@sailorsousakuTL @raimu_CT 軽率に転校させる。実花ちゃんのif。 pic.twitter.com/ItQVpBXwrL
2014-10-27 23:27:16当たり前みたいに続くと信じていた日々が、こんなにも呆気なく終わるなんて――私は、思いもしなかったんだ。 息せき切って駆ける、走る、足を動かす。上がった呼吸、心臓は破裂しそうな勢いで血を送り出しているし、廻った血流がごうごうとこめかみのあたりを疼かせて痛む。#軽率に実花を転校
2014-10-29 02:26:54普段のんびりと徒歩で行く道のりをこんな風に必死に走る理由は――認めたくない、信じたくない、事実を確かめるため。 自宅の次に通い慣れた家に飛び込んで、挨拶もそこそこに目当ての相手を探す。 #軽率に実花を転校
2014-10-29 02:27:57……見つけて目が合ったら、いつもみたいに呆れたように「なんだよ、そんな必死になってどうした?」って笑ってくれることを期待してた、の、に。 ようやく見つけた実花、は。 #軽率に実花を転校
2014-10-29 02:30:37ようやく見つけた実花、は。 私の見たことのない――期せずしてお揃いになってしまったセーラー服ではなく、どこか知らない、高校のブレザーを着ていて。 言いたかった言葉を零し落としてしまった私を見て、実花は視線を伏せた。 #軽率に実花を転校
2014-10-29 02:31:54「……あーあ、バレたかぁ。――うん、まあ、そういわけで。さよならだ、美南」 そうして。 まるで知らない人みたいに、初めて見るような表情と硬い声で――ずっと一緒だった日々の終わりを告げた。 #軽率に実花を転校
2014-10-29 02:32:28@null どうやって帰ったのか、覚えてはいなかった。あのあと自分が何か返せたのかさえも。見慣れた色素の薄い髪がふわっと膨らんで、それっきり、実花は私とすれ違ってしまった。 決定的に。 #軽率に実花を転校
2014-10-30 12:12:27@null 「…ねぇ、ミナ姉?」 つぐみが気遣わしげにこっちを見ている。いつもうるさい癖に、二番目の察しの良さを備えたその表情に、心配をかけていることが分かったけれどどうにもならなかった。つぐみは、知っているのだろうか。知って、いたのだろうか。 #軽率に実花を転校
2014-10-30 12:13:12@null 夕食もそこそこに私は部屋に戻った。つぐみにそれを確かめる勇気さえないまま。体に慣らした日常が、のろのろと、でも確実に今日を終わらせる用意をしていた。こんなことを引き伸ばしても、今日が延びることなどないのに。 #軽率に実花を転校
2014-10-30 12:15:00@null ねえ、あんたにとって、私はそんなちっぽけな存在だったの? 本当は私と幼なじみなんて、嫌だったの? ふつふつと浮かんでくる疑問は、誰にも伝えられずに弾けて消える。だって、伝えたい、伝えなきゃいけない相手が、いなくなる。私の前から。今までは、ずっと一緒だったのに。
2014-10-30 12:27:47@null 予感がある。 電話も、メールも、手紙だって、現代には連絡を取る手段はいくらだって存在する。 でも、きっともう実花とは話せない。 だって、私には何も話してくれなかった。 ……失ってから気付くなんて、在り来たりな話しすぎて滑稽だけど。 取り返しなんて、もう、つかない。
2014-10-30 12:37:23@null if実花 幕間 綾葉と実南 「実花からさよならって、初めて言われたんです」 いつだって実花と交わす別れの時の挨拶は「じゃあ、また明日」だった。こんなコトになるまでそれが特別なことだって意識したことがなかったくらい、それは、当たり前だったんだ。
2014-11-08 03:46:20@null ――他のみんなとは普通に交わせる「さよなら」が、こんなにも痛いものだなんて、知らなかった。知りたく、なかった。 「甲埜、さよならの語源を知っているか」 それまで黙ってこちらの独白を聞いてくれていた綾葉さんが、不意にそう投げかけてきた。
