天叢雲剣譚【1-1】

天叢雲剣譚【1-1】まとめです。潮岬鎮守府で任務に勤しむ叢雲たちに舞い込んだ一報。それが彼女の運命を大きく変える――。
2
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「まったく……何で私がこんなことしなきゃならないのよ」私は手に持った箒を動かしながら、溜息混じりに小さく呟いた。 「仕方ないですよ叢雲さん。新しい提督がいらっしゃるんですから」 どうやら横にいた妙高には聞こえていたらしい。妙高はせっせと机を拭きながら、顔を合わせることなく答えた。

2015-02-21 00:16:50
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「……わかっているわよ。でも何で今更、こんな僻地の鎮守府に提督が来るのよ」 場所は提督が仕事をするための部屋である執務室。しかし今、この潮岬鎮守府に提督はいない。それも数か月に渡って。これは本来なら由々しき事態であるが、いつまでたっても改善はされなかった。理由は単純明快である。

2015-02-21 00:25:52
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

この潮岬鎮守府への所属を希望するものが誰一人として存在しないのだ。

2015-02-21 00:27:33
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

どうしてかは知らないけれどどうやら提督希望者の中では望み薄、解体間近の鎮守府であると噂が流れているらしい。その噂ゆえここは敬遠されているらしい。……まったく失礼な話よね。 そんな状態でも何とかして鎮守府の機能を最低限保っていた。提督がいなくても、艦娘は動くことができるのだから。

2015-02-21 00:42:23
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

提督の代わりにここの指揮を執っているのがこの私、特型駆逐艦、五番艦の叢雲。鎮守府設立当初より所属している、所謂最古参の艦娘でもある。指揮を執っているとはいっても仲間、他の艦娘たちと協力しあって戦い抜いてきた。艦娘同士の絆はどこにも負けないと自負している。それなのに――

2015-02-21 00:49:42
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

今さらのこのこと提督がやってくる。それが許せなかった。私たちの絆が壊されるような気がして。その苛立ちに思わず箒を持っていた手に力がこもる。 「……叢雲さん、どうかしましたか?」 ハッとして顔を上げると妙高がすぐ目の前に立っていた。とても心配そうに私を見ている。

2015-02-21 00:56:11
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「……大丈夫よ、少し考え事をしていたわ」 「そう、ですか。体調が悪いようでしたらすぐに言ってくださいね」 ああ、もう! 私は何をやってるのよ。こんなときこそしっかりしないといけないのに。私は箒を放し、気合をいれるために頬を両手でパンと叩いた。

2015-02-21 01:07:39
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

そのとき扉の向こう、廊下からどたばたと走ってくる音が耳に入ってきた。それから間もなく、扉が勢いよく開け放たれる。そこには大淀が膝に手をついて、ハアハアと息を切らしながら立っていた。 「大淀さん、そんなに慌ててどうしたんですか?」 妙高がそう尋ねると大淀は途切れ途切れにこう告げた。

2015-02-21 01:11:46
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「き、近海を哨戒中の、第二艦隊が敵艦隊と交戦! 至急、増援を、とのことです!」 「……何ですって? それで被害は?」 私と妙高は状況を尋ねながら、艤装を置いてある工廠へと足早に向かう。 「旗艦長良が小破、僚艦である霞、望月、初雪がいずれも中破に追い込まれているそうです!」

2015-02-21 01:32:19
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「わかったわ。第二艦隊に退避命令! 今動ける艦娘に出撃準備の通達を頼むわ」 「しかし叢雲さん……」 「どうしたのよ」 「今動けるのは、ちょうど今鎮守府にいる六隻、だけなんですが……摩耶さん、天龍さんは入渠中ですし」 「……つまり私たちが出れば、鎮守府は空、ってこと?」

2015-02-21 01:41:04
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「そういうことになります」 私は思わず頭を抱えた。ぎりぎりの艦娘に資材。もちろん高速修復剤もほとんどない。しかし今は非常事態である。なりふり構っている暇は無い。 「最悪、高速修復剤を二人に。私たちだけで何とかするわ」 「わかりました」 「妙高、急ぐわよ! 何かあったら大変よ」

2015-02-21 01:50:51
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

私たちが工廠に着くと先に来ていたのか、艤装を取り付けている伊勢の姿が目に入った。 「叢雲ちゃん、大淀から聞いたわ。急ぎましょう」 「そんなのわかっているわ!」 私は自分の艤装を手に取り、素早く装着していく。そうこうしているうちに他の艦娘が次々と工廠に入ってきた。

2015-02-21 01:57:01
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「どうしたのじゃ、叢雲。何かあったのか?」 初春を筆頭に、神通、不知火が私に説明を求める。私は早口で事の成り行きを説明すると、三人は頷いて艤装の装着に向かう。ものの数分もしないうちに装着を終えた全員が私を囲んで立っている。 「これより、敵戦力と接触した第二艦隊の応援に向かうわ!」

2015-02-21 02:07:15
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

全員が口を揃えて「ハイ!」と叫ぶ。すると工廠のシャッターが開かれ、外の光が射し込んだ。 「大淀、留守を頼むわ」 「わかりました。大淀にお任せください!」 艤装を持たない大淀にそう告げると、私はキラキラと光を受けて煌めく水面を見据えて命令を飛ばした。

2015-02-21 02:14:29
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

「……第一艦隊、出撃ッ!」

2015-02-21 02:14:42
天叢雲剣譚 @sio_murakumo

@TOS 天叢雲剣譚【1-2】 - Togetterまとめ togetter.com/li/788042 @togetter_jpさんから

2015-06-14 23:34:35