『キャラクターとは何か』(小田切博、2010年)を改めて論じてみます

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まとめ 小公女セーラがミッキーマウス人形を抱くとき 何度目かのキャラクター論です。 2333 pv 10 1 user 1

これの続きです。

It happens sometimes @ElementaryGard

『キャラクターとは何か』(小田切博、2010年)を改めて論じてみます。いろいろ絶賛された本です。序章の初っ端から大エラーをしていることは過去に何度か指摘したとおりです。拙訳『スーパーマン』の訳者あとがきでも取り上げています。

2015-03-05 22:31:59
It happens sometimes @ElementaryGard

純粋にビジネス上の損得を考えるのであれば「コンテンツ」ではなく「プロパティ」を主軸にすえるべきではないか。そしてその際に何より重要視すべきなのが「キャラクター」のはずだ。そういう主張です。

2015-03-05 22:34:18

ここでいう「主張」とは小田切による主張です。私ではなくて。

It happens sometimes @ElementaryGard

『ドラえもん』のまんが、アニメ、ゲーム等が「コンテンツ」で、『ドラえもん』を使ったあらゆる商品を総合して「プロパティ」。その基軸通貨が「キャラクター」。

2015-03-05 22:36:39
It happens sometimes @ElementaryGard

アメリカではすでに19世紀末に新聞連載まんがの主人公をあしらった商品が発売されていて裁判も起きていた、と指摘。うーん実はこれ事実誤認。たしかに作者、通信社(二社!)のあいだで裁判はあったんですけど、帰属が争われたのはキャラクターではなく作品タイトルについてでした。

2015-03-05 22:40:07
It happens sometimes @ElementaryGard

それに通信社(日本と違って全国紙があの国にはなかった。各地の新聞社は通信社の系列としてあった)側は、要は売上部数が増えればそれでいいのだから連載まんがのキャラクターの商品化印税の分け前なぞ端から期待していなかった。副業で稼ぎたいのなら先生お好きなように、うちは関係ないから、と。

2015-03-05 22:48:48
It happens sometimes @ElementaryGard

「連載まんがの著作権はうち(通信社)のものだよ、登場キャラクターについても同様だよ。そう契約書に記しておいたから後はサインして。それなら連載させてあげるから」と切り出すようになったのは1910年の前後とみます。商品化印税目当てではなく、作者が連載先を切り替える事件があったから。

2015-03-05 22:51:59
It happens sometimes @ElementaryGard

今の日本でいえば、いしいひさいちが朝日新聞での『ののちゃん』連載を打ち切って読売新聞で続行するような事件がいくつかあって裁判がこじれたので、通信社側が連載前に契約書できっちり作品と登場キャラクターの帰属を取り決めするようになった、と想像しています。

2015-03-05 22:54:05
It happens sometimes @ElementaryGard

当時の裁判記録が読めるので読みこむと面白いです。小田切はそういう確認作業をしないであの本を書いてますね。

2015-03-05 22:56:03
It happens sometimes @ElementaryGard

いわゆるキャラクター小説のはしりとしてディケンズの雑誌連載小説『オリヴァー・トゥイスト』(1837年)に言及。p111。ディケンズの死後、挿絵を担当した人物が実は原案者だったとする記事が出て、ことの真偽をめぐって問題の人物とディケンズの伝記作家が論争。

2015-03-05 23:03:48
It happens sometimes @ElementaryGard

この挿絵画家はロンドンの下層社会の人びとをたくさんスケッチしていて、それにディケンズが刺激されて物語を膨らませ、登場人物を造形していったーーーなるほど今でいうキャラクター小説の発想法です。

2015-03-05 23:11:15
It happens sometimes @ElementaryGard

ただですね、この例や1891年に連載開始した『シャーロック・ホームズ』の人気を根拠に「現在あるようなかたちでのキャラクター消費は十九世紀末から二十世紀前半にかけて欧米で確立されたと考えるべきだろう」(p115)は少々強引では。 pic.twitter.com/9GYhNYNSQt

2015-03-05 23:17:55
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It happens sometimes @ElementaryGard

