僕と神通のたった1つの約束
- dzurablk_kai
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最低な説得だ、と自分でも思うような、完全なテンプレ台詞 「…なら」 神通はすがるように見上げてくる 「私をさらって逃げて… それなら、まだ一緒にいられるでしょう…?」 「…それも、いいかもな」 ああ、とても素敵だ #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 02:51:22まるでハードボイルドなアニメのように追っ手の陰をまきながら、SF映画さながらの混沌とした路地裏や繁華街を2人、手を引いて駆け巡る… …妄言だ そんなのできるはずがない #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 02:55:51第一、警察以上の能力と言われる憲兵の捜査から一体どうやって逃げ切ると言うのか だが、神通は僕の返答に満足げに、幸せそうに微笑んだ 「…ね? いい考えでしょう?」 #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 02:57:10まるでボーイフレンドとの駆け落ちの夢想を楽しむ、女子高生のような無邪気な笑顔 「やっぱり提督には私が必要なんですから」 …僕にそんな彼女の笑顔が壊せるはずがなかった 「…そうだな 僕にはこれからも神通が必要だ」 #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 02:59:16だから… 「…これからも、僕たちは一緒にいよう 神通」 「提督…!!」 「愛してる… 今までも、これからも…」 そう言って抱き締めたまま、彼女の首もとに麻酔の注射器を突き立てた …僕は生まれて初めて、彼女との約束を破った #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 03:02:03…それからの記憶は曖昧だ 意識の無くなった神通を抱きかかえ解体ドッグに運び込む間、自分が何を考えていたのか、それすら今は思い出せない ただ、解体ドッグの記憶消去カプセル、やや狭いその中に神通の細い四肢を曲げて小さな身体を寝かせた時に、 #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 03:06:58まるで子宮に収まる胎児のようだと思ったことだけは覚えていた …ここで今から彼女は死ぬ 今までの人生を、思い出を、そして愛した僕の記憶全てを消し去り、新たな生命として生まれ変わる そのための儀式のように感じたのだ #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 03:08:47…この日、神通の記憶が消え去るのを確認した僕はその足で軍に辞表を出した そして今思えば、僕の知っていた僕もあの時、確かに死んだのだった #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 03:10:47…思えばあれから、もう三年にもなる 僕は住んでいた宿舎も引き払い、田舎に帰って実家の金物店を引き継いだ 朝夕数回、ボンネットバスが通る道を、ただ眺めるだけが僕の仕事だ #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 03:13:44かつて共に戦った部下たちが今どうしているかは皆目わからないし、調べようという気にもならないし、第一情報のつてもなかった まあ、こんな山奥でひっそり暮らす自分とは、もう二度と会うことも… 「ごめんください」 #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 03:15:39…その時背後から聞こえた声に、店を閉めようかと店の奥に向かって立ち上がった姿勢のまま、僕は凍りついた …聞き慣れた、懐かしい声 まるで優しく抱きしめられているかのような、柔らかな言の葉 「あのう、道に迷ってしまって…」 #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 03:17:49振り返ると真っ先に目に入ったのは、困ったようにハの字型になった眉とそれをなぞったかのような前髪 真っ白なワンピースとつば広帽に、吹き込んだ初夏のそよ風がロングヘアーを弄ぶ 「あら、あなたは… 以前、お会いしたことが…?」 #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 03:21:00「いや… 名はなんと?」 しばし彼女はきょとんとしてから、僕に向かってこう言った 「…もう、いやですね提督ったら 神通のことをお忘れに…あれ? 私、今、変なことを…」 #僕と神通のたった1つの約束
2014-11-16 03:23:57