【ザ・ヴァーティゴ・グレイト・エクスペリエンス】前編
◆ミーミーからのお願い◆映画館で、ビニールガサガサ、だめ。スマホパカパカ、だめ。ステーキを鉄板で焼いて食う、だめ。◆今日の連さい、ニンジャスレイヤーと関係なし。くっつける、だめ。隠された意図の邪推、だめ。そういうものは、いつも、無い。◆はじまるぞ。◆
2014-12-28 18:30:17「クリスマスがもう終わったって、本当?」イビルヤモトは唐突に操舵席のザ・ヴァーティゴに声をかけた。彼は振り返った。「とっくだぜ」「ワタイのところにサンタは来なかったわさ」「この船は光より速いから追い越しちまったさ」「つまらない」「同感だね。サンタ・ギャルなら何人でも歓迎なのに」
2014-12-28 18:38:16「サンタ・ギャルって何」「つまりさ、サンタみたいな格好で、ミニスカートなんだよ」「うん」イビルヤモトは自室に帰っていった。ザ・ヴァーティゴはあくびをかみ殺し、レーダーを確認する。「表示にラグが……ウワーッ!」宇宙船が強烈に震動!「ウワーッ!」自室から飛び出してくるイビルヤモト!
2014-12-28 18:44:16ドゥワドゥワ……ドゥワドゥワ……アラート音が船内に響き渡る。「うそだ!メンテナンスをしたばかりだぞ」「ボッタクリ車検だわさ!あの野郎、銀河を引き返して絞め殺してやる」KRAAASH!「「ウワーッ!」」「なんだ?舵が効かない……おかしい……」KRAAAASH!「「ウワーッ!」」
2014-12-28 18:46:58「早くリカバーしろヨ!ゲボ出ちゃうだろ」「やっている!」ザ・ヴァーティゴが叫び返した。「故障なのか?何かが……まるで引っ張っている奴が次元の裏側に……」ドゥワドゥワドゥワ……「「ウワーッ!」」やがて操舵室は金色のサイケデリックな光に呑まれた。彼らの叫びはかき消された。
2014-12-28 18:50:31……二週間後!桃色のニンジャ、ザ・ヴァーティゴと、悪魔が創り出した危険なそんざい、イビルヤモトの二人は、象牙色の砂浜で、憮然と焚き火にあたっていた。串に刺した極彩色の魚を焼いたものが旨そうな匂いを放っているが、彼らはこれを毎日三食食べ続けているのだ。ドブのような表情だった。
2014-12-28 18:53:26「またこれだわさ」イビルヤモトが言った。ザ・ヴァーティゴは答えた。「また?あの時は俺一人だった。今回は人数が二倍だ。状況は好転しているさ」……この二週間で、この会話を2500回はした。二人は魚を齧り、ドブのような顔で同時にため息をついた。「……オイ、あれ」「何?」「ワン!」
2014-12-28 18:57:17「……また犬だわさ」イビルヤモトが言った。ザ・ヴァーティゴは近づいてくる犬を凝視した。「オイ!このチワワはチキンナゲットじゃないか?」「ポメラニアン」「このポメラニアンは!」「ウー」犬は焼き魚を食べ始めた。「ステイ!ステイしなさい」霧の中から、飼い主らしき男が進み出た。
2014-12-28 18:59:22「飼い主?」ザ・ヴァーティゴは霧を見た。「俺たちゃ見ての通り遭難者よ。あんたもそうなのかい」「冗談はやめてくれたまえ」男は上等な三つ揃えのスーツを着、スラックスの上から注意深く長靴を履いて、砂と泥を防いでいる。霧の中から更に進み出ると、ザ・ヴァーティゴは驚愕した。「エッ?お前!」
2014-12-28 19:03:19「どうやら何となくでも憶えていたようで嬉しいよ」痩せた紳士的中年はザ・ヴァーティゴに厳しい視線でこたえた。ザ・ヴァーティゴは立ち上がった。「ウィルキンソン先生!ってことは、ここは地球なのかい?俺はほら、記憶が曖昧になりがちだから……いやあ、懐かしい!」「誰だわさ、このジジイは」
2014-12-28 19:09:33「いやあ、このオッサンは鼻持ちならない金持ちなんだ」ザ・ヴァーティゴがイビルヤモトに囁いた。「オホン」ウィルキンソン氏は咳払いをした。「ここはおそらく地球ではあるまい。残念ながら。私はちょっとしたクルージング旅行で日頃の多忙の骨休めをしようとしていたのだ。それが……」「出たぞ」
2014-12-28 19:12:02ともあれ、彼らは簡単な自己紹介をした。犬はおそらくチキンナゲットだが、確証がもてない。この犬はウィルキンソンの飼い犬というわけでもないのだという。「私を助け揚げた公爵が、この犬について行けば君に会えると言ったのだ」「公爵だって?」「自称だよ。その男は名を明かさないのだ」