2014-11-08 03:47:30@null いいえ、と首を振ると、いつものように手の中で弄んでいたボールペンをことりとテーブルの上に置き、顔を上げた。 「左様ならば仕方ない。どうしようもない理由での別れを受け入れ、惜しみながら贈る言葉だったそうだ」
2014-11-08 03:48:30@null 来夢さんの幕間をうけて 「私だけが、決められる…」 反芻するしかない私を一瞥すると、綾葉さんは静かに教室を出て行ってしまった。一方的に言いたいことだけ言ってくれて、とは思ったけれど、先輩の珍しい助言は素直に有り難かった。後でお礼をしないと、と心の中に記録する。
2014-11-03 22:25:09@null 一人取り残された教室で、ひとつひとつ思い出す。この学校の何処にいても——勿論ここでも、実花の仕草や表情がすぐに脳裏に浮かんだ。なんてことのない一コマ一コマがこんなにたくさん、こんなに重みがあるとは思わなかった。
2014-11-03 22:26:39@null そうだ、仕方ないなんて嫌いだった。 何が左様ならばなのだ。 一方的に切り離された痛みに、ふつふつと怒りが混じる。 会いに、行かなければならない。 痛みは生々しくて、すぐには行けないかもしれないけれど。 私は、実花に会わなければ。
2014-11-03 22:27:10@null 相手との距離を縮めるには、勇気を出して一歩前に踏み出せば良い、なんて言葉はよく耳にする。だけど私とあの子はどうだろう。もう十分すぎるほど近くて、これ以上前へ踏み出したら、ぶつかって、いっそ砕けてしまいそうなくらいなのに。この上さらに近づけというのだろうか。
2014-11-04 21:46:43@null お互いのことだって、知りすぎるくらい知っている。楽しい思い出も、悲しい思い出も、思い返せばだいたい半分にわけているんじゃないだろうか。どんな話の展開が好きかもわかるし、どれだけ踏み込んだら怒らせるのかもよく分かってる。たぶん、あっちだって同じ。
2014-11-04 21:48:32@null だからこそ分からない。 持て余したこの感情が、今までの延長線上にあるのか、そうじゃないのか。いつも決めたらすぐ動き出すはずの私の足が、あの子に対してだけは、なぜか、重い。 「……」 口に出したはずのたったふたつの音は、私自身の耳にも届かずに消えていった。
2014-11-04 21:50:05@null 揃って星空を見上げる。子どもの頃は二人入ってもまだまだ余裕があったはずの秘密基地は、大人になった今では、窮屈になってしまって、それが少し寂しい。 幼い私たちと、今の私たち。否応無く、横たわる時の流れを感じてしまう。
2014-11-06 00:30:10@null 人が変わるには十分すぎる年月。私たちはあまりにも近すぎて、互いの変化に鈍感だったんだろう。 だから、きっとあの日の別れは無駄なんかじゃなかった。
2014-11-06 00:33:39@null 今になって思う。姿がぼやけるくらい離れて、互いの熱を忘れるくらい時を置いて、変わってないと信じていた幼なじみが、成長していたのだと理解するくらいの距離と時間が必要だった。
2014-11-06 00:34:25@null 言葉はない。 合わせた背中は熱を持ち始めていて、どうしたら良いのかわからなくなる。 ちらりと視線を落とすと、私の手のすぐ近くに、可愛らしい手のひらを見ることができた。
2014-11-06 00:35:22@null じり、と。 ほんの僅かだけ、指先を動かす。気付いている様子はない。もう少しだけ、もうちょっとだけ。 そして。 こつりと、私の指先が、あの子の手に触れた、その瞬間。 背中越しに、ぴくり、と反応してくれたことが、わかった。
2014-11-06 00:36:01