稲川淳二のつぶやき怪談　2015年1月30日投稿分

稲川淳二 @Junji_Inagawa

浴衣姿の夫婦らしい年配のカップルが座っていて ふたりの目の前に、幅１メートル半くらいの カーテンが下がっていて、夜景が見えないんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、バーテンさんが、 「すいません、そこは駄目なんです。 こちらのお席へどうぞ」 と答えると、ふたりがカウンターの中程へ移って来た。

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で、しばらくすると引き上げていったんですが、 気がつくと、時刻は１１時を回っていて、 客は私ひとりなんで、 「ああ、もう看板ですよね」 と言うと

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いえ、観光旅館ですから、皆さん遅くまで 宴会してますんで、お客様がいれば、 １２時を回っても営業しているんでかまいませんよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

というんで、部屋に帰ってもつまらないんで、 もう少しいる事にして、グラスを空けながら、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（それにしても、 展望の為の一面のガラスの一方の端が カーテンで隠されていて、折角の夜景が 見えないというのはどういう事なんだろう・・・・）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、何でそこが駄目なのか、気になったんで、 「あそこだけカーテンが下がっているのは、 何か訳でもあるんですか？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と聞くと、バーテンさんが、 「やっぱり、何か感じます？ ・・・実はオフレコなんですけど、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

夜の１１時を過ぎると、 あそこのガラスに人の顔が映るんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、１１時前にカーテンを下ろすと、 お客様から叱られますので、 下ろしたままにしてあるんです・・・」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と言うもんだから、 「それ本当？」 と聞くと、真面目な顔で、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ええ本当です」 という返事がかえってきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そんな話を聞かされたら、 多少、酔いも手伝って好奇心がわいてきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

時刻は１１時を回っているし、 で、 「今、あのカーテン開けたら、それ見れるんですかね？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と聞くと、 「ええ、恐らく見えるんじゃないですかね」 と言うんで、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「・・それ見たいなァ・・・。もしよかったら、 ほんの一瞬でいいんで、ちょとだけカーテンを上げて、 見せてもらえませんかね」 と頼むと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「実は私もまだ見た事がないんですよ、 １１時過ぎると怖いから、あっちの隅の方へは 行かないようにしてるんですけど、 後ろにいると思うと、気味悪いですからねェ・・・」 と、バーテンさんも、だんだんその気になってきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、他に客もいない事だし、 見てみようかという事になって、 ふたりでカウンターの端へ行ってみた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

私はカウンターの外で、 バーテンさんは、床掃除の丈の短いホウキを持って、 カウンターの中にいて、 私に視線を向けたんで、黙ったまま頷くと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

やおら、ホウキの先で、 カーテンを下からそーっと持ち上げていった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、ガラスが現れて、 徐々に外の黒い闇が見えてきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そのまま、ゆっくりとカーテンが持ち上げられてゆくんですが、 ホウキの幅ですから、縦長に隙間のように見えてゆく、 カーテンの下がたるんで、上がってゆく。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

外が黒い闇ですから、 薄暗い照明のついた店内がボンヤリ映り込んで、 何だか見にくい。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

私は正面から見ているから、照明の関係で、 自分の輪郭が照らされて映っている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（別に何も無いなァ・・・・） と思ったその時、それが見えた。