序章『逆鱗』

第十五支援艦隊　天龍 @15tennryuu

【天龍と龍田の過去話　『逆鱗』　開始】

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天に神様なんかいない。願ったって届きやしない。 ずっとそう思っていたし今でも考えは変わっちゃいないつもりだ。 もしも天なんかでオレ達を見下している神様なんかがいたとして、会えるものならぶん殴ってやりたいよ。

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悪夢にうなされて泣き叫ぶ龍田を抱いてやりながらいつも思うんだ。 オレ達は時折昔の事を夢で見て苛まれる事がある。龍田だけでなくオレにもあるんだ、その時は龍田が抱いてくれている。 周期が決まっているわけじゃない。半年間が空く事もあれば連日の場合もあった。

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不思議な事に、同時に、は一度も無かったけどね。

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父親は政治家だった。 でもそれは直接に関係無いんだろう。身代金を要求した様子は無かった。もしもそうしたのなら父はどれだけの大金でも積んだに違いない。…と思う。 窓も無い地下室の硬い床に転がったまま一週間も過ぎた頃には、あぁ、戻れないんだって幼心にも気付いたよ。

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変な話ではある。ついこないだまで奇麗な服を着て美味しいご飯を食べてふかふかの布団で寝起きして、近所のガキ大将が自慢してそうなビー玉よりも大きい宝石を指や首にじゃらじゃら着けた婦人の方達に「お人形さんみたい」と何度も言われてきてた龍田とオレが、汚い男に同じ事を言われている。

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その頃はオレも龍田も藍色の髪を同じ長さにして、同じ衣装を着れば双子に思われる程に似ていた。鏡を見ても隣を見ても自分と同じ姿がそこにいる、いつも一緒にいる。そんな幼少期だったんだ。そういう意味ではオレ達の顔に血や痣を着けたのは、見分けられるようにかな。

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金目当てでなかった以上、本当に人形だと思ったか、あるいは単に気に入ったから持ち帰っただけなのか。 答えはもう知りようもないけれど、端的に言うのなら龍田とオレは見知らぬ男に誘拐されていた。地下室に放り込まれて、抵抗も叶わないままにただひたすら物で殴られたんだ。

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気に入ったのならそれなりの待遇をしろと。 もしかしたら、泣きじゃくるばかりの姿がお気に召さなかっただけかもな。

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何をどれだけされたかなんて、細かく言いたくはない…というか思い出したくもないさ。 そうだな、床に血ヘドを吐き散らせて、床に転がったまま叫び過ぎて焼け付く喉の渇きを潤す為にその吐き出した血を啜らざるを得ないくらいだった。とでも言えばいいかな。

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腕に残る青痣の模様が気に入らなかったみたいで、奴は画期的なアイデアを閃きやがった。 腕の皮膚表面全部を青痣『だけ』で一色にすればいいと思ったらしい。 椅子に縛られて、伸ばされた右腕を延々とすりこぎで殴られ続けた。

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普通に棒として叩くより、柄の先で打った方がはっきりと痣になると気付いたらしくて、そこからが長かった。スタンプを押すみたいに延々と硬い棒の先を打ち付けられ続けた。根気があったのか、時間を置いたらやり直しだと思ったのか…、本当に必死に見えたな。 必死なのはこっちだけど。

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打撃が肩まで及んだ辺りでようやく全体を見直していたんだけど、子供の回復力故なのかどうかは知らないけれど手首の方は色がまだらになっていた。それに、内出血による濃さの違う青い点々がやっぱり気に入らなかったみたいでね。 その後どうなったかは想像に任せるよ。

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…ん、まぁ。 どれだけの日数だったのかは数えようもなく、龍田とオレは奴の思い付くままにボコボコにされたわけだ。涙と鼻水が固まってしまった頬を床からはがす痛みって、何気に凄いんだぜ。それすら知らないだろ？

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知能のあるペットを飼っている人間が次にしたくなる事ってなんだと思う？ 奴は無駄に色々と閃いてくれる奴だったよ、失敗したら痛めつけられる、ただそれだけの躾でしばらくすればオレは目隠ししたまま鉈でジャグリングできるようになっていたし、龍田も椅子の背もたれに片手で倒立とかできていた。

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オレ達の戦闘能力の方向性の切っ掛けだった、のかも知れないな。 …そういう意味では全く感謝していないわけじゃない。 この発想はおかしいだろ？　そうだよ、龍田もオレも少なからず壊れてる。

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終わりは割と唐突だった。何て事はない。地上で何かヘマしたみたいで、普通に警察が救出にやって来た。 そうやってオレ達姉妹は晴れて自由の身になりました、とさ。

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……。 その数週間後には艦娘として鎮守府にいたけどな。最年少だったよ。今より艦娘の人数全然少ない頃だけど。 ん？　両親と元の生活に戻ったんじゃないのか、って？　それはまぁ…察せよ。

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最年少で軽巡洋艦娘でありながら、龍田もオレもあっという間に撃破数を稼いでいった。 実に簡単な事だよ。 龍田は『加虐性』の面で、オレは『嗜虐性』の面で壊れていたんだ。

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龍田はずっとにこにこしててお淑やかに振る舞っているんだけど、敵を攻める叩く潰す沈める事に関して躊躇いどころか何の感情も持てないんだ。潜水艦娘と小競り合いになっただけで相手を艦娘から退役させた事件があったくらいにな。あの子今どうしてっかな。

第十五支援艦隊　天龍 @15tennryuu

オレもオレで痛みや傷、出血に関して感覚が麻痺してた。これは今でも、だけど。 普通の人間としては救いようのない壊れ方だってのに、皮肉な事に艦娘としては優れた面になっちまうわけだ。龍田もオレも『壊れていながらそれを自覚して壊れてないように振る舞える』から問題なんだけどな。

第十五支援艦隊　天龍 @15tennryuu

…さて、長くなったな。 なんでこんな話をしたんだったか。…あぁ、そうだそうだ。単純な話だった。

第十五支援艦隊　天龍 @15tennryuu

オレはある艦娘と出会い、共に過ごしていって…いつの間にか望んでしまったんだよ。 忘れてたはずなのに、そもそも知りもしなかった感情のはずなのに、オレはあいつに１つの想いを抱えてしまった。 それでな、今ならこう思うんだ。

第十五支援艦隊　天龍 @15tennryuu

こんなオレ達でも幸せになっていいのなら、天に願ってやってもいいかな、って――

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【艦隊これくしょん二次創作】 【読者参加型騙城式ストーリー、戦う妹シリーズ第四弾】 【『千の想いを』　解編　『天に願いを』　開始】