え、とちどりだかめじろだかが零した。大家は黙って一口煙管を吸い付ける。そしてその目を細めて小さく笑って―― 「嘘をお言いな」 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #曳舟荘
2014-12-12 19:01:26ふっ、と吐き出した紫煙が小さく炎を纏う。落ちかかる冷たい雨にも拘わらず、それはそのまま鳥屋――を名乗った男に襲い掛かった。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #曳舟荘
2014-12-12 19:03:31「ちょ、え、待っ、あっつうう!!?」避けようとした男がずるりと足元を滑らせた。無様にべちゃりと尻餅をつく。炎はその目前で掻き消えた。衣服には焦げ跡一つ残っていない。呆然としていたちどりがやっと自分を取り戻す。「か、……かごやさん!」 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #曳舟荘
2014-12-12 19:07:57いてて、と言いながら男――籠屋がにやっと笑った。「お久しぶりだな、坊ちゃんたち」どっこいしょ、と声を掛けて籠屋が立ち上がる。黒い二重廻しの下から覗く股引脚絆に草履の軽装。門柱の影にそっと隠した(つもりの)天秤棒と荷物が覗いていた。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #曳舟荘 #籠屋
2014-12-12 19:10:39「成程、ねえ。で、籠屋さんとやら、どうして謀る様な事なすったの?」にこり、と色気のある――それでいて極々意地の悪い流し目を大家は籠屋に投げかけた。ええと、それは、などと言いつつ目を逸らす。その立場の差は明らかだった。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋 #曳舟荘
2014-12-12 19:13:11「いや、さあ、この子らの親代わりなんだけど、どうも……」言いづらそうに籠屋は口ごもる。えー!と声を上げたのはめじろだ。「い、いや、もしかしたらその、来るかも」めじろは眉を寄せて傍らのちどりを見上げる。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋 #曳舟荘
2014-12-12 19:15:00ちどりはというと、だからせめて恰好だけでも等と言葉を重ねる籠屋の胸のあたりを注視していた。と、その懐がもぞりと動く。ちどりの目線の先で、懐からひょっこりと顔を出した何かが――かァ、と鳴いた。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋 #曳舟荘
2014-12-12 19:16:42「あ、ああこいつね!来る途中で雨に降られて懐に飛び込んで来てやんの!変な奴だよな全く!」あたふたと弁明し始める籠屋が真黒なそれを懐から引き摺り出した。その一羽の鳥をちどりとめじろがまじまじと見つめる。随分と大柄な烏だった。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋 #曳舟荘
2014-12-12 19:18:19「で、あんたは逗留なさるの?」大家に声を掛けられて籠屋はびくりと肩を震わせた。「あ、ああ、前泊まった宿があるから、そっちに」ふうん、と気怠く返して紫煙を吐き出す。「まあ、灯りの夜まで楽しんで行きなよ――さっきは驚かして悪かったね」 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋 #曳舟荘
2014-12-12 19:21:06にい、と微笑まれて籠屋は再び跳ね上がる。そして荷物を手に取った。「あ、いや……おれは商売してっから、よかったらまた」じゃあな、と踵を返す籠屋の肩に烏が留まった。あ、と子どもたちが零した声を振り切るように籠屋は歩み去って行った。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋 #曳舟荘
2014-12-12 19:22:39大家とちどりとめじろとは籠屋の背を黙って見送った。「……何だったんだ、一体」独り言のように大家が呟く。めじろが小さく、からす、と零す。ちどりがそれに小さく首肯した。その様子を見て大屋も、――成程、と思ったのだった。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋 #曳舟荘
