＃鎮守府ソドム　新入り駆逐艦春雨の場合

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「ぶぁーぶぁばんばばばば ぶぁーぶぁーぶぁー♪ピッチャー投げた！」 「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてぎっ！！？」 ッカーン！という金属音。ただし春雨には最早それすら聞こえない。 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ…………っ！！！」 もしも今、春雨の頭のバケツか外れていたならば、瞳が鼻水と涎を撒き散らし、ぐるりと瞳が上を向いた表情が拝めただろう。 あまりの衝撃に気を失った春雨はその場に思いきり倒れ込んだ。 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

だがそれがいけなかった。 倒れた表紙に思いきり床に頭を打ち、その衝撃音が更に春雨の脳に響く。 「あ゛き゛いいいいいい！？？？」 おまけに手首のカミソリ手錠が肉を深く抉り、その痛みまでが加算する。激痛の連鎖だ。 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「ほらほら、いつまでも寝てないで起きなさい」 「あぐぅぅぅ……う゛ぅぅ……」 唸るしか出来ない春雨を無理矢理起こし立たせるソドム提督。だが春雨の足元はフラフラと覚束ない。 耳の奥にはバランス感覚を司る三半規管がある。春雨への拷問はそこを直撃してしたのだ #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

ッカー……ンンンンッッッ！！！ 室内に再び金属音が響く。 「は゛ぎゃアアアアアアアアア！！！」 一瞬身体を硬直させた春雨は再びその場に倒れ伏す。 「あ゛～～～っ！あ゛あ゛あ゛！耳が！耳が！聞こ゛え゛な゛い゛ッッ！！！」 床を転がり回る春雨 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

だがそのまま休むことは許されない。 再び無理矢理立ち上がらされ、 「それっ！ホームラン！」 パカー……ンンンンッッッ！！！ 「ィきひ゛ィ！！？」 轟音が頭蓋を震動させる。 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

膝を付くも倒れることは許されない。 再び立ち上がらされ、待っているのは葬列に鳴る鐘だ。 カー……ン ッカー……ン カカッー……ンンンン そして合間に響くは人のそれとは思えない絶叫のコーラスである。ひどく歪な葬送行進曲 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

あれから何回鐘がなっただろうか。 常人ならばとうに発狂してもよい時間が流れた。だが艦娘である春雨には関係ない話だ。 ……とは言え 「それっ！」 ゴッ………カァンッッッ！ フルスイングの一発が決まった瞬間に春雨は頭の中でパンッというなにかの破裂音が響いたのを聞いた #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「 」 「あ゛～……あ゛？あ゛？あうぁ？」 自身の異変に気付くには少しの時間が必要だった。 キーン……という高音以外何も聞こえない。 いや、頭のバケツを殴られている間は当然聞こえないのだが、それでも時間が経過すれば聴力は徐々に回復したはずだった。 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「あ゛？あ゛？なに？！な゛にも！な゛にも聞こえな゛い？！」 先程の音は遂に限界を迎えた春雨の鼓膜が破裂した音だったのである。 暗闇で視界を奪われ、聴力まで無くし、春雨はパニックに陥った。 「あ゛ぐ……や゛…や゛あ……」 逃げようと立ち上がる。 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「？！ ？！ ？！」 急に目の前に壁が現れ春雨はしこたま身体を打ち付けた。だが壁から離れようとして……。 「？！ ？！」 足は宙をかくばかりである。 やがて、真横の壁から何かの衝撃を感じた。 それは提督の軍靴であった。壁から足が生えていた。 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

違う。 いくら常人とは言い難い提督でも人間に違いはない。『壁に垂直には立てない』。つまりこの壁は……地面。 ならまた立ち上がるだけだ……。だがその瞬間世界がグルグルと回り始め、強烈な吐き気が春雨を襲った。 「うぶっ……げ…げえぇぇぇ！！！」 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

吐瀉物が顔中に拡がる感覚がした。その流れでどちらが下なのか解ったのは助かったが、胃液の臭いが中にこもり、堪らなく不快だった。 「おー。遂に鼓膜がイッたかー。うわ汚ねっ！」 ソドム提督の言葉はもう春雨には聞こえない。 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「面白いだろ？上下左右もない世界ってのは。その吐き気はずっと続くからなー。胃袋空っぽにしてやるよ」 「！！！」 再びの轟音。いや音ですらない、それは衝撃だ。脳髄に直接響き渡る衝撃。 「ぎ……ぃぃぃ！おぶぇええええ！！！」 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「鼓膜破れてッ！」 「お゛ぶっ！」 「直に衝撃がッ！」 「げァ？！」 「脳にまで響くだろ？！」 「ひぎっ……」 殴られ過ぎて、春雨の頭に被せられたバケツはボコボコに歪んでいた。 「なあっ！？」 「あ゛っ……！」 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

平衡感覚を失い、立ち上がれずに虫のように地べたを転げ回っていた春雨の動きが止まる。 気絶したのだ。さらに足の間から黄色い水溜まりが拡がっていく。 「あんだ？！もー気絶したのか？駆逐艦は脆すぎて駄目だなー」 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「まあ、そろそろ飽きてきたし別のを連れてくるか。っとその前に……」 気絶したままの春雨を放置し、部屋の隅でコンロに火をつける提督。 数分の後に沸騰したそれを知らせるように甲高い音が鳴り響く。 「春雨スープを作らなきゃな」 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

「具とスープの素をいれてー」 隙間にヤカンの口をつける。 「お湯をいれて三分待つっと！」 辺りに湯気が立ち込める。蓋を鳴らすほどに沸騰した熱湯がドボドボと注ぎ込まれていく。 「～～～～～～～～ッッッッ！！！！！」 その悲鳴はもう言葉にすらなっていなかった。 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

ガコンガコンと鉄の兜を床に鳴らしながら転がり回る春雨。手首の肉が抉られるのも構わず頭に被ったバケツを外そうともがく。 が、 「！？？ ！？？」 ようやく届いたもののバケツは殴られ過ぎて歪んでおりびくともしない。 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

視界も聴力も平衡感覚も失い、熱湯の火傷と、更に溺死の恐怖に暴れまわる春雨。 だが、水中での音や衝撃は空中よりもよく伝わる。それは即ち転がり回る衝撃がそのまま脳へのダメージになるのだ。 「まあ、しばらくそーしてな。さて次は誰にしようかなー？」 #鎮守府ソドム

大渡　鴉@ミント母の息子 @oowatarikarasu

首から上にバケツを載せた異形は奇妙なダンスを躍り続ける。 ガコンガコンという音をたてるそれに一瞥もせず、提督は次の獲物を探しに部屋を出ていった。 #鎮守府ソドム