【廻星記】#1

世界樹の迷宮を冒険する者たちの記録@Untitled_SQ(注)当小説はファンによる二次創作です。ゲーム開発元・販売元・企業団体とは一切関係ございません。
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“爛々と輝く星々がその血のさだめにより大海原に聳える大樹の下に集い、そして散る” 1

2015-01-06 23:01:57
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「随分と詩的な表現ね」桃銀髪の娘がからかう。「信じたくないからな」紫銀髪の若い占星術士が、本から目を逸らさないまま応えた。娘は熱い茶で満たされたカップをその本の側に置いた。「あなたがその星の一つだから? ジジ」 2

2015-01-06 23:15:48
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「俺だけじゃない」ページを捲る手が震える。「お前も、兄貴も……それに、あいつも……」「ミュウド君も? それはおおごとだわ」「だから……あいつとは暫く会わない」「それ、すごく難しいんじゃないかしら。あなたが一番分かっているでしょう」 3

2015-01-06 23:22:30
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「それしか回避する手段がない!」「かえって悪い結果を産むことに繋がりかねないわ」そこに、ドアをノックする音が響いた。「あいつだ」ジジは本を閉じ胸に抱えた。「ジジ、いつもどおりにすれば大丈夫よ」 4

2015-01-06 23:29:58
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ジジは何も言わず、二階へと駆け上がっていった。「しょうがないわね」娘は溜息をつき、ノックされた扉を開いた。「やあ、ハル。こんにちは」金髪を短く切り揃えた空色の瞳の美男子が、笑顔で挨拶した。「ジジはここにいるんだろう?」 5

2015-01-06 23:52:56
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ハルは彼を招き入れ、囁いた。「……ミュウド君、悪いけど今、ジジはあなたに会いたくないと」途端、ミュウドの顔が歪む。「また占いでつまらない結果でも出たのか、馬鹿馬鹿しい」「あなたも深く関わっているらしいの」「父がまた見合いの相手を連れてきた」ミュウドは苛立たしげに吐き捨てた。 6

2015-01-06 23:59:22
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「今度こそジジとこの村を出る」「あなた、自分が何者なのかわかって言っているの?」「このシケた村の長の長男」「遥か昔あたし達一族……海賊カラッドの末裔を受け入れてくれた寛大な酋長の血を引いているのよ」「でも君たちとの血の交わりは許されない。なぜ?」 7

2015-01-07 00:04:41
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「それは……」「僕は君たちの血が穢れているなんて思っていない」「だから、あなたにはこの村を変えてほしいの。一族皆がそう願ってる」「それはできない。他の連中が僕とジジを認めない限り」「そうね……でも」ハルは詰まらせがちに、言葉を捻り出した。「でも、無理よ。だって、ジジは」 8

2015-01-07 00:11:23
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「女じゃない。かと言って男でもない。普通のからだじゃないこと、とっくに知ってるよ」 ハルの顔が青ざめた。「どうして」「この目で見たからさ」空色の瞳が愉悦に煌めいた。「僕たちはもう結ばれているんだ」 9

2015-01-07 00:15:09
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『今夜、迎えに来るから』 10

2015-01-07 00:22:02
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「あいつはそう言ったのか」「ええ」ジジはすっかり冷めた茶を飲み干した。「ハル、今日はここに泊めてくれないか」「良いとも」ハルが返事をする前に答える声があった。「伯父さん」汚れた白衣を丸めて抱えた、ハルと同じ髪色の壮年が微笑んだ。「いつもの事じゃないか、ディスト」 11

2015-01-07 00:27:59
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ディスト。それはジジが親に与えられた名前だ。ジジと呼ぶのは、ジジの兄と、従姉のハル、そして幼馴染のミュウドだけ。それは彼らの絆の証であり、ジジのこころを守る手段でもある。『ディスト』はカラッド一族の言葉で良くない意味を持つからだ。『遺棄すべきもの』と。 12

2015-01-07 21:34:37
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それでも、ジジは伯父に尊敬の念を抱いていた。彼は医学薬学に留まらず、巫術学や星術学をも修め、医師を勤める傍らで学び舎をこの村に開き、そこに忌み子である自分を受け入れ知識を授けてくれた恩人である。だからジジは安心して、伯父の好意を受け止められた。「ありがとう、伯父さん」 13

2015-01-07 22:02:03
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月が高く登るころ、ジジに充てがわれた寝室の扉がノックされた。「まだ起きているかね」「伯父さん」ジジはベッドの上で本を開いたまま、部屋に入る伯父を見た。「ディスト、君に話さねばならないことがある」「なんだよ伯父さん、改まっちゃって」「君は私の血を引いた子だ」 14

2015-01-07 22:11:22
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ジジの表情が強張った。「は……え?」「十八年前、私たち兄妹は道ならぬ関係を結んだ。そうせよという星の導きがあったからだ」戸惑うジジをよそに、彼は告白を続け「導きの通りの姿で君は産まれた」ベッドに歩み寄り「妹は君を見て狂い死んでしまったが」ジジの上に覆い被さった。 15

2015-01-07 22:21:07
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「またしても星の導きがあった」研究者の荒れた手がジジのからだをまさぐる。「私と君の子は今度こそ雌雄を超越し完全な存在になるだろう」狂っている。ジジは恐怖に慄いた。 16

2015-01-07 22:26:13
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「そこまでよ、父さん」銃を構えたハルが立っていた。「ジジから離れて」「やれやれ、そんな物騒な娘に育てた覚えはないんだが」男は両手を挙げた。ハルは顎でジジにこちらに来るようジェスチャーした。ジジは震えながらのろのろと這いずるようにハルの元へ辿り着き、彼女の腕にしがみついた。 17

2015-01-07 22:40:22
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ハルは油断なく銃を構えたまま父親を見据え、言った。「さようなら」そしてジジを連れて家を出た。 18

2015-01-07 22:53:39
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ひとに見つからないよう、ふたりは道無き道を駆け抜けた。そして、月明かりを浴びて輝く金色を見つけた。ジジにはそれがなにか一目でわかった。 19

2015-01-07 23:10:29
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「ミュウ……ッ!」「……ジジ!」ふたりは駆け寄り、抱き合った。「君から来てくれるなんて嬉しいよ……ジジ?」歓喜に満ちたミュウドの表情が次第に曇る。ジジは嗚咽を漏らすばかりだ。「何があったんだい、ハル」「それは……」「はい、そこまで」 20

2015-01-07 23:17:24
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三人が一斉に乱入者を見る。青銀の髪を括りあげた、背の高い青年がこちらに近づいてきた。ジジはわななく唇で呟いた。「兄貴……」「ジャンさん」ジジを抱きしめるミュウドの手に力が篭る。「ジジは渡しませんよ」 21

2015-01-07 23:27:12
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「みんな」ジャンは微笑んだ。「はやくこっちへ」彼が差したのは、誰の生家でもなく、船着き場に繋がる街道だった。「さぁ」三人は、顔を見合わせた。ジャンに従うしかなかった。 22

2015-01-07 23:47:39
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船着き場には見慣れぬ船が着いていた。桟橋にはジャンよりも一回り大きな赤毛の男が立っていた。「久し振り……だな。後ろの三人は、おれの事を覚えていないだろうが」「ジョー叔父さん。最後に会ったのは十年も前だから、仕方が無いよ」 23

2015-01-08 00:04:18