10周年のSPコンテンツ!
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Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor
培養槽に浮かぶは、2つの影。 一つは、右足や右腕の無い、傷だらけの……男らしき者。培養というよりは、保存されているだけに見える。 もう一つは、その男によく似た面影を持つ幼女。男よりかは血色がよく、時折、刺さったチューブやケーブルが邪魔そうに身じろぐ。 #マザーウィル泊地
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「記憶はどんな感じ?」 「良好だ。だが、この顔は私に似ていない気がする」 「なに、不満なの?アンタより長くアンタの顔を見てるわ。アンタがアンタを作るよりは正確にできるわ」 「やれやれ。暇な奴もいるものだな」 「ムラクモの名は伊達じゃないわよ」 #マザーウィル泊地
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「さて。出してくれ」 「はいはい」 培養液が排出され、底に足がつく。幼女はそのままへたり込み……いや、這いつくばる。 「もしかして、完全に人体なのか?」 「ええ。ちょっと私の遺伝子も使ってみたわ。私とアンタの子よ、その躯」 「オリジナルなど、忘れていたぞ」 #マザーウィル泊地
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「真当に動けんな……」 「だからその躯よ。小さいほうが何かと便利だし、女のほうが私達も理解があるから」 「それで。私をこのまま放っておく気か」 「自分でどうにかしなさい」 「やれやれ」 「口癖になったらどうする」 「もうなってるんじゃない?」 #マザーウィル泊地
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いつもの提督の声がスピーカーから聞こえる。示し合わせたように、一機の無人機が幼女に近づき、その身を抱き起こす。 「おい」 「折れたぞ」 無人機が持った上腕が折れていた。見事に、ポッキリと。 「アンタは生まれたばかりよ。あんまり雑に扱うと壊れるわ」 #マザーウィル泊地
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「雑に、とはまた無理を言う」 「痛い」 「無人機ではそこまで繊細なことはできん」 「痛い」 「なるほど、謀ったな」 「痛いと言っている。どうにかしろ叢雲」 「複製で人格転写が失敗したようね。ちょっとワガママだわ」 「これでワガママとは笑わせる」 #マザーウィル泊地
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培養槽から出ることもできず、底で蠢くしかできない。そんな経験の無い幼女には 「あの時の再現か。悪趣味だな」 「そう。やっと気付いたわね」 「なら脚を奪わなければ」 「元々歩けないからいいわ。私が欲しかったのはそれ。アンタが私に助けを求めた初めての……記憶」 #マザーウィル泊地
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幼女には、経験はなくとも記憶はあった。 今とは違う躯で、今とは似て非なる状況で。 「誰が助けを求めた。あの時はお前が勝手に」 「これから作るのよ。ほら」 「趣味の悪い」 「…………助けてくれ。叢雲」 躊躇いの後、棒読みではあったが助けを求める。 #マザーウィル泊地
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「よくできました。もっとこう、感情がこもっているといいわねぇ」 「そういうものは真っ先に消されたからな」 「わかってるわよ」 叢雲の手が。無人機の鋼鉄の腕とは違う、よりより人間に近い柔らかな手が優しくその身を掴み。用意されていた車椅子に運ぶ。 #マザーウィル泊地
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「鎮痛剤をくれ」 「はいはい」 「幼子ではないのだが」 「今は幼子よ」 何の合図もなく、無針注射を打ち込む。 「くっ……」 「もう少し優しくできないのか?」 スピーカーが苦言を代弁する。 「久しぶりだから色々な表情を見せてほしいのよ」 #マザーウィル泊地
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「笑えないから苦しめよう、と」 「アンタの笑顔は私だけが知っていればいいから」 「お前の前で笑った記憶はないが」 「笑ったことがあるのよ。アンタは覚えてないかも知れないけど」 「はぁ……」 「はぁ……」 スピーカーの声と幼女の溜息が重なる。 #マザーウィル泊地
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「ほら、ギプスよ」 手際よく、折れた腕が固められてゆく。 「準備が良すぎて泣けるな」 「泣いてもいいのよ。ここは私しか居ないし」 「絶対に嫌だ」 「涙目よ」 「そうか」 #マザーウィル泊地
