艦これ二次創作SS「メリークリスマス・チバシティ」

世界全土を深海棲艦が分断し、海上交通が途絶した未来。人々は原始的共同社会に回帰し、そこに馴染めぬアウトローは洋上のフロンティアへと掃き捨てられた。ヤクザ同士の抗争を大企業群の非合法技術開発試験が加速する。ここはチバシティ。世界に見捨てられ、国土再編を強いられた日本の番外地だ。
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けろきゃ @k6ky

(これから艦これSSを投下します。本編35ツイートを約4分おきに投下し、2時間半ほどの予定です。気になる方はお手数ですがミュート、リムーブなどお願いします。感想・実況などは #ss_k6ky を使用していただくと小躍りして喜びます。それでは、よろしくお願いします)

2014-12-25 17:13:34
けろきゃ @k6ky

「メリークリスマス・チバシティ」

2014-12-25 17:13:48
けろきゃ @k6ky

ナカムラは困惑していた。不知火の個人提督になって数週間。2人の共同生活はおおむね平穏に過ぎた。様子がおかしくなったのは12月に入ってからだ。 1

2014-12-25 17:14:00
けろきゃ @k6ky

彼女は分担した家事もそつなくこなし、おかげでナカムラの生活水準は飛躍的に向上した。事前の取り決め通りの範囲の仕事をし、それ以上のことは一切手を出さない。何につけ不知火はきっちりしていた。それが今月になって、頼んでいない雑事まで急に気立てよくやってくれるようになったのだ。 2

2014-12-25 17:17:23
けろきゃ @k6ky

護衛とその依頼主という関係から考えれば、理由のない余計なサービスということになる。不知火の性格を考えれば不気味ですらある。だが、野心を抱いて《スプロール》に飛び込む前は日本で子供時代を過ごしたナカムラには、心当たりがあった。キーワードは、12月、お手伝い、そして「いい子」。 3

2014-12-25 17:21:35
けろきゃ @k6ky

ミネラルウォーターのストックから一本を取り出し口をつける。日本人のDNAに刻まれた本能めいた強い義務感がナカムラの心中に湧き起こっていた。不知火はサンタクロースを待ち望んでいる。これはもはや疑いのないことだ。ならば行動あるのみ。自分がやらねば誰がやる! 4

2014-12-25 17:25:26
けろきゃ @k6ky

ナカムラの僅かに残った冷静な部分は反論する。不知火の正確な年齢は知らないが、外見からするとサンタを信じるほど幼くはないのでは? そもそも艦娘として一人世間を渡る気概のある不知火が、そんな幼稚な幻想を信じているだろうか? 笑止! サンタクロースは全てのいい子に平等の存在である! 5

2014-12-25 17:29:18
けろきゃ @k6ky

義務感に完全制圧されたナカムラのニューロンがフル回転する。まずはプレゼントだ。欲しいものをそれとなく聞き出し、調達する。不知火の枕元に気付かれずに近付くのは不可能だろうから、姿を見られてもいいようサンタ衣装も必要だ。これら全てを同居人に気付かれずにやり遂げなくてはならない。 6

2014-12-25 17:33:15
けろきゃ @k6ky

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2014-12-25 17:35:02
けろきゃ @k6ky

不知火は困惑していた。同居人があまりに寛大なのだ。今月の頭、掃除をしていた不知火はナカムラがいい加減に積み上げたデッキの山を崩してしまった。こういった機器には疎い不知火にも、デッキのいくつかが壊れたことは一目で分かった。完全に不知火の落ち度だ。 8

2014-12-25 17:37:09
けろきゃ @k6ky

狭い部屋にデッキを散乱させたままにするわけにもいかないので適当に積み直した後、ナカムラにすぐ報告した。ところが彼はデッキの山を一瞥しただけで、笑って許してくれたのだ。不知火は彼の護衛であって、庇護される子供などではない。対等な間柄として当然賠償を申し出たが、それも拒否された。 9

2014-12-25 17:41:09
けろきゃ @k6ky

あまりに申し訳ないので、細かい家事はなるべく引き受けることにした。今度は拒否されないよう、機先を制してさっさとやってしまう。そうして怒られることも嫌味を言われることもないまま数日が過ぎた昼食後、不知火は露骨にプレゼントの希望を聞かれていた。 10

