座敷鎮守府「追撃、氷山装甲空母姫」編◆艦これSS◆その2

座敷犬 @zash_dog

やるぞ(半月ブランク)

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前回までの座敷鎮守府 アリューシャンにおける陽動作戦に成功したリンガ泊地艦隊。 しかし変わり果てた姿でやってきた提督の旧友、カンナギと 提督に下された指令が座敷鎮守府を新たな戦いの渦中へ巻き込む。 #座敷鎮守府

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泊地へ帰り着いて3日後。僕は北太平洋の潮風に吹かれていた。6万トンの解体寸前のタンカーを徴用した改装艦娘運用母艦「つるぎ」、その後部甲板の上。ウェルドックから出ていく艦娘達を見送り、帰ってくる艦娘達に手を振り。 #座敷鎮守府

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氷山装甲空母姫の捜索、ついでに敵のミッドウェー作戦への介入行動の監視と阻止。僕達の任務だ。後者は兎も角、前者はどうしようもない、としか言いようがなかった。衛星写真からはっきり分かる程の巨体を持ちながら、空母姫はその痕跡を殆ど残していなかった。 #座敷鎮守府

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そもそも深海棲艦が既存の監視網に引っかかる事などほぼ有り得ないのだ。例外は強力な個体ーー鬼、姫。それ等ですら艦娘達の目、妖精達の目と組み合わせなければ見えない。それが機械の目に捉えられた。どんな力を持っているか予想もできない。 #座敷鎮守府

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ヘッドセットから聞こえる声に成果は期待できなかった。前方のヘリ甲板を行き交いするティルトローター機からの報告は尚更だ。冷風が僕の体温を蝕む。日中のシフトがひと通り終了し、その日の捜索は打ち切られた。 #座敷鎮守府

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ブリッジの日中の要員達と夕食を共にした。発熱剤とセットになったカレーライス――合成食品のそれで今日が金曜日だと気づく。宇宙軍時代、ミサイル艇母艦での夕餉を思い出しながら体の芯に熱を入れる。合成物でも美味い物は美味い。続くと嫌になるだけであって。 #座敷鎮守府

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周りは本土の面々だ。余り話題の合う連中ではないが、少なくとも邪険にされている様子はない。僕より少し若い位の航海士――今の時代はコンピュータと向き合うだけの仕事だ、と話す。「そういえば今回は、この『つるぎ』の5度目の航海なんですよ」 #座敷鎮守府

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5度か。「はい、自分にとっては初めての艦なんです。処女航海からロートルだの何だの言われて何時深海の奴らに沈められるか、なんて言われてましたけど」彼は苦々しく笑った。船が3年保たないとも言われる末法の海。それが僕達の戦場だ。 #座敷鎮守府

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処女航海――就役前の航海。回航。艦娘を知るため、と読み漁った物理書籍が思い浮かばれる。嘗て史上最大の名を戴いた空母。未成の建造番号110号艦。もしあの氷山空母があれと同じく「未成」だとしたら？夕餉を掻き込み、端末を取り出す。 #座敷鎮守府

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呼び出すのはあの部屋で見せられた3Dモデル。よく観察しながら深海棲艦達を思い出す。多くが何らかの砲を持ち、それ等は外部に露出される。まるで自分が艦船だと主張するように。だがこのモデルにはそれは見当たらない――飽く迄「予想される姿」ではあるが。 #座敷鎮守府

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備わっているのは8つの航空甲板だけのように見える。衛星写真を見てもそれは同じだった。姫や鬼クラスの多くが砲戦能力を持つ事を考えれば不自然にしか感じられない。僕は休憩室を離れ居住区――艦娘達の元へ向かう事にした。ここまでは人の考えだ。艦の考えを聞きたい。 #座敷鎮守府

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「"私"も20cm連装砲を持っています」何人かを集め、説明した後最初に口を開いたのは正規空母艦娘、加賀だった。「尤も艤装からは省略されましたが」そう言えばそうだった。接近する水雷部隊を蹴散らす為の重巡並の火力をオリジナルは持っていた。 #座敷鎮守府

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「赤城さんも同様です」赤城。加賀と同じ巡洋戦艦からの改装空母。この場には居ない――オーバーホールを受けている。次に口を開いたのは長良型軽巡洋艦、五十鈴。「"あの"鬼も空母と言う割には砲撃ばかり。迎撃も手応え無かったわ」装甲空母鬼の事か。 #座敷鎮守府

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これ以前にも僕達は何度か鬼、姫クラスと何戦か交えている。装甲空母鬼/装甲空母姫もその一つ。空母と銘打たれている割には砲撃戦の多い印象だった。アウトレンジでは別なのかもしれないが。その他にも3Dモデルを見せ、聞けば「砲/魚雷が無い」と言う。 #座敷鎮守府

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しかしこの氷山装甲空母姫、どこでどうやって建造されたのだろう。多くの深海棲艦はその名の通り深海からやってきたとされるが、氷は水より重いのは自明だろう――半霊的存在に物理法則を求めるのもおかしな話かもしれないが。「そりゃあ港だろう」 #座敷鎮守府

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言ったのは木曾だった。何故そう思ったんだ。「北極から引っ張ってきたとは思えん。もし何の変哲もない氷山を回航してきたなら、それこそ丸分かりだろう」ならどうやって。「凍る港なぞ幾らでも有るだろ、このイカれた気候の地球なら。どれ位氷が出来るかは分からんが」 #座敷鎮守府

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前回までの座敷鎮守府 北太平洋で大型深海棲艦「氷山装甲空母姫」を捜索する座敷鎮守府先遣隊。 しかしこの痕跡は一向に見当たらない。 氷山装甲空母姫が未完成の個体であると推測した提督は、艦娘達との会話で その居場所の糸口を見つける。 #座敷鎮守府

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地軸が歪み気象の狂った地球で使い物にならなくなった「元」不凍港は幾らでもある。その内太平洋に最も近い――音信不通の港。ペトロパブロフスク・カムチャツキー。これまで誰も見向きもしなかった。敵が無人の不凍港を利用する、という先入観故に。 #座敷鎮守府

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軍のネットワークと接続。軌道を周回する監視衛星から最新の画像を取得する。北緯53度1分、東経158度39分――未だに用いられる地軸が歪む前の座標。凍った港が見える筈だった――が、見えない。黒い靄。深海棲艦が機械の目を騙す時の「スクリーン」だ。 #座敷鎮守府

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「だからと言って見に行こう、という訳にもいかないか」僕は独り言ちた。深海棲艦のせいかユーラシアとの連絡はこれまでほぼ不通だ。しかも自動化された領域侵犯迎撃システムは今尚ロシアの領海の多くで動いている。「つるぎ」が立ち入れば瞬く間に対艦ミサイルの歓迎を受けるだろう。 #座敷鎮守府

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取り敢えず「大本営」に黒い靄について報告を入れる。この件は既に僕たちだけの問題では無くなってきている。他国への軍事介入。9条の最大限の拡大解釈が行われた今では可能だが、向こうの行政機能が生きていれば国際問題になり得る。 #座敷鎮守府

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応えたのは僕に命令を下した上級大将。端末の液晶の向こうで白い髭を撫ぜ、唸る。『背広組が絡む問題になる』やはり。案件が膨らみ、僕の手元を離れ始めているのを感じた。『調査を継続しろ、ペトロパブロフスクの件は追って連絡する。――間違えても『攻撃は』するなよ』 #座敷鎮守府