「ユーレイ・ダンシング・オン・コンクリート・ハカバ」 #3

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スコルピオンは極度のサディストであった。重犯罪刑務所で拷問を受け不能になった彼は、ナイフで敵をいたぶることによってのみ快感を得られるのだ。傷跡だらけの唇に笑みを浮かべながら、スコルピオンは唸る。「17の時、クリスマスの夜だった。オレは壁に追い詰められ、全裸にされ、背中に刺青を…」

2010-10-21 23:14:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」 突如、スコルピオンの背中に繊細なゴシックナイフが突き立てられる。「グワーッ!」不意を突かれ激痛にあえぐスコルピオン。 振り向くと、そこには違法薬物シャカリキ・タブレットのオーバードーズで勇気を奮い立たせ、痛みと恐怖を克服したカーディナル・ダークソードが立っていた。

2010-10-21 23:17:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カーディナル・ダークソードはもう一本のゴシックナイフを抜き、切先を向けてスコルピオンを威嚇した。だが、ニンジャの前でそんなこけおどしは何の役にも立たない。スコルピオンはサソリ・ファイティング・スタイルのまま迫り、左右からのナイフの応酬で彼の全身を切り裂いた。「アイエエエエエ!」

2010-10-21 23:32:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

肩に排気ホースを備えた戦闘服のような衣装に身を包み、テクノ・オコトを弾き鳴らすVJカンヌシが、「ナムサン」とインカムに向けて絶叫すると、その言葉がかすれた赤文字となってスクリーン上に躍る。サイバービートに合わせた真白なライトの明滅が、キモンの死闘を前衛映像作品のように照らし出す。

2010-10-21 23:35:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

精神の半分をサイバースペースにダイヴさせたまま、ナンシーはキモンでくり広げられる殺戮ショウを盗撮し続けた。ピュリツァー賞級の凄惨な光景のはずなのに、純白のプラスチックのごとき無機質な音と映像に圧倒され、恐怖の感覚が麻痺してゆく。自分も実体無きユーレイであるかのような錯覚に陥る。

2010-10-21 23:48:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マズイわ、本格的にマズイのよ…」未だニンジャスレイヤーからの応答は無い。これ以上サイバー・マッポ課の監視の目を逃れながらIRCチャットを続けるのは、テンサイ級ハッカーの腕をもってしても困難だろう。前頭葉のニューロンがチリチリいい始めた。 ……その時、誰かがぽんと彼女の肩を叩く。

2010-10-21 23:50:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ、ナンシー・リー=サンですね?」 彼女が振り向くと、そこには黒尽くめのニンジャが立っていた。ニンジャ頭巾からはウドンじみた何本ものLANケーブルが延び、背中に負った銀色の通信デヴァイスに接続されている。その目元は360度を監視できる円環型サイバーサングラスに隠されている。

2010-10-21 23:54:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「初めまして。ソウカイ・シンジケートのネット・セキュリティ担当、ダイダロスです」と、ニンジャは機械合成音のごとき不吉な声を発した。 ナンシー・リーは背筋が凍りつくような恐怖と敗北感と死の予感を味わう。ウカツ! ここにいたソウカイ・ニンジャは、スコルピオン1人ではなかったのだ!

2010-10-21 23:55:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あなたのIPアドレスを解析し、ここにいることを突き止めました。私のハッキング能力の前では、ファイアウォールなどショウジ戸も同然なのです」ダイダロスはマジックハンドのような動きでナンシーの首を掴んだ。偶然にも結び目がほどけてゴスドレスが脱げ、コーカソイドのたわわな胸が露になった。

2010-10-22 00:05:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ナムサン、ナムサン、ナムアミダブツ」折しもテクノビートはフェイドアウトを始め、VJカンヌシは説教台の上で両手を後ろに組み、中性的な声でクライマックスを歌っていた。「ナムサン、ナムサン、ナムアミダブツ。ナムサン、ナムサン、ナムサン、ナムサン、ナ、ナ、ナ、ナ、ナナナナナナナナナ-」

2010-10-22 00:34:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その刹那! ジンジャ・カテドラルの暗い天井アーチ付近から八枚のスリケンが立て続けに射出され、ホールにいた誰の目にも留まることなく暗闇をしめやかに切り裂いて飛ぶと、ガントレットのようなサイバー入力デヴァイスを纏うダイダロスの右腕に小気味良くカカカカカカカカ、と突き刺さったのだ!

