#北方鎮守府精神病棟　回覧診察＃２

荷重さん @MGLover_nijyu

「さーて、第一旗艦様からも気合入れられちゃったし」 ぱん、と手打ち。 「ぼっこぼこにしちゃいますか！」 　 ―艦隊決戦、開始！― #北方鎮守府精神病棟

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大海が荒れ狂う。 それはまるで津波のように押し寄せ、視界の端でぶつかり合い、消えていく。 殺意と殺意が、ぶつかり合って膨れ上がる。 　 敵旗艦、軽巡棲鬼。 嘗ての英雄達の揺り篭、其の成れの果てと言われる深海棲艦。 そして、奴のベースとなっているのは―。 #北方鎮守府精神病棟

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「本当に、似てるね。那珂ちゃんと」 ―ボロボロの姿で此処に立ち続ける、軽巡洋艦・那珂。 　 お互いが睨み合い、歯を軋ませる。 「でも、絶対ぶち殺すからね！」 「サセヌ…！シズメッ！！」 　 砲を向ける那珂を、駆逐艦が取り囲む。 「前には出ないでください」 #北方鎮守府精神病棟

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「貴女を守るのが、私達の仕事です」 「あいつを倒すのも、うちらの仕事や」 「どっちもやらなきゃいけないのが、艦娘の辛い所よね」 前に立つ陽炎三姉妹が、各々愚痴を零し出す。 それを遮る様に、艦載機の嘶き。 「させません」 嘶きを、もう一つの音が掻き消した。 #北方鎮守府精神病棟

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青空母…加賀の艦載機が、的確に敵を堕とす。 そして、那珂の傍に寄り添い、防御を固めた。 　 「後は、あの筋肉馬鹿に任せておけばいいんです」 「ふん、筋肉馬鹿とは失礼な。だが、任されたからには応えよう」 　 その刹那、長門の41cmが轟音と火炎を噴いた。 #北方鎮守府精神病棟

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先程艦載機を放っていた空母Fsが粉微塵に吹き飛ぶ。 その余りに強烈な暴力に、旗艦の最上が手を打った。 「あっはは！凄い凄い、流石はビッグ7！」 「負けていられないな。なあ最上」 「うん、師匠！よーっし、撃ち方始めー！」 その言葉と共に、二人の砲も火を放つ。 #北方鎮守府精神病棟

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「グッ…」 二人の砲撃に、軽巡棲鬼が怯む。 その隙を突いて加賀の艦載機と長門の砲撃が殺到する。 BRAAAMM！ 轟音を立て、巨大な水柱が上がる。 しかして、そこから聞こえてきたのは不敵な笑い声。 「…ソノ程度カ？」 笑みの主は、那珂へと砲口を向けた。 #北方鎮守府精神病棟

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「シズメ…！」 不気味な意匠の砲が、喚き声を上げて火を噴く。 「…っ！」 那珂の表情が、一気に強張る。死を覚悟した瞳を向ける。 刹那。 「はいなー」 間の抜けた声と共に、黒潮が砲弾を打ち返した。 「…エ？」 綺麗な放物線を描いて、砲弾がリリースされた。 #北方鎮守府精神病棟

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「あら、いい打球」 弾着を確認していた不知火が率直な感想を漏らす。 「…ヒット」 加賀がぽつりと漏らし、数人が噴出す。 「ピッチャーアウト」 ついには那珂を除く全員が噴出し、戦闘中にも拘らず笑顔が溢れる。 「な、何笑ってるの？死んじゃうかもしれないのに…」 #北方鎮守府精神病棟

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「那珂よ、死ぬ覚悟なんて馬鹿馬鹿しいものは今必要ない」 長門が、笑顔のまま凛と話し出す。 「リラックスして、自分の過去を思い返せ。…あれは、過去のお前だ。別のお前だ」 ぽん、と頭に手を置き、目を合わせた。 「お前はお前だ、お前の生きたいように生きろ。死ぬな」 #北方鎮守府精神病棟

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少し分かりにくいけど、言いたい事は伝わった。 過去との惜別。過去との和解。 それが、私を変える。 遠い昔、この近くで沈んだ過去を笑い飛ばしてやろう。 笑顔で別れを告げてやろう。 　 煌く、未来のために―！ #北方鎮守府精神病棟

