軍師官兵衛

ヤハヴェー先生、軍師官兵衛を大喝破

【「軍師官兵衛」のここがおかしい②～大陸遠征は狂気の沙汰だったのか？】

大河ドラマは開始以来、豊臣秀吉の大陸侵攻を無謀で無意味、朝鮮王国に対してはけしからん侵略行為であって、秀吉は頭がおかしくなったに違いないと排撃するのがおきまりになっています。軍師官兵衛でも単純な征服欲の発露でみんな反対していたのにと一方的な描かれ方です。戦前は快挙とされていたのと１８０度ちがうのですが、戦前も戦後も極端すぎます。
いってみれば、天下統一は企業が全国展開に成功したのと同じで、そのあと、海外進出はひとつの選択肢。企業の初めての海外投資に反対する社員が多いのは普通のことですし、一方、みんな嫌がっていたはずもありません。
また、古来、領土を広げるとか、貿易を求めて軍事行動を起こすことはそんなにけしからんと考えられてきたのでしょうか。韓国の歴史をみても、新羅は日本の支配下にあった任那を奪い、友好国だった百済を唐とともに滅ぼし、唐から百済や高句麗の故地を攻め取りました（それ以前に統一国家であったことは一度もなく一つの民族を形成していたわけでもありませんから侵略です）。また、高麗も李氏朝鮮も北へ領土を広げてますし、元とともに日本に侵略戦争を行いました。
天下統一を果たした豊臣秀吉は、南蛮人の進出に危機感を持ち、彼らに頼らない貿易を明に求めたのは、もっともなことでした。明が朝貢貿易しか認めないという政策をとったことは、不当でしたし、アジアの経済発展の障害になり、それはやがて西洋諸国による植民地化の遠因になりました。この打破を秀吉が狙ったのは正しい考え方でした。そして、貿易が拒否されたら武力に訴えると脅すのは、幕末のペリー艦隊も日本にしたことで、それほど理不尽な行動ではありません。
日本国内の反対を押し切ってという声が強いのですが、企業が海外進出するときの反対に似たもので賛否両論でしたし、二度とやりたくないほど懲りたのかと言えば、そうでもなく、家康も関ヶ原の戦いのときに上杉景勝に上洛を命じたのは、「朝鮮再征」の相談のためでしたし、のちに、明の再興をめざして鄭成功が救援を求めたときは、夢よもういちどという武士がいくらでもいて、徳川頼宣を総大将に出兵直前まで行きました。
秀吉の死から４０年ほどのち、大清帝国皇帝となったホンタイジは、翌年に朝貢や明への派兵の協力を求めました。秀吉の要求と同じでした。朝鮮は同じように拒否したので、ホンタイジは親征を行い、秀吉の遠征の時と違ってソウルを逃げ出さなかった朝鮮王・仁祖は、清への朝貢と冊封を受けること、明との断交、王子を人質に差し出す、賠償金支払うなどして、漢江のほとりの三田渡で、三跪九叩頭の礼をさせられました。国王がソウルから逃げ出して抵抗したり、明か日本が救援のために大軍を派遣しておれば、文禄・慶長の役以上の惨事になっていたでしょう。
ホンタイジは、自らの「徳」と仁祖の「過ち」と両国の盟約を刻んだ碑文を石碑に刻ませ、三田渡に建立させました。この碑が撤去されたのは、日清戦争で日本が勝ったおかげで朝鮮が独立を手にしたときです。
もちろん、豊臣政権による朝鮮出兵は、現代的な視点でなくとも、悪質な侵略です。それは認めなければなりません。ただ、元や清が高麗や朝鮮にしたことと同じことを秀吉はしただけですし、元寇以来の経緯とか自由貿易の要求拒否に対抗するという一定の正当性もありました。この出兵を侵略と非難されるのは当然ですが、高麗が日本を攻めた文永・弘安の役も忘れてもらっては困りますし、中国から侵略されたことを責めるのとバランスをとれた非難であることを望むのも当然のことです。
そもそも、NHKは韓流、漢流を含めてあらゆる侵略戦争を肯定的に扱ったドラマを不適切だとして放送しないポリシーだとは思えません。そうしたなかで、秀吉の大陸遠征だけは、その言い分の正当な部分も何も扱うべきでなく、狂気のさたとして描かねばならないという内規でも作っているとすればおかしなことです。