例えば『若草物語』は19世紀末どころか1868年の発表。四姉妹(と母親)のキャラクターの違いは味わい深い。画像は1994年の映画版から。 pic.twitter.com/ykyYsTYXg4

2015-03-05 23:24:02
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It happens sometimes @ElementaryGard

ここも少々違和感を抱いてしまう。いくつもの書評で絶賛されていた箇所なのですが。 pic.twitter.com/XQ4K3exQpp

2015-03-05 23:39:41
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It happens sometimes @ElementaryGard

「『内面』『意味』『図像』のどれか一つが一貫していれば、同一キャラクターとして通用する」と論じています右ページ。間違っているわけではありません。ただ自分は「それで?」とどうしても感じてしまうのです。

2015-03-05 23:42:54
It happens sometimes @ElementaryGard

この指摘は、あくまで絵の(つまり架空の)キャラクターについてです。実在の人物が演ずる架空キャラクターの場合はどうなる?例えば堺雅人が演ずる半沢直樹と古美門研介(『リーガルハイ』)は?逆に同一キャラクターを別俳優が演じる場合は? pic.twitter.com/bQ2Y0W8V5p

2015-03-05 23:50:03
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It happens sometimes @ElementaryGard

先ほど私は、チャップリンと同じくミッキーマウスも実在の芸人と解釈することで囲い込むという大胆かつ斬新な戦略を貫いたのがウォルト・ディズニーだったと論じました。

2015-03-05 23:54:26

ちなみにウォルトが最初だったわけではなく、先に触れたように新聞の連載まんがについて作品とともに登場キャラクターについても掲載元の通信社に帰属するという契約書に事前に描き手に署名させるやり方は1910年前後には業界スタンダードになっていたようです。ただこれは商品化での儲けを独占するためではなく、描き手と後であれこれこじれる(上で論じたとおりです)のを避けるための保険としてでした。たぶん。それに対してウォルトははっきりと商品化の儲け独占のために(というか他者に横からあれこれ吸い取られないようにするため)「ミッキーマウス=実在の芸人(によって演じられる役)」と解釈し、法廷での争いも辞さなかった。この法解釈を裁判所の判断によって裏付けていくために。

It happens sometimes @ElementaryGard

いくらアニメーションによって動き回るとはいっても、しょせんは絵。それを実在の芸人つまり同一人物と見たてるのは本来不自然なわけです。そこを強引に押し切るとなると、それこそ「図像」「意味」「内面」に属性を分割してどれか一つでも一貫していれば同一人物とみなすという暗黙の了解が問われる。

2015-03-05 23:57:21
It happens sometimes @ElementaryGard

問われるというか、自然とそうなってしまうのです。ちなみに三属性である必然はないし、小田切の分類法でなくてもいい。ひとによっては四属性に分類できるだろうし。虹の色を何色に数えるかは個人の自由なのだから。

2015-03-06 00:05:19
It happens sometimes @ElementaryGard

記号の組み合わせでできた架空人物を、チャップリンと同じく実在の芸人と見たてるのであれば、必然的にこういう暗黙の約束事は生まれてしまう。それ以上でも以下でもない。そこを小田切はわかっていない。

2015-03-06 00:09:53
It happens sometimes @ElementaryGard

それからアンクルサムがアメコミヒーローとして自律してしまった例を左ページであげていますが、これはたしか第二次大戦中のまんが化です。スーパーマンがヒトラーとスターリンを逮捕して国際法廷に突き出すまんがまで描かれた時代の産物。 pic.twitter.com/FgYfxbSDQ2

2015-03-06 00:14:50
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It happens sometimes @ElementaryGard

真珠湾攻撃はまだ未来の、つまりこの当時アメリカは第二次大戦に参戦していなかったとはいうものの、国中がぴりぴりしていた時期。コミックストリップの世界ではすでにヒーローの総力戦に突入していた。そういう特殊な時代背景があったことに言及しないのはいただけない。

2015-03-06 00:17:17
It happens sometimes @ElementaryGard

アメコミヒーローとしてのアンクルサムについてはいろいろ面白い逸話があるのですがここでは省略。

2015-03-06 00:19:30