- omochihazard
- 535
- 0
- 0
- 0
少女は傍らの「彼」だったものに語りかける。彼等の他には何もない、誰もいない世界。それは長い物語。それは語り切れない物語。いつかどこかの物語。真っ白な世界で、一つの選択をする神様の物語。
2014-10-28 20:51:59新たな歴史を歩むべき世界。輝かしい未来を望まれた世界。輪廻の因果を振り払って、新たなページが用意された真っ白な世界。数多の希望を託され、数多の絶望を知り尽くした、神となるべき少女は悩んでいた。傍らには役目を終え、物言わぬ何かと化した存在の姿がある。
2014-10-28 20:52:22今や、神様と成り果てた少女に望まれていたのは、輪廻を繰り返す世界を救うこと。絶望に侵された人類の最後の希望となり、世界に未来を取り戻すこと。未来を取り戻した後には、人々を見守り、管理し、愛し続けること。それが少女の造られた理由で、存在意義だった。
2014-10-28 20:55:02少女であった神様は、自らを七つの欠片に割り砕き、そこに彼だったものを注ぎ入れ、かわりにヒトとしての意識を手放した。生物の無意識の奥底で世界の根幹を成すもの、かつて人類が神から奪った知恵の実。それを模した人工の林檎こそが、この世界であり、神様の正体。
2014-10-28 20:57:24光あれと望まれた白紙の世界は、瞬く間に深くて青い夜空で塗り潰される。全知全能の林檎から生まれた新たな世界は、あらゆる可能性が混在する青の世界。少女自身と、彼だったもの。そして、かつて誰もが願った「明日」の存在する世界。可能性は、未来は、ここにある。
2014-10-28 20:57:55「たったひとりだけ」の神様なんていない世界。誰のものでもない世界。あらゆる種族が生まれ、あらゆる国家が生まれ、世界中の誰もが少女の存在なんて忘れた世界で、今日も新たな歴史は紡がれ続ける。世界は広がり、物語は造られ続ける。それはきっと、いつか少女と彼をも幸福にする結末を育むだろう。
2014-10-28 20:58:59《アサンブラージュ》寄せ集めの芸術作品。いつからか誰ともなく名付けられた誰のものでもない世界。こんな世界は、どんな景色を、どんな歴史を生み出すのだろうか。生きとし生ける民は、語りつづけるだろう。誰にも予測出来ない【未来の物語】を。 《プロローグ 了》
2014-10-28 20:59:29