2014-12-12 19:25:40「さ、冷えるよ。早くお入り」子どもたちの肩に手を添えて、室内へと促す。「灯りが点るまで、あたしの部屋であったまっていくといい」そう言って大家は振り返る。何となく、明日雨が上がったら「空室あり〼」の貼り紙を貼り換えよう、とそう思った。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #曳舟荘
2014-12-12 19:27:52さて、籠屋の道連れとは……
「……あの大家さん怖かったんですけどおおお!!」曳舟荘に声が届かない程度に離れた場所をとぼとぼ歩きながら、それでもいささかの小声で籠屋が吐き出していた。余程応えたらしい。半泣きだ。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋
2014-12-12 21:25:55「いやもう勘弁!おれ驚かされるのには弱いんだよう!あんたのフリしたのは完璧におれの出来心だったけど!!」よよよ、と泣き声を上げる籠屋の肩で烏が舌打ちをした。烏が、舌打ちを、した。 ――俺が知るかってんだ、ったく。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋
2014-12-12 21:27:23話は数時間前に遡る。 この街へ来る途中、鼻歌交じりに歩いていた籠屋は唐突に大きな鳥に襲撃された。光り物も持っていなければ食い物もない。突然襲われる理由など何もない。とりあえず髪の毛を狙うのは勘弁してほしい。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋
2014-12-12 21:29:27「やめてくださいやめてくださいおれを襲っても何も」――おい籠屋!俺だ! 夜の闇もかくやとばかりに黒い羽根の鳥――大きな烏にそう声を掛けられた籠屋は凍り付いた。「……と、鳥にオレオレ詐欺を働かれる覚えもありません!!」 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋
2014-12-12 21:31:17まず人間の言葉を話してることに突っ込めよ、と後で思った。しかしそれどころではなかった。その烏がこう続けたから―― 俺だ、鳥屋だ、と。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋
2014-12-12 21:33:23半信半疑のまま襟首を咥えられて引っ張って行かれた先には鳥屋のものに違いない帽子やら二重廻しやらが落ちていたわけで。結局籠屋は事態を飲み込まざるを得なかった、というのが事の次第というわけだ。「んでさ、どうしてそんなことになったわけ?」 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋
2014-12-12 21:34:47――知らん、と烏は素っ気ない。仕方がないので左様で、と返しておく。怪しい事この上ないが、決まりが悪くてあの子らに会わせる顔がない等とほざく辺り、まあ中身に疑いはないのだろう。この烏はあの鳥屋ということだ。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋
2014-12-12 21:35:49「ま、旅は道連れ世は情け。この街にいる間に戻れたら問題ないんじゃないのかねえ?」――お前、面白がっていやがるな、という言葉を聞き流す。かーごやー、とーりかごー、と戯れの一声を上げて、籠屋は笑った。とりあえず、街の中心部を目指そうか。 #空想の街 #鳥に纏わる掌編 #籠屋
2014-12-12 21:37:29恒例も恒例、 #さるカフェ さんへお邪魔する籠屋と鳥屋。
夏の時は案内してくれなかったくせに。 #さるカフェ の前に籠屋(と烏)は立ち尽くす。「なあ、かふぇーとかおれらには似合わないんじゃ」そう囁くと黙って入れとばかりに側頭部をつつかれた。「あのー、今いいですかぁ?」 @sarukotonagara #空想の街 #籠屋 #鳥に纏わる掌編
2014-12-13 01:16:48いらっしゃいませ。お2人様ですね。カウンターでもテーブルでもお好きな所へどうぞ。お荷物あるなら、そこの窓際のソファが広いですよ。何になさいますか。@ChiKomiya #鳥に纏わる掌編 #さるカフェ #空想の街 夜に映えるのもまた黒。なんだか素敵にちぐはぐな雰囲気の2人だわ。
2014-12-13 01:20:35どうもどうも、と勧められたソファへと腰を下ろす。烏もちょん、と向かいに落ち着いた。何だこれ。「えっと、明日から頑張るぞー!ってなれそうなものを。こいつには」 @sarukotonagara #空想の街 #さるカフェ #籠屋 #鳥に纏わる掌編 ――温まるものを頼む。「喋るのかよ」
2014-12-13 01:27:16