もじほこりさんのお話をまとめてみた
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mizuki_TBss
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最終回に爆走するバニーさん
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あの日のことは、実は途中の経過をよく覚えていなかったりする。虎徹さんには言ってないし、斎藤さんたちは黙っててくれているけど、きっと馬鹿みたいに取り乱した、スタイリッシュからは程遠い僕だったに違いない。気が付けば、スーツを着て走り出していた。走り出せば、驚くほど頭はクリアになった。
2014-12-24 20:47:17![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
メットのこめかみの辺りに触れて、あの人の位置を確認する。一年分更新された地図データを引っ張り出して、合流するための最短のルートを導き出す。あの人の動きを、しでかしそうなドジまで含んで考えて。その間も一瞬たりとも足を止めずに。あぁ、またそんな足場の悪い方へ!能力もきれてるのに!
2014-12-24 20:50:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
バーニアを吹かす。モノレールとジャンクションが邪魔で、もう上からは合流しにくい。あの人たちは建物の上。近くの道路に着地して、下から行った方が速い。マップ上の光点が動く。少し大きい建物。車のショールーム?思い出されるのは吹き抜けと、燦々と日が射すサンルームみたいな店内。あぁ、もう!
2014-12-24 20:57:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
光点が止まる。フェイスガードを上げれば、その拍子に入れ忘れていたスイッチに触れたのか、急にあの人の声が聞こえた。いつものように犯人を説得している低い声。止まりそうになる足を奮わせて、店の人に叫ぶように謝りながら走る。予感がする。あの人が息をのむ気配。ジーザス、本当にやりやがった!
2014-12-24 21:02:43![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
長く尾を引く叫び声。けれどもう、目に見えるものを追うことに集中していた僕には聞こえない。店員に謝るために上げたフェイスガードを僅かに悔やむ。精一杯に目を凝らして、見定める。きらきらと砕けた硝子をまとわせて、落ちてくる白い影。飛び出しながら手を伸ばす。何度目だろう。何度、この人は。
2014-12-24 21:07:47![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
重い衝撃。ぎしり、と腕の筋肉が悲鳴を上げた。痛い。この野郎、と反射的に思う。同時に笑い出したくなるほどの高揚に包まれる。安堵のため息だけは吐かないように飲み込んで、出来るだけの澄まし顔を作る。ボンネットを踏みしめたまま。顔を覆ったままの彼が、自分の状態と僕に気付くまで、あと3秒。
2014-12-24 21:12:04大晦日のお話~バーナビーさん編
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ニューイヤーイブの街は特別な夜への期待感からか、普段より少し浮ついていた。ただそれはクリスマスの単純な楽しさとは違う、去りゆくものを惜しむ物悲しさだとか、新たな年を迎えるに当たって襟を正すような緊張感だとかもあり、しっかりと地に足をつけたまま、心だけそわそわするような感覚だった。
2014-12-31 09:43:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ブロンズのマルシェは休みなしだから。帰省する前にそう言っていたのを思い出して、車を出した。通い慣れた道を通り、いつもの、と呼べるくらいには使っている駐車場へ。少し歩いてたどり着いたそこは変わらず賑やかで、自然と頬が緩んだ。「バーナビー! 買い物かい」道端からも遠慮なく声がかかる。
2014-12-31 09:48:17![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
あの人がよく果物を買っている八百屋の店主は、にこにこと僕に小さな紙袋を差し出した。覗けば小さな林檎が数個。「持ってきな」「えっ?」「今年一年、頑張ってくれたヒーローにお礼だよ!」遠慮しようとする僕に構わず、紙袋は胸元に押しつけられる。こういうのは有り難くもらっとけ。彼の声が蘇る。
2014-12-31 09:53:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ありがとうございます」受け取ると同時に、しまった、と思った。周りで店を出していた人たちの空気がさっと変わったのだ。「うちの卵も持ってきな!」「ベーコンいるか?」ジャムは?焼きたてのパンもあるぞ! たまらず僕は叫んでいた。「ちょっと皆さん!僕は『買い物』をしにきたんですけど!?」
2014-12-31 09:58:25![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
