「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」 #6
上空ではどこかの企業のチャーターヘリがヒュンヒュンと音を立てて飛んでゆく。バリキ・ドリンクの空き瓶が転がってきて、ギンイチの靴のつま先に当たって、止まる。編み笠をかぶった電子浮浪者たちはマイコ・センターの看板を手に持って、雨の中、棒立ちになっている。そうして日銭を稼ぐのだ。
2010-11-06 00:03:26ギンイチは自問した。どうしてイチジクは自分の前にあらわれたのだろう。どうして自分は「反射神経ストーム」、あの無機質な高揚、電子タンクの残像の世界から、進んではみ出したのだろう……そして、どうして? ……だからって、どうして、こんなひどい結末を、運命は用意して、待っていたんだろう?
2010-11-06 00:09:40気づけばギンイチはアスファルトに膝から崩れ落ちていた。こうしている間にもあの異常ニンジャは無意味な殺戮を続けていることだろう。いずれその魔の手はイチジクに及ぶ。そしてギンイチは何もできない。それを止める手立てを持たない。今では道行く人々もまばらだ。電車が終わったからだ。
2010-11-06 00:16:23どの道、声をかける手立てもない。助けを求めたところで、進んで見ず知らずの人を殺人鬼から助けようとする者などいるわけがない。いたとして、あのニンジャに勝てるわけがない。……ハッポー塞がりの絶望であった。ギンイチの胸中に、次第に悲愴な決意が育ちつつあった。
2010-11-06 00:19:50戻ろう。「ヨタモノ」に戻って、イチジクを助けるんだ。そして殺されよう。後悔を引きずって惨めに生き続けるよりは、美しい記憶でこの人生を閉じてやろう。素敵な女の子に話しかけられて、心揺さぶられる音楽に触れた。あとは素敵な女の子のために命を投げ出して、この記憶を永遠のものとしよう。
2010-11-06 00:24:44雨の中、ツカツカと歩いてきた男が、うずくまるギンイチの前で立ち止まった。泥水が撥ねた。進路を妨害してしまった。「スミマセン」ギンイチはよろめきながら立ち上がった。脇に退いたが、男は行かなかった。ハンチング帽を目深にかぶった男は、低く問うた。「さっき『ニンジャ』と言ったのはお前か」
2010-11-06 00:30:26「アイエエ……」ギンイチは震えて後ずさった。男はさらに一歩近づいた。「お前だな。確かにお前の声だった。……『ニンジャ』。『ヨタモノ』。間違いないな」
2010-11-06 00:35:42「ア、アイエエ……」ギンイチはさらに後ずさった。男はさらに一歩近づいた。ギンイチの背中にモジョ・ガレットのセルフサービス屋台がぶつかり、横倒しになったが、男は意に介さなかった。「『ヨタモノ』にニンジャがいるのだな?」
2010-11-06 00:39:51ギンイチはからからの喉から声を絞り出した。「タスケテください、タスケテ……僕には何にもできないんです……」涙が溢れ出した。男はハイともイイエとも言わなかった。ただ、その瞳は、ゾッとするようなマッポー的表情を浮かび上がらせていた。憎悪と……愉悦!
2010-11-06 00:45:12「イヤーッ!」男はバク転とともにハンチング帽と耐重金属トレンチコートを脱ぎ捨てると、そのまま頭上の「おいしい食べ物です」と書かれたネオン看板を蹴って跳び、ギンイチの視界からいなくなった。赤黒のぼんやりした残像がギンイチの網膜に一瞬焼きつき、消えた。
2010-11-06 00:57:13「ア、アイエエエエエエ!」「アーッ!アーッ!もう、イイーッ!」アゴニィは自分の体を激しくねじって悶絶していた。「すごくイイーッ!」「アイエエエエエ!」 カンタロは4本目のタタミ針を心臓のすぐ脇に打ち込まれ、口からあぶくを噴出した。エビジは既にカンタロの隣でオブジェ化している。
2010-11-06 01:03:56一人殺すと、次はその一番近くのパンクスが標的となる。野蛮な喜びを味わい高揚しているのか、アゴニィが犠牲者にタタミ針を突き刺すスピードは徐々に速くなっている。カンタロの一番近くで目に涙を浮かべ凍りついているのはイチジクである!
2010-11-06 01:08:07カンタロに屈み込む長身のアゴニィが、ぐるりと首を動かし、イチジクを見つめた。「ああ……あなた素敵です、早くあなたの番にしたいですが、この、じらされている感じが、とてもイイーッ!」「ア、アイエエエエ!」
2010-11-06 01:12:30五本目のタタミ針がカンタロの鎖骨の中心に突き刺さる!「アイエエエエエエ!」 「イヤーッ!」「イイーッ!?」
2010-11-06 01:14:11ブルズアイ! それはさながら赤黒のボブスレイ・スレッドがまっしぐらに階段を滑り降り、入り口のノレンを潜り抜け、弾丸のごとき勢いで衝突してきたかのようであった。不意を打たれたアゴニィは側頭部に直撃を受け、不自然な姿勢で壁に叩きつけられた。
2010-11-06 01:20:59トビゲリ・アンブッシュを成功させた突入者は反動でバク転しながらDJブースへと跳んだ。そしてターンテーブルの上でいまだクルクルと回転し続けていたモクギョコアDJの死体を横から蹴り飛ばし、自らがターンテーブルの上に膝まづくと、稲妻のようなチョップで機材を破壊。回転を停止した。
2010-11-06 01:25:06「い、イイーッ!」アゴニィは素早く3連続の前転でDJブースに接近し、ブリッジの姿勢から突入者を見上げた。「すごくイイーッ!誰ですか、あなたは……」ブースのLEDボンボリが、突入者の赤黒の装束を、そして「忍」「殺」と彫金された恐ろしいメンポを照らし出した。
2010-11-06 01:31:08「あー……あなた、ニンジャスレイヤー=サンですね? ハジメマシテ、アゴニィです」ブリッジした姿勢のまま、アゴニィがアイサツした。「痛めつけ合いましょう、ニンジャスレイヤー=サン」
2010-11-06 01:38:06「ドーモ、ハジメマシテ、アゴニィ=サン。ニンジャスレイヤーです」 ターンテーブル上からニンジャスレイヤーがアイサツした。「……ニンジャ殺すべし」
2010-11-06 01:40:04