い放った。

2014-10-09 23:35:52
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「ふむ、それは聞き捨てならんな。真波よ」 真波の発言に待ったを掛けたのは東堂だ。クライマーというものはどうやら空気を読めないらしい。荒北のこめかみに青筋が浮かんだ。 「荒北の旦那はやはりこの俺だろう」

2014-10-09 23:36:12
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 「えー、俺も荒北さんの旦那やりたいですよぉ」 真顔の東堂と笑顔の真波。互いに譲らず問答している内容は、いつの間にかどちらが荒北を嫁にするかにすり替わっている。 荒北は考える事を放棄した。2人を放置して自分だけジャージに着替え始めた。

2014-10-09 23:36:37
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 荒北は知らない。 2人の言い争いがまだ暫く続く事を。 荒北は知らない。 数分後遅れて部室にやって来た新開が、言い争っている2人に事情を聞くなり 「靖友の旦那は俺だろ」 とバキュンポーズをする事を。

2014-10-09 23:37:27
いちはら @nicowwwouo

@nicowwwouo 新開のその発言によって、三つ巴の戦いが始まる事を、この時の荒北はまだ知るはずもなかった。 END

2014-10-09 23:37:57