2014-12-25 17:45:29
けろきゃ @k6ky

「なあ、今ちょっとした臨時収入があったとしたら欲しいものってあるか?」ナカムラがこれまで見せたことのない笑顔で話題を振る。「欲しいもの、ですか」デッキの一件があったばかりだというのに、この機嫌の良さは何なのか。臨時収入が入るような仕事など、彼の生活を見る限りなかったはずだ。 11

2014-12-25 17:49:14
けろきゃ @k6ky

「そうですね、昔研究所の演習で借りたナイフはまた使ってみたいですね。握り心地が良くて。確かアメリカ製で、メーカーは…失念しました」とっさに適当な答えを返す。ナカムラは笑顔を崩さないまま、重要な命令を聞く兵士のように頷いた。「アメリカ製か。それなら間に合…いや、なんでもない」 12

2014-12-25 17:53:35
けろきゃ @k6ky

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2014-12-25 17:56:47
けろきゃ @k6ky

それから数日後、不知火の疑問は氷解した。掃除中に、隠すようにデッキの山の隙間に押し込まれていた赤い服を発見したのだ。世事に疎い不知火でも知っている、あまりに有名な服装。ご丁寧に付け髭まで用意してある。プレゼント。家事手伝い。不知火の中で全てが繋がった。 14

2014-12-25 17:57:36
けろきゃ @k6ky

サンタクロースを信じていると思われていることに一瞬気が遠くなり、それからそんなことを思いついた自分の提督が心配になった。最後に残ったのは、チバシティでも有数のカウボーイがサンタを演じようとしているという事実だ。不知火の目が、獲物を見つけた猫科動物のように細まる。 15

2014-12-25 18:01:30
けろきゃ @k6ky

気付いたことを悟られてはならない。家事は今のペースを維持。いや、当日が近づくにつれ、より熱心になっていった方がそれらしいか? どうせなら、ナイフなんかよりリボンとでも言ってやればよかったか。このご時世にわざわざ輸入してくれるようだから、今から変えろとはさすがに言えないが。 16

2014-12-25 18:05:13
けろきゃ @k6ky

サンタ服は痕跡を残さず元通りに戻す。服まで用意してあるということは、その格好で枕元までプレゼントを持ってきてくれるのだろう。なんとかその様子を撮影してやれないだろうか? 獲物を見つけた興奮に支配された不知火のニューロンに、デッキを壊した落ち度など一片も残ってはいなかった。 17

2014-12-25 18:09:25
けろきゃ @k6ky

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2014-12-25 18:12:53
けろきゃ @k6ky

まずはプレゼントだ。アメリカ製だと分かっているなら、国内で探すより輸入した方が確実だろう。《スプロール》時代の知人に衛星回線経由で連絡を取る。幸い不知火がたびたび特徴を話してくれるので、探してもらうのに困難はない。それほど楽しみしているのなら、やりがいもあるというものだ。 19

2014-12-25 18:13:02
けろきゃ @k6ky

並行してサンタ衣装を手配する。物資不足のこんな時代でも、まだまだ娯楽用品の需要はあるらしい。行きつけのバーから知り合いを3人辿って融通してもらった。付け髭が必須という事情がなければもう少し楽だったが。当日までは不知火に見つからないよう、自分の部屋のデッキの裏に隠しておく。 20

2014-12-25 18:17:23
けろきゃ @k6ky

クリスマスまで数日を残し、プレゼントのナイフが届いた。週に数便まで減ったアメリカ直通の空輸便になんとか間に合った。ナイフの代金、探してくれた知人への謝礼や通信費、空輸料金の合計はデッキを幾つか最新モデルに買い替えられる程だが、義務感に支配されたナカムラは何の疑問も覚えない。 21

2014-12-25 18:21:21
けろきゃ @k6ky

不知火が出掛けた間に、思い立ってプレゼントらしく包装することにした。サンタ衣装調達のときにできたツテで、包装用紙は簡単に入手できた。いざ見よう見真似でやってみると、これが意外と難しい。悪戦苦闘していたら、しばらく帰ってこないはずの不知火が急に戻ってきて誤魔化すのに苦労した。 22

2014-12-25 18:25:26
けろきゃ @k6ky

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2014-12-25 18:27:37