2014-12-28 19:17:44「公爵の船が停泊しているのかい?」ウィルキンソンは肩をすくめ、うなずいた。ザ・ヴァーティゴは唸った。「プライドの高いあんたをお遣いに出すなんて、大した度胸の持ち主だな、公爵とやらも」「他に乗組員もいないのでね」とウィルキンソン。「無論、通常ならば御免被りたい役目だよ」
2014-12-28 19:20:05「公爵が一人で海を?で、あんたを助けたと」「そして今、君と、そのレディを」ウィルキンソンが言った。「ここで君達が途方に暮れているから、ピックアップして来るようにと、そういう話だよ」「……」ザ・ヴァーティゴとイビルヤモトは顔を見合わせる。やがてイビルヤモトが言う。「魚は飽きたわさ」
2014-12-28 19:24:24ウィルキンソンと犬は二人を導いて歩き、やがて、浅瀬に浮かぶボートと、沖の客船を示した。「なんだありゃあ。まともな船じゃないぞ」ザ・ヴァーティゴは驚嘆した。「ぜったい超自然のやつだ」「それはそうだろう。おかしな海だよ、ここは」ウィルキンソンは平然と認めた。「このボートは二人乗りだ」
2014-12-28 19:27:37イビルヤモトはウィルキンソンに促され、最初にボートに乗った。「紳士!」そして犬。そしてウィルキンソンだ。器用に櫂を操り、滑るように進み始める。「カヌー競技では実際、学生時代にインターカレッジで三位……誇れるかどうかわからないが。私はてんで駄目だが、仲間に恵まれてね……」「まあ!」
2014-12-28 19:32:58その後ろをバタフライでついていくのが、ザ・ヴァーティゴだ。「飛沫がすごいぞ!やめろよ!」イビルヤモトが怒鳴った。「ガボガボ、ワザとに決まってるだろガボガボ」両手を水面に叩きつけながらザ・ヴァーティゴが怒鳴り返した。「やれやれ。さあ、船だ」客船がスルスルとフックロープを下ろす。
2014-12-28 19:35:05フックロープはひとりでに降りてきた。だがザ・ヴァーティゴもイビルヤモトも経験を積んだひとかどの戦士、必要以上に驚きはしない。吊り上げられるボートで上昇する二人と一匹を横目にザ・ヴァーティゴは船体をよじ登り、先に甲板に上がると、縫いだ甲冑を絞りながら待つ。
2014-12-28 19:41:43甲冑をぬいだザ・ヴァーティゴはピンク色の肌をしており、左右非対称にわけた黒髪を晒しているが、目元にはサイバー超自然仮面が装着されている。さっきの漢字誤表記は面倒なので直さない。彼は懐から金糸のガウンを取り出して羽織ったが、一同に不評であった為、乾かした甲冑を再び装着した。
2014-12-28 19:49:32「ケンケーン!」犬は勇んで吠え立て、しっぽを振りながら船内へ駆け込んだ。ウィルキンソンは無言で促した。ザ・ヴァーティゴとイビルヤモトは犬に続いて船内へエントリーした。「公爵」の船室は奇妙だった。どこの土地のものとも知れぬ巨大地図や無数の肖像画が壁を埋め、机にはエーテル天球図。
2014-12-28 19:55:48「よくぞ参った。ザ・ヴァーティゴ殿。そして貴方はイビルヤモト殿」公爵は両手を広げて二人を歓迎した。公爵のアーモンド型の目には白目というものがなく、黒一色であった。一方、服も、髪も、肌も、白かった。「ワインはいかがかな」「ワタイ達の名前、何で知ってる?」「探していたからだ」「何故」
2014-12-28 20:04:31「君達の力が必要だからだ。宇宙的な問題だ」公爵はすぐに本題に入った。「多次元のバランスが崩れ、よくない混合が起ころうとしている」「ムームム」話を聞きながら、ザ・ヴァーティゴは無数の肖像画から目を離せなかった。モデルの誰もが、彼の悠久の記憶のどこかで出逢った相手の面影を残している。
2014-12-28 20:07:59「なんだか最近聞いた話だわさ」イビルヤモトが言った。「次元マンゴーなら、もう解決したでしょ」「そう!まさにその問題に関連している」公爵が指差した。「次元マンゴーは長い銀河年月に渡り、非常に安定した状態にあった。だが近年それが崩された」「ムム」ザ・ヴァーティゴは目をそらした。
2014-12-28 20:12:29「卑近な喩えを用いると」公爵は言った。「次元マンゴーは、いわばシーソーの片端だ。そちらが動けば、もう一端に無視できない歪みが生じてしまう。相互に影響しあう果実なのだ……次元マンゴーと、反キウイフルーツは!」「反キウイフルーツだって!?」ザ・ヴァーティゴが叫んだ。「そんなものが!」
2014-12-28 20:15:10