どっと笑いが起きる中、それでも腕に抱えるくらいの荷物はもらってしまう羽目になった。なるべく大きなものは遠慮して、ひとりで食べられるだけの量なら受け取ろうとしたけれど、日持ちするから年明けにでもこてっちゃんと食べななんて言われると断れない。知らないうちに、そんなことが馴染んでいた。
2014-12-31 10:04:24![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
マルシェの外れにあるホットドッグ屋まで歩いて、一組しかないテーブルを申し訳なく思いながら占拠する。「持ち帰りかい?食べてくか?」笑いながら問う店主はもう何をいくつとも聞いてこない。「この荷物ですよ、ここでいただきます」「じゃ、コーヒーもだな」「ちゃんと払わせてくださいよ」
2014-12-31 10:08:52![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「そいつぁできねぇ相談だ」「勘弁してください。せめてコーヒー代だけでも」「しょうがねぇ、あんたの顔も立てなきゃな」湯気の立つホットドッグを受け取れば、きゅうと胃が騒ぐ。そうだ、もともとは朝食を買いにきたのだったのだ。一礼して椅子に座り、無言でかぶりつく。店主は穏やかに笑っていた。
2014-12-31 10:19:58![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「みんな嬉しいんだよ」食べ終わって人心地つき、コーヒーを啜っていた僕に屋台の向こうから出てきた店主が囁いた。「普段、ヒーローの正体は公にされてないだろ」けれど彼らは、いつも騒がしい馴染みの客がそうだと知っていた。お人好しで、変わった髭で、事件があるたびに傷だらけになっていたひと。
2014-12-31 10:25:57![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「本当はさ、みんな言いたくて仕方ねぇんだよ」お疲れさま。いつもありがとう。来年も頑張って。街を守るヒーローに、面と向かって。「もちろん、あんた自身にもそう思ってるけど、まぁ、言ってみれば半分は身代わりだ」呵々と笑いながら言われてしまうから、どうしようもない。僕もただ、肩を竦めた。
2014-12-31 10:32:40![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「ご馳走さまでした。よいお年を」「あんたもな、バーナビー。また来年も贔屓にしてくれ」手を振るには荷物が多すぎた。ぎくしゃくと首だけで頭を下げて、駐車場へ歩き出す。(ブロンズのマルシェは休みなしだから)そう言い残して帰省した人の顔を思えば、これはどうにもしてやられた気がするけれど。
2014-12-31 10:37:25![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
よいしょ。荷物を抱え直しながら考える。この腕の中にある年越しに十分な食料と、それを僕にくれた人たちの温かな気持ちは、ひとり目覚めたときに僅かに感じた孤独感をすっかり消し去ってくれていた。「…かなわないな」呟きながら、あとで写真を撮ろうと思った。故郷で過ごすあの人に見せるために。
2014-12-31 10:43:31大晦日のお話~スカイハイさん編
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デッキブラシとバケツを持って空を行くスカイハイを見て、あぁニューイヤーイブだなと思うのがシュテルン市民だ。メダイユ周辺にぐるりと並ぶ七大企業ビル。その屋上に建つ神獣像と、街の中心にそびえる女神像。風の魔術師はひとつひとつに声をかけ、ブラシをかけていく。それも年末の風物詩のひとつ。
2014-12-31 15:23:03![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ヘリペリデスファイナンスの屋上に設えてある鳥居の注連縄を変えるのは、見切れ職人の仕事である。年々上手くなる、しかしまだ少々不格好なそれはなんと彼の手作りだ。それを知っている社外の人間は唯ひとり。「こんにちは、スカイハイさん。毎年すみません」「気にしない、そしてドントマインドだ!」
2014-12-31 17:15:13大晦日のお話~虎徹さん編
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『貴方のせいで買い物ひとつ出来やしない!』野菜や果物、その他もろもろ。朝市で買えるものひととおりが広げられた調理台の写真に大笑いする。泊まりにくるたび、渋るあいつを連れて出かけた甲斐もあったものだ。なぁ、そこはあったかいだろ。胸の内で呼びかける。それが俺たちが守ってるものなんだ。
2015-01-02 23:36:14![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
あの朝市は昔からあった。よく友恵に連れて行かれた。どんな酷い出動の翌朝でも、動けるなら来いと叩き起こされて。こういうところに来ると、よくわかるでしょ。教えてくれたのは友恵だ。これが虎徹くんが守ってるものだよ。街って結局、人の営みなの。頭がいいお前は、たぶんもう知ってるだろうけど。
2015-01-03 00:58:23