2010-10-22 00:40:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエエエエエ!」ダイダロスは悲鳴を上げ、ナンシーの首根っこから手を引いてユーレイ・ゴスたちの波の中へと退却した。後方支援役であるダイダロスにとって、ニンジャ相手の戦闘は荷が重い。たとえ姿が見えなくとも、スリケンを使う敵がいれば、それはニンジャとみて間違いないのである。

2010-10-22 22:40:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーはドレスの裾で胸を押さえながら上方を見た。ステンドグラス、鐘、アーチ、どこにもニンジャの気配はない。だがよく見ると、鎖で吊られた六個の大燭台の揺れが、微かに大きくなっている。“それ”は南西のウラキモンから進入してきた。そして燭台を跳び渡り、キモンへと向かっているようだ。

2010-10-22 22:44:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーがキモンの上にある大燭台に目をやるのとほぼ同時に、金属の千切れる嫌な音がし、数百本以上のローソクを抱えた大燭台が落下する。ユーレイ・ゴスたちは誰一人気付かないが、ナンシーの高解像度カメラは、燭台の上で腕を組んで立つニンジャの姿を確かに捉えていた。

2010-10-22 22:52:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グワーッ!」イチタロウ親子への暴力に夢中になっていたスコルピオンは、上空から大燭台が落下してくることに気付かず、その巨大な鉄塊に踏み潰された。そして……タツジン! 大燭台に乗ったニンジャによる絶妙な落下角度調節により、キモン・テーブル上の親子はその下敷きとなる運命を逃れたのだ。

2010-10-22 22:55:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

分厚いヒノキ材とコンクリートで作られたジンジャ・カテドラルの床が陥没し、埋め立てられたハカイシの群れが、薬物汚染された土の中から顔を覗かせる。煙幕弾を撃ち込まれたかのような砂煙が立ち、キモンの一角は視界ゼロ状態となった。消えずに残ったローソクの炎が、ヒトダマのように揺らめく。

2010-10-22 23:00:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この落下で、さしものスコルピオンも死んだか? いや、そんなことはない。彼は間一髪で燭台の落下を察知し、床を殴りつけてヒノキ材を割り、その下に身を潜めていたのだ。煙がたちこめたことは、彼にとってむしろ好都合である。この程度の砂煙は、砂漠地帯で育った彼にとって何の障害にもならない。

2010-10-22 23:03:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スコルピオンは獲物を狙うライオンの眼で、燭台の上に立ち直立不動の姿勢を取る敵の姿を観察した。相手は赤黒いニンジャ装束に身を包み、口元は「忍」「殺」と彫られた金属メンポで隠されている。スコルピオンは知らないが、彼こそはすべてのニンジャを殺す者、復讐の戦士ニンジャスレイヤーであった。

2010-10-22 23:04:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはまだ動かない。いつものフジキドならば、敵ニンジャを完全に殺すため、すぐに次の攻撃に移るはずだ。しかし、今のフジキドの眼は、キモン・テーブルに釘付けになっていた。……この良く似た顔の二人は、どうやら親子か。そしてどう見ても、もはや命を取り留める見込みは無かろう。

2010-10-22 23:10:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サラリマンの顔を見て、フジキドは愕然とする。彼の顔は、フジキドの部屋の壁にかけられた、結婚式の写真の中にあった。彼の名はヤマダ・ヨリトモ副係長。サラリマン時代を過していたフジキドの最初の上司にして、結婚式の仲人をつとめてくれた、大切な恩人の一人であった。何たる悲劇的再会だろう。

2010-10-22 23:18:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

敵が心を乱しているのを見て取ったスコルピオンは、床下に身を潜めたまま、腰に吊ったバンザイ・テキーラを一気に飲み干した。そして燭台に残ったローソクの炎を利用して、カトン・ジツをくり出す。狙いは無論、大燭台の上に立つニンジャスレイヤーだ。

2010-10-22 23:24:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

オムラ社製軍用火炎放射器も真っ青の炎が、ニンジャスレイヤーに襲い掛かる。しかしニンジャスレイヤーは、見事なブリッジで火炎を避けた。さらに三回バク転を決め、キモン・テーブルの上にひらりと着地する。フジキドの中に宿るニンジャソウルが、間一髪で危険を報せたのだ。

2010-10-22 23:31:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ノープロブレッモ!」スコルピオンは両手にナイフを持ち直して床下から飛び出すと、サソリの構えでニンジャスレイヤーに迫った。サソリ・ファイティング・スタイルは無敵だ。カラテだろうがニンジャだろうが、オレのナイフで滅茶苦茶にしてやる。スコルピオンの胸には、慢心にも似た自信があった。

2010-10-22 23:34:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはテーブルの上に片膝を付き、バズーカを撃つような姿勢を取る。それから両腕を素早く回転させ、ピッチングマシーンのようにスリケンを高速連射した。スコルピオンの弱点が飛び道具であると、一瞬にして見抜いたのだ。「イヤーッ!」

2010-10-22 23:38:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グワーッ!」スコルピオンの両目にスリケンが突き刺さり、壊れたトマトジュース・ディスペンサーのように血が飛び散った。スコルピオンはメキシコ語で罵詈雑言を吐きながら、闇雲にナイフを振り回す。ユーレイ・ゴスたちが十人ほど巻き添えを喰って血祭りに上げられた。

2010-10-22 23:39:50