#空想の街 #ヴェンディッタ 灯りの樹

#空想の街 ウィア・アクア駅から歩いてすぐ。マルケー内にあるのは、真っ赤なダーツバー #ヴェンディッタ 。店主は、真っ赤な女性。名は、ディターナというらしい。
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黒巣真音 @catnap_7

「……嫌いじゃ、ない」ぼそりとしか言えなかった言葉はジンの耳に届く。「……マジ?」「じゃあ聞くけど、嫌いな奴と一緒に酒のむ?」「のまねぇな」「そういうことよ」笑ったお嬢に胸が詰まって、カクテルを飲み干した。「……お嬢。いや、ディターナ。結婚しよう」#ヴェンディッタ #空想の街

2014-12-16 00:56:06
黒巣真音 @catnap_7

目を丸めたお嬢が、盛大に吹き出した。「あっはは。ちょ、待って、ジン。あは、大丈夫?ふふ、どうした?っ、酔った?っははは」「酔ってねぇ」楽しそうに笑う姿が愛しくて抱き締めてしまった。こんな風に笑ってくれるようになったお嬢が、好きだと思った。#ヴェンディッタ #空想の街

2014-12-16 01:01:24
黒巣真音 @catnap_7

抱き締めた途端、笑いが嘘のように止まる。「……本当に、バカなんじゃないの。付き合ってもないのに、結婚なんてするほど、頭弱くねえっつーの」何時ものぶっきらぼうな口調に覇気はない。少し離れて顔を見れば、真っ白いはずの頬は、髪の赤ととけるように桃色だった。#ヴェンディッタ #空想の街

2014-12-16 01:05:19
黒巣真音 @catnap_7

「……照れてる?」「しるか!」「ヤバイわ、ディターナさん、可愛いっす」ようやく、ジンを振り解きにかかったディターナに、ジンはあっさりとその手を離した。#ヴェンディッタ #空想の街

2014-12-16 01:10:36
黒巣真音 @catnap_7

急に離れた温もりに戸惑い気味のディターナを余所に、ジンは言った。「結婚したいと思ってる。いずれは。だから、付き合わないか」その時、いつかのように、優しい風が吹いた。窓なんて開いていないのに、だ。かちゃりかちゃりとペンダントとペンダントがぶつかった。 #ヴェンディッタ #空想の街

2014-12-16 01:19:04
黒巣真音 @catnap_7

「……え?」ぶつかったペンダントと、吹いた風に理解してしまう。「素直になれ、後悔するぞ、って。彼が」信じてもらえないかもしれないけれど、ジャックだった。そんな気がした。それすらも、ジンは、真剣な顔で受け止める。#ヴェンディッタ #空想の街

2014-12-16 01:24:20
黒巣真音 @catnap_7

「ジン、私で良いの?」自信なさげに俺を伺い見るお嬢の、真っ赤な瞳は濡れていた。「私で、だなんて言い方すんな。お前だから付き合いたいんだ。俺はディターナと一緒になりたい。……いつか、な」そう言ってお嬢の頭をくしゃっと撫でる。自信持て、ディターナ。#ヴェンディッタ #空想の街

2014-12-16 01:29:37
黒巣真音 @catnap_7

切なげな横顔に、目を奪われた。心も奪われていたんだ。この3年、私を支えてくれていたのは、常連だったジンと #ヴェンディッタ に来てくれたお客さん達だった。#空想の街 が私の生きる場所なんだ。「良いよ、付き合っても」言った途端、目の端から涙が溢れた。

2014-12-16 01:36:01
黒巣真音 @catnap_7

「……超嬉しい」噛みしめるように呟いたジンに再び抱き締められた。あったかい。ぽろっと流れた涙がジンの制服を濡らした。「ほら、泣くな。肩肘張んなくていーし、今まで通りのディターナで良いから」そう言いながらちゃっかり名前で呼んでる癖に。#ヴェンディッタ #空想の街

2014-12-16 01:42:02
黒巣真音 @catnap_7

けれど、それが、嬉しかった。「……なあ」見つめ合うような距離で、そんな風に呼び掛けられる。分からないほど、子どもじゃない。笑って、それから、目を閉じた。目尻から涙が落ちていく。それが拭われる感覚と、唇に唇が触れた感覚は、ほとんど一緒にやってきた。#ヴェンディッタ #空想の街

2014-12-16 01:46:00

#空想の街 の住人たち、そして、ふらりと現れる、さまざまな人たちのおかげで。俺は、三年かかってようやく、ディターナと付き合うことができた。
この先どんな風に店をやっていけるか不安もあるが、どうかまた遊びに来てやってほしい。
きっと、この街で一番、やさしい時間を提供できるはずだ。

ウィア・アクアの駅から、ほんの少しマルケー内に足を運んでくれ。真っ赤な店主が、俺の恋人だ。

fin.

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