ミヤとトロメア

こよさん(@koyo_tanu31)の創作キャラ『ミヤ』と『トロメア』をお借りして書いた、彼らの旅の一コマです
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【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「ねえ、トロメア……」 「ダメだ」 昼下がりの林道。後ろを歩くミヤから声をかけられ、トロメアは憮然と応える。 「ま、まだ何も言ってないじゃないですか!」 「どうせまた『乗せてくれ』とか言うつもりだったんだろう」 「うぐ……」 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:10:13
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

図星を指され、ミヤはぐうの音も出なくなってしまった。 「だ、だって!もう三時間も歩いてるもん!」 「『たったの』三時間だ。世の行商人やら冒険者ってのは、それこそ日が暮れるまで歩いたりもするものなん だぞ」 「そんなの知らない~!私は私なんです~!」 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:10:50
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

そのうち寝転がって駄々をこねそうなミヤの気配に、トロメアは頭を抱える。 (とはいえ……) こんな小さな体で歩き続けるのは大変だろう。むしろここまでよく頑張ったほうかもしれない。 今日のところは労ってやるべき―― (いやいやいやいや) #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:11:47
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

ブンブンと頭を振って考えを正す。ここで甘やかしてしまってはいつもと同じだ。ためにならない。 あえて心を鬼にしなければ。 (……あと三十分がんばったら乗せてやろう) ひとまず妥協点(結局甘い)を見出すと、彼は顔を上げる。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:12:49
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「……!」 すると、道の向こうから何か大きな影がこちらに向かって猛進してくるのが見えた。 「ミヤ、離れろ!」 「え?」 きょとんとする彼女を尻目に、トロメアは背負っていた荷物を投げ捨てて身構える。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:13:36
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

やがてこちらに向かって突進してきた影――一頭の馬に、彼は真正面からしがみついた。 錯乱して暴れようとする馬を、全身の力を使い抑えつける。 その有様を見たミヤが、傍らから駆け寄ってきた。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:14:15
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「よしよし。大丈夫、大丈夫ですよ」 彼女に宥められ、馬は少しずつ落ち着きを取り戻していった。 「うん、いい子いい子」 やがて静まった馬の首を撫でながら、ミヤは呟く。 「この子、馬車馬?一体どうしたんでしょう」 「……」 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:14:51
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

トロメアは馬が身に付けていたくびきの金具に、無理矢理叩き切ったような跡があることに気付く。 「ミヤ、こいつを頼む」 「え?ちょっと、トロメア!?」 そうとだけ言い残し、彼は馬が走ってきたほうへと駆け出した。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:15:14
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

しばらく走ると、案の定そこには数名の男たちに囲まれている一台の馬車がある。 走った勢いを乗せたまま、トロメアは手近な男を思い切り殴り飛ばした。 「な、なんだてめえ!?」 賊たちの動揺などまるで意に介さず、彼は次の男を蹴りの一撃で昏倒させる。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:15:41
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

そんな事を数度繰り返すだけの、立ち回りとすら呼べないトロメアの武力介入で、賊の一党はあらかた伸びて しまった。 「ば、化け物だぁぁぁ!」 意識のあった数名は、ほうぼうの体で逃げ出していく。 トロメアは軽く手をはたくと、馬車の中を覗き込んだ。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:16:38
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「無事か?災難だったな」 「あ、ありがとう存じます」 中の女性は安堵した表情で礼を述べた。 「見ての通り近頃物騒だ。金に余裕があるなら、次の宿駅で護衛でも雇うんだな」 「でも、馬が……」 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:17:30
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「ああ、それなら大丈夫だ」 言いながら来た方を見ると、ちょうどミヤが馬に乗ってこちらにやってくるところだった。 「あの、もしよろしければご一緒しませんか?」 「なに?」 女性の一人が馬車から降りてきて、そう提案してくる。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:18:02
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「徒歩では大変でしょうし、わたくしたちもあなたのような方が一緒なら心強いですもの」 「それは、まぁ……」 言う通りではあるが、自分たちも訳ありだ。あまり見知らぬ人間と一緒にいるのも得策ではない。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:18:29
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

ただ歩き疲れているミヤはこの提案に飛びついてしまうんじゃないだろうか。さてどうすると思いミヤのほう を振り向くと―― 「……」 そこには膨れっ面で馬の上からこちらを見下ろしているミヤの姿があった。 「み、ミヤ?」 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:18:56
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「トロメアだけ乗せてってもらえば?私は一人で大丈夫です」 「馬鹿言うな!お前一人で平気なわけ――」 「世の人たちは一日中だって歩いてくものなんですよね?」 小さな手足を目一杯使って馬から降りると、ミヤはスタスタと歩き去ろうとする。 「ま、待てよおい!」 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:19:27
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

その後ろ姿を追いかけようとして、トロメアは少し慌てる。 「すまん、馬は返す!次の宿駅ならすぐだから、多分そこまでなら平気なはずだ!邪魔したな!」 「え、ええ。お達者で」 目を白黒させる女性を残し、トロメアは走り出した。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:19:54
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「――甘酸っぱいですわねぇ」 そんな二人の後ろ姿を眺めて、女性はポツリと呟いた。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:20:29
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「――おい」 「……」 大股気味に前を歩いていくミヤの後ろ姿に声をかけるが、彼女は答えない。 「なぁ、何を怒ってる?」 「別に、怒ってなんかいません」 先程から彼女はずっとこんな調子だった。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:22:19
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

二人の体格差なら、普通に歩いているだけでもすぐにトロメアがミヤを追い越せる。 だが、今のトロメアにはそれが出来なかった。 (どうしたんだ一体……というか、どうしよう) らしくもなく、トロメアは狼狽えている。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:22:43
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

だってそうだ。何が悪かったのかさっぱり分からない。 こんなことなら、さっさと乗せてやったほうが良かったのだろうか。 そんな見当はずれな考えすら浮かんでくる。 「っ……」 すると彼女は立ち止まり、おもむろにその場に屈みこんだ。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:23:05
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「ミヤ?」 「へ、平気です!」 屈んだまま脛をさすっている彼女に、トロメアは心配そうに声を掛けるが、ミヤはにべもなく声を荒げた。 「……」 結局、こうなってしまうんだな。観念した様子で、トロメアはため息をついた。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:23:29
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「ほら、乗れよ」 「……」 ボグッ、と蹄が地面を叩く音にミヤが振り向くと、そこにはいつの間にか馬の姿になっているトロメアがいた 。 ミヤはむすっとした顔のままだったが、それでも彼にしがみついてその背中へと昇る。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:23:52
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

それから二人はゆったりと道を進んだ。 空は少しずつ赤みを増している。まもなく夜の帳が空を覆うことだろう。だが、次の街はそう遠くもない。別 に焦る必要もなかった。 「――トロメアって、大きいよね。」 しばらくして、ミヤはそんなことを呟いた。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:24:13
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「そうか?」 「うん」 彼女はトロメアの首にしがみつきながら応える。 「……そうか」 なんのことはない、淡々としたやり取り。だがそこに、先程のような気まずさはなかった。 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:24:37
【オフセットスパナ合同】睦月 燐@原稿がんばる @rinnmutuki

「わたしも、トロメアみたいになれたらなぁ……」 独り言のように彼女は呟く。聞こえないふりをするべきか迷って、それでもトロメアは口を開いた。 「俺は別に、今のままのお前でも――」 #ミヤとトロメア

2015-02-01 20:25:02