えきまLGSで、たぶん一番ずるい遊び方をしたPCの話

ねぼすけさんGMの駅前魔法学園!「Last Girl Standing」の初演、及び補講1回目に『同じPC』で参加した、そのキャラクターのお話。 深山碧(みやま あお)という、一人の魔法少女の絶望と不屈のお話。 つまり蛇足。
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(宛名の記述はなく、机の上に数枚の便せんだけが残されている)

六年間。
それは私にとって、長い苦しみの日々でした。
六年前に私は、掛け替えのない親友を喪った。
必死に伸ばしたこの手は、あと一歩の所で絶望と自己嫌悪に囚われたあの子の心に届かず、そして全ては取り返しがつかなくなってしまった。
私は親友だけでなく、同じ魔法学園の仲間も、両親も、あの子との思い出が詰まった街も……自分が暮らしていた世界さえも喪い、さらに私自身すらも常闇に蝕まれ、本来の私の全ては奪い取られてしまった。
そんな状況から奇跡のように救い出された私にとって、この世界はどうしても馴染めず違和感が拭えず……孤独を突きつけられるかのようでした。
何故私だけが生き残ったのだろう。そんな罪悪感ばかりが膨らんで、押し潰されそうで。
いっそ死んでしまいたい。そんなことを何度も考えました。
大切な友達を救うことも出来ず、誰一人私を知る人の居ない世界に取り残されて。

暁成さん。貴方が居なければ、きっと私は本当に何もかもを棄ててしまっていたと思います。
常闇に呑まれた私を救ってくれて、罪悪感に苛まれる私に寄り添ってくれて、独りで立ち竦んでいた私を外へ連れ出してくれて。
そんな貴方を、私はまるで子供の頃夢見た白馬の王子様のようだと、ずっと思っていたんです。
きっと暁成さんは、こんなことを聞いたらまた笑うんだろうけど。
でも本当に、貴方が居なければ私は今ここで、こんな風に手紙を書くことも出来なかったんです。
ありがとう暁成さん。貴方が私を救ってくれました。
弱虫で、臆病だった私を貴方が変えてくれました。
知ってますか? 今、私は魔法学園でみんなから「アニキ」なんて呼ばれてたりするんですよ。
みんなから頼られる自分になれたのも、貴方が私に強さをくれたからです。
本当に、この六年間、ありがとうございました。

ごめんなさい暁成さん。
これまでたくさんのわがままを聞いてもらっていたのに、今夜、私はこれまでで一番酷いことを貴方にしてしまいます。

今夜、ワルプルギスの夜が来ます。
私の世界を奪ったあの恐るべき絶望が、とうとう来てしまったんです。
この六年間、きっとこの世界にも来るに違いないと思っていた日が、ついに来てしまったんです。
だから私は……戦わなければなりません。
この世界の白石絵理香を護るために。
この世界の白井絵理香を護ろうとする、この世界の私を助ける為に。

暁成さん。きっと、これが私がこの世界に飛ばされてきた理由なんです。
彼女に、火々里に私と同じ失敗をさせない為に、私と同じ涙を流させない為に、きっと私はここへ導かれたんです。
だから私は、自分の為すべきことを果たしに行きます。

暁成さん。貴方がこの手紙を目にしているということは、きっと私はその戦いから帰らなかったんでしょう。
でも暁成さん。どうか悲しまないで下さい。
だいじょうぶです。私は死んだりしません。
感じるんです。私と、この世界の私の中にある力が、どこかと響き合っているのを。
もし私たちが負けなければ……そしてもし、その時まだその響きが残っていれば。
きっと私は、この世界を飛び出すと思います。

あのね、暁成さん。笑わないで聞いて欲しいんだ。
きっと私、何もかもやり直せると思うの。
夢物語かもしれない。荒唐無稽な話かもしれない。
でも、私と、もう一人の私が居れば、壊れてしまった世界だって“巻き戻せる”って、感じるの。

だからね、暁成さん。私がもし帰ってこなかったなら、きっとやり直しに行ったんだって、そう考えて欲しいな。
だから……そうしたら、しばらく、お別れです。

ごめんね。私って、結構自分勝手だったみたい。だから、今度逢った時はいっぱい叱ってほしいな。
だいじょうぶだよ。やりなおして、うまくいったら。絶対また会いに来るから。
絶対、絶対に会いに来るから。
だって、暁成さんは私の運命の人だもの!

またね!

もう一通は、平行世界の「わたしじゃないわたし」である、一人の少女へ。

****************

火々里へ

きっとこの手紙を読んでいる頃、私は貴方に全てを告げていると思います。
もう話しているだろうけれど、私は別の世界からやってきた、パラレルワールドの貴方です。
私自身も信じられなかったけれど、そう考えるのが自然なんだ。
白石絵理香にとって、掛け替えのない友人で、ACE以外の魔法使いである人物。
それが、火々里であり、私だったから。

火々里は気付いていなかっただろうけど、私はずっと昔から二人のことを見てきたよ。
私にとって絵理香は、助けたくても助けられなかった大切な友達だったから、この世界の絵理香がどうなってしまうのかを知りたかったの。
そこで、貴方も見つけた。

私は、この事件が起きることを知っていた。
正確には、起きるだろうと予測していた。
出来れば何事もなく、明日が来れば良いと願っていたんだけど。

私は絵理香の未来を変えようとした。
ACEに起きる悲劇を、回避しようとした。
けれど私には、あの惨劇を防ぐことは出来なかった。私は彼女たちに近付くことさえ出来なかった。
未来を知っているのに防げなかったこと、その為に貴方たちに様々な苦労と苦痛を与えてしまうこと、申し訳ないと思ってる。

その時私は悟ったの。きっとこの事件は、貴方が解決しなければいけないのだと。
絵理香を救うには、この世界の絵理香の親友である貴方がいなければいけないのだと。
この世界のACEの友達である、火々里たちがやらなければいけないことなんだと。

だから私は、ギリギリまで貴方に全てを話さずにいることにしました。
だから私は、貴方に私が喪った未来を託すことにしました。

ごめんね。私は貴方に、私が出来なかったことを押し付けます。
でも、貴方にどう思われたとしても、私は絵理香を救いたい。
この世界の絵理香は、私の知っている絵理香ではないけれど。

この手紙を貴方が読む頃には、きっと全てが終わっているはずだよね。
そこに絵理香はいますか? 彼女は笑っていますか?
もしそうだったら、嬉しいな。

絵理香のことを、よろしくね。
きっと、言うまでもないことだろうけどね。