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「あれ?叢雲さん、その子は?」 「司令よ」 「実在したんですか!?」 「司令を何だと思ってるのよアンタは」 「いえいえ、流石に一度も姿も見えなければ叢雲さんの頭のなかにしか居ないとかいう噂を立てられてもおかしくないと思いますよ」 #マザーウィル泊地
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「私の頭のなかって……」 「噂でしたけどね。記事にしていいですか?」 「いいわよ」 「意外ですね。あれだけ秘密にしていたみたいなのに」 「話せないことはまだまだ多いわよ。ただ、アンタがそれに到れるかは別だけど」 #マザーウィル泊地
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「どういうことですか?」 「私達は話せない。そういう風になってるの」 「はぁ…………」 「どんなに調べても、私達は咎めないから。それだけは安心していいわ」 #マザーウィル泊地
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青葉の報道が貼りだされていた。私は鎮痛剤の副作用で寝ていたため知らなかったが、私と叢雲が許可したらしい。 「やっぱり提督ですね」 「わかるのか」 「ええ。仕草と言葉の選び方から大体の性格は把握していますから」 この青葉もなかなか例外だなと、改めて認識する。 #マザーウィル泊地
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「検閲はせんと言ったが、よもや感想を聞きに来るとはな」 「ええ、本人の嫌がることはあまりやりたくありませんし」 「ならばこの幼女という表現は勘弁してもらいたい」 「いいじゃない。今は幼女なんだし」 「勘弁してくれ」 叢雲が囃すが、此方はたまったものではない。 #マザーウィル泊地
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「うーん……でしたら少女で」 「許可する」 多少の犯罪臭は拭えた、と思いたい。即応せねば叢雲に何か余計なことを言われそうだ。それは恐らく応じるにも拒否するにも微妙なものだろう。 「良かったわね」 振り向けば、笑顔の叢雲。謀られた。 #マザーウィル泊地
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どうも叢雲には勝てん。特に文句は無いのだが。それでも腹が立つのは腹が立つ。 「私」は他人事のように黙している。そう長くは保たぬとはいえ、自分の分身であろうが。娘であろうが。 「では、次からはその表記に変えますね!ではでは~」 #マザーウィル泊地
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青葉が去っていくのを見送り、盗聴器などが無いことも確認し、やっと「私」が口を開く。 「少女か。相応しくなるのに何年かかることやら」 「保って数年。その期待には応えられんだろう」 「あら。十年はどうにかいけるわ」 どうにか、か。 #マザーウィル泊地
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大規模作戦が終わり、全ての提督が引き上げる。 毎度の事ながら、来た提督と買える提督の数が合わない。消えてしまった。艦娘を残して。 一番騒がしかったあの提督は、無事に輸送船に乗ったのを確認した。笑顔であった。涙の跡が見えたが、知らないふりをしてやる。 #マザーウィル泊地
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私の仕事は、残された艦娘の処理である。 「貴艦らは、私の一時預かりだ。山口に当泊地が到着するまでに、進退・進路を決めておけ」 甲板に残されたプレハブは、憐れな彼女らのためのものだ。右舷第三甲板が、私と彼女らの暫くの住処となる。 #マザーウィル泊地
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「これでよろしくお願いします」 真っ先に来たのは大和だった。 「解体、退役して傭兵か。勧めはしないが」 「いえ。戦って提督の後を追いたいのです」 彼女の提督は無能にしては人望があったのか。今となっては知る由もない。 #マザーウィル泊地
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「無能な提督に、立派な忠誠心だな」 「はい。御し易くて楽な方でした」 「……元傭兵?」 「ええ。本当に戦馬鹿で」 私の傍らにいた叢雲が口を出す。 「ガチタンが大好きで……」 「なんで傭兵ってガチタンが好きなのかしら……」 などと話が盛り上がる。 #マザーウィル泊地
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こうした機微はよくわからない。御し易い、から、何故元傭兵と繋がるのか…… 後は放っておく。自力では動けないことに気付く。私はこれから延々とがーるずとーくに付き合わなければならんのか? 躯とは、なんと不便なものだろうか。 #マザーウィル泊地
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コメント

Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor 2014年12月10日
まとめを更新しました。