マザーウィル泊地 #17 SoM泊地大整備

雲の向こう、何もわからない場所。 初代雪風は今も「あちら」で生きている。
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Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

ヘリに吊るされ、少し離れた場所に安置される。応力測定機材、非破壊検査機、それらを持った作業員たちがまるで蝉の死骸に群がる蟻のようだった。 続いて脚部。本体が釣られ、脚の根本につっかえ棒がされ、脚だけが自立するようにできた。この本体は近くへと降ろされた。 #マザーウィル泊地

2014-12-19 15:43:07
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

私はここから動けはしない。本体を制御するためだけの存在に徹する。「私」は叢雲と共に宇部へ、私はここで整備が終わるのを待つ。 クレーンなどは使えず、構造体がF21CやMi-26にぶら下がるのを見ながら、不正がないかを監視する。 #マザーウィル泊地

2014-12-19 20:52:10
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

一般艦船のみならず、艦娘の偽装にさえ、建造や整備中に爆弾や盗聴機器を仕込まれるのはよくある。有澤は信頼を第一と考えているが、それでも企業だ。一枚岩とはいかないのが現状だ。GAやBFFから派遣された連中は特に。 #マザーウィル泊地

2014-12-19 21:23:05
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

第一紀に造られ、遥か時を超えて今でも整備できる技術が保たれる。これがどれほど驚異的なことか。 かつての戦艦主砲を製造する技術はミサイルの発展とともに失われ、今の砲兵装技術は全く別の方法によって成り立っているという。 #マザーウィル泊地

2014-12-19 21:43:01
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

どれ程の人間がこの整備に関わるのだろうか。かつては数年がかりで行われたであろう作業が、数日のうちに終わる。 変態とは賛辞である、とは誰が言ったのだろう。ヘリや重量物運搬船がひっきりなしに出入りしては、巨大な部品が交換されてゆく。 #マザーウィル泊地

2014-12-19 22:56:05
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

脚部は完全に分解され、破損箇所や摩耗部品が交換され、フジツボなどの異物が除去されてゆく。場所によっては、魚や貝が出てくる。腐り異臭がするようで、防毒マスクで防いでいる。 今気づいたが、明石や夕張がうろちょろしている。作業服とヘルメットとマスクで気付かなかった。 #マザーウィル泊地

2014-12-19 23:07:52
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「そこはFOD激しいので、もっと強度のある素材のに変えて欲しいんです」 「どんどん載せてぇ!そうそう!」 脚部の関節材料と、甲板砲の話をしているようだ。 休暇を与えたはずだが、どうしてかここにいる。これを休暇と言い張りそうだ。 #マザーウィル泊地

2014-12-19 23:51:40
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

本体、艦橋部の分解が始まる。 甲板軸や脚部関節周り、主砲に機関砲群、そしてメインシャフト。動力を落とし冷ます必要がある。私が最も無防備になる時間だ。 万が一、そのような事があろうと…… ///SHUTDOWN/// #マザーウィル泊地

2014-12-20 00:37:17
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

やっと、私が、私の意識が構成されていく。 揮発した私の意志構造を機械が模してゆく。ここに記録を積み上げて、記憶にしてゆく。記憶、私を私たらしめる最も重要な情報。今の私のような機械が作った模造品ではない。本物の私に近づくための。 #マザーウィル泊地

2015-01-04 09:11:22
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

売られるために産まれ、地獄のような「躾」と言うなの虐待の元で生きてきたこと。 金持ちに売られ、愛玩動物として生きてきたこと。 暇には書を読み耽り、成果を試すために屋敷の住人を皆殺しにし、火を放ったこと。 疑われることもなく焼け出され、孤児院に入れられたこと。 #マザーウィル泊地

2015-01-04 09:30:07
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

長い長い雑多な記憶を全て読み込み、「私」は「私」にならなくてはならない。 孤児院は子供を企業に売って成り立ち、私が好きだった少女も連れてゆかれた。 その意味も知らず、私は企業で教育を受けつつ技師として働いていた。 #マザーウィル泊地

2015-01-04 10:03:44
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

その頃だったか。深海棲艦などという言葉を耳にしたのは。 2015年2月8日、忘れることなどできるものか。左腕と右脚を、そして信じていた「親」を喪った日だ。 記録の上では、深海棲艦の工廠襲撃で5人死傷、ということになっている。 4人死に、私だけが生きていた。 #マザーウィル泊地

2015-01-04 21:04:37
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

頭を打ったか、それとも記憶を弄られたか。私には、朧気な記憶しかない。腕はインシュロックで止血し、それが足りなかった脚は燃える鉄骨に押し当て止血し、近くにいた工員を集めて、どうにか応急処置を使用としていた。らしい。 全員即死。意味はなかったようだ。 #マザーウィル泊地

2015-01-05 06:22:15
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

そして私は企業の病院に回収され……リンクスになった。腕を失った技師など、稼げぬ子は不要という「親」の決定だった。 新たな脚、新たな腕。その対価は、戦い続けること。己に対し技術にのみ価値を認めていた私に、新たな価値が与えられた。再び「親」に売られたとも知らず。 #マザーウィル泊地

2015-01-05 06:34:52
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

深海棲艦による衛星砲の強奪。地上攻撃。海上輸送路の断絶。対する、エーレンベルクとネクスト戦力によるコジマ汚染。 誰もが、生きるために戦った。その望みが、叶ったものは少なかったが。 #マザーウィル泊地

2015-01-05 08:46:30
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

提督が壊れたが、元々であるため冷静に対処する。押されたままの紅い釦を回して復旧し、サブシステムから順々に起動してゆく。 酒匂は今頃、メインシャフト走り回っているだろう。多数の金剛に制御されているべきそこは、最低限の動力を確保するだけでも多大な労力を要する。 #マザーウィル泊地

2015-01-06 10:06:38
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

私と酒匂は、叢雲に提督を託された。 インターネサインに触れるたび私の知る提督はもういないことを実感するが、その残滓を、遺志を保つことはできる。 「酒匂!EN出力が落ちている!」 『ぴゃああああああああ!!』 酒匂には酷ではあるが、耐えてもらわねば。 #マザーウィル泊地

2015-01-06 10:21:34
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

「おはよう提督」 「おはよう長門。私は私か?」 「おおよそ私の知る提督に構成できたと思う」 「整備状況は?」 「組みあがった。最終検査のさなかだ」 「早かったな」 「人参を吊るしたのは提督だろう?」 「違いない」 #マザーウィル泊地

2015-01-15 19:40:52
Rey.Redeyesers @S_O_M_Harbor

そこら中に立ち並ぶ、1km級クレーン。 組み立てには精度が求められる。脱落した甲板をヘリで吊るして繋いだのは、文字通り応急処置だ。クレーンならば、吊れる時間に制限はない。ゆとりのある作業ができる。 どうやら報酬上乗せに気を良くした作業員が手配してくれたようだ。 #マザーウィル泊地

2015-01-15 19:48:04