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「…うん、ありがと！那珂ちゃん頑張る！」 「ああ、頑張れ。私は応援し続ける」 死ぬ覚悟は消え果て、瞳に残ったのは未来への欲望。 獲物を狙う狼のように、熱き意思の籠った良い瞳になった。 「キサマラァ…！」 漸く自分の砲撃から立ち直った軽巡棲鬼が唸り出す。 #北方鎮守府精神病棟

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「ユルサヌゾ…、シズメテクレルワ…！」 軽巡棲鬼の怒りに引き寄せられたか、空が闇色に変わりゆく。 　 軽巡の華、夜戦の時間が来るのだ。 敵は先程の砲撃で中破、潰すならこの時がラストチャンスだろう。 　 見る見るうちに空は闇へ、その端々に小さな光点を映す。 #北方鎮守府精神病棟

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「綺麗…、だけど、那珂ちゃんの方がもっと綺麗なんだから！」 いつもの調子を完全に取り戻した那珂が、くるくると回りだす。 　 「今日は那珂ちゃん、特別ライブを企画しましたー！」 何処からかマイクを取り出し、満面の笑顔で嘯き出す。 #北方鎮守府精神病棟

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「その名も、『辛いのバイバイ、トラック泊地にお別れライブ』～！」 明るい口調で、どんどん高まっていく那珂。 「ゲストには、那珂ちゃんの過去の成れの果て。軽巡ちゃんにもお越しいただいちゃったよー！」 「…ミミザワリナ…、キエロ！」 迫る砲撃を、くるりと回避。 #北方鎮守府精神病棟

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「それじゃあ、那珂ちゃんも初めてのナイトライブ。―突入しちゃいまーす！」 第一艦隊が離れ、各々の砲撃音がライブの開始を告げた。 #北方鎮守府精神病棟

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―我、夜戦ニ突入ス！― 　 #北方鎮守府精神病棟

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―Resume... 　 #北方鎮守府精神病棟

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夜と深海色が支配するトラック泊地近海。 その海上で、ズダボロになった一人の少女がライトアップされていた。 「那珂ちゃんセンター！一番の見せ場です！」 　 軽巡洋艦、那珂。 嘗てこの海に沈んだ、日ノ本の軽巡の名を継ぐ少女である。 #北方鎮守府精神病棟

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少女は高らかに歌いながら、海上を駆け抜ける。 　 「クッ…！ミミザワリナ…！」 　 相対する敵、軽巡棲鬼が呻く。 くるくると回りながら歌う少女に、その歪な砲身を向けた。 　 「…シズメ」 　 BLAM!　砲が火炎を噴き、那珂へと向かって砲弾が向かう。 #北方鎮守府精神病棟

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爆音と共に、水柱が上がる。 艦載機のライトの光を反射し、水滴が煌いた。 　 その向こうから、終わらない歌声が聞こえてくる。 何時沈むかも分からないその身体は、未だ両の脚を奮わせて踊り続けていた。 　 「コノ…シズメ、シズメ！！」 砲が火を噴く。当たらない。 #北方鎮守府精神病棟

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「コノ、コノ！メザワリダ！」 撃つ、撃つ、撃つ。着弾は完璧、しかし那珂には有効打なし。 　 「グッ…！！」 残弾無、交換開始。 　 「随分と夢中になってますのね、鬼さん」 ―突如、透き通った大人しい声が背後から響き渡る。 重巡洋艦、熊野だ。 #北方鎮守府精神病棟

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「…ッ！？」 「…そんなに耳障りなら、良い方法がありますわ」 　 軽巡棲鬼の耳を、ぺろりと舐り出し。 　 「ヒッ…」 「聞こえなくしてしまえばいいのですわ」 　 熊野が、息を大きく吸い込んだ。 #北方鎮守府精神病棟

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「とおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！」 #北方鎮守府精神病棟

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突如響き渡るその豪咆に、加賀の艦載機がバランスを崩しライトアップが乱れる。近くを通っていたのか、潜水艦まで浮かび上がってきた。 　 それを知ってか知らずか、熊野がにたりと嗤う。 「どう、聞こえなくなったでしょう。ついでに視界もぐらつかせて差しあげましたわ」 #北方鎮守府精神病棟