ペイルホース死す! #3・再放送ver(実況なし)

ダイハードテイルズ出版局・本兌有によるツイッター連載小説"ペイルホース死す!"より @diehardtalesによる再放送#3のまとめ(実況なし) #1 http://togetter.com/li/783878 #2 http://togetter.com/li/785219 #3 (今ここ) 続きを読む
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ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「とにかく、これで1点先取というところだな……奴め……」彼はブツブツと呟いた。そして急に立ち止まった。「痛!」彼女は背中にぶつかった。アルビノの男はにこやかに振り返り、彼女をハグして、頭を撫で、彼女の髪に指を絡めた。そして囁いた。「私は〈西の夕闇〉だ。君の名は?」13

2015-03-05 22:36:47
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「名前は……」彼女は言い淀んだ。名前は無い。<西の夕闇>は怪訝そうにした。その表情が曇り始める。彼女は<西の夕闇>から身を離し、答えた。「イルダです」「イルダ?風化した言語?」「わかりません」「そうか。まあ、いいさ。イルダ。君はとても幸運だ。私の妻になるのだからね」 14

2015-03-05 22:39:15
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「その……」彼女は勇気を振り絞った。「ここは何処ですか?私はどのくらい眠っていたのですか?」「質問?」アルビノの男は首を傾げた。「なぜ?」「貴方の事をもっと知りたいのです」<西の夕闇>は困惑したように首を振った。彼女は奥歯を噛み締めた。よくない刺激を与えただろうか。 15

2015-03-05 22:41:59
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「そんな事を言われてもな……。どうして私に質問などする?」彼女は緊張した。かわす言葉に、常に不可解なすれ違いがある。彼の目は虚無に輝いている。恐ろしい。だが、結局彼は答えた。「この星に名は無い。所詮、つまらぬ農場だ。強いて言えば、我らの名をとって、<双子王の星>とだけ」16

2015-03-05 22:44:28
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回廊の突き当りには、乾燥蔦で装飾された瀟洒なつくりの柵扉が待ち受けていた。「私が君を買い取り、<蠱惑>から自由にしたのだ」カコン……静かな音を鳴らし、柵扉が左右に開く。「中へ」<西の夕闇>が促した。「昇降機だ。何の心配も要らない。ここは君にとって何一つ心配の無い世界だよ」17

2015-03-05 22:45:17
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カコン……二人を迎え入れると、柵扉が閉じた。彼女は上昇を感じた。「まず湯浴みだ。君は汚らしいから」<西の夕闇>はクスリと笑った。「ずっと君で遊びたいけど、そうもいかない」彼は呟き、それから真顔になり、顔を近づけた。彼女は後ずさった。「イルダ」「はい」「侍女に君を預けるが……」18

2015-03-05 22:48:13
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<西の夕闇>はイルダの鎖骨に警告めいて指を当てた。「従うべき侍女は、私に属する侍女だけだ。すなわち緑のリボン。青の侍女が近づいてきたら、決して近づくな。緑の侍女から決して離れてはならぬ。もとより離しはせぬが、念の為言っておく」「はい」「青は<東の白夜>のしるしだ。許さぬぞ」 19

2015-03-05 22:49:07
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「……はい」昇降機が停止し、柵扉が開いた。<西の夕闇>はイルダに言った。「君はこのまま降りずに上がれ。侍女を待たせてある。湯浴みをしなさい」彼は言った。「私は<東の白夜>と折衝せねばならない」「はい」「何の心配も要らない。君は自由なんだ……」 20

2015-03-05 22:53:03
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イルダは一人になった。昇降機は上昇を続ける。彼女はふいにその場に座り込み、大粒の涙をこぼす。彼女は弟のことを……唯一の肉親を想った。彼に名前があれば、その名を呼びもしただろう。しかしイルダにはただ、呻き、嗚咽するしかすべがないのだった。 21

2015-03-05 22:56:19
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「断る」<西の夕闇>は己の拒絶を嘲りと敵意で彩った。彼は長方形の食卓の一方の端に座っている。反対側には<東の白夜>が居るが、<夕闇>の席からは、おぼろな影しか見えはしない。この食卓は双子王の城における緩衝地帯だ。通常の方法で彼ら双子がお互いのもとへ到達する事はできない。 22

2015-03-05 22:57:47
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「卑怯者め」<白夜>の声が届いた。<夕闇>は笑った。「卑怯?卑怯と言ったか。違うな。貴様が愚鈍なのだ。覚醒室への立ち入りに取り決めは無い。愛の深さが速度に現れたな。私には適切な判断力があり、幸運にも恵まれていた。彼女は私にすがりつき、私に庇護される喜びに震えた……」「黙れ!」23

2015-03-05 23:01:05
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「彼女の名を、私は持っている」<夕闇>は恍惚じみて言った。「お前は持っていない!」「ウヌーッ!」<白夜>は椅子を蹴って立ち上がり、なにかをテーブル越しに投げつけた。皿か、ナイフか、肉か。ループ障壁越しにその詳細は確認できない。飛来物の影は両者の中間の空中に停止した。 24

2015-03-05 23:03:46
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飛来物は静止しているのではなく、無限に進み、戻され、進み……を繰り返している。食卓の中間地点を隔てる不可視の障壁に囚われた為だ。やがて飛来物は崩壊し、消滅する。「教えて欲しければ乞うといい!この私に!」「黙れ。私が後により適切な名を与えてやれば済む話だ。調子に乗るな臆病者め」25

2015-03-05 23:06:25
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「臆病?聞き捨てならんな」「事実だ、臆病者」<白夜>は繰り返した。「貴様が姑息に立ち回っておったまさにその時、私は国難に備え、万端、手を打った。つまり我が妻を危険から守る為にだ。私の愛は貴様以上に深い。目先の情欲にとらわれる貴様には発想もできまい」「国難だと?」「知りたいか」26

2015-03-05 23:09:13
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夕闇は爪を噛んだ。今度は白夜が仕掛ける番というわけだ。「教えて欲しければ、乞え」白夜が嘲った。「黙れ!」夕闇は銀のナイフを投げた。ナイフは食卓の中央で小刻みに震動して見えた。やがて静止。彼は舌打ちし、座り直した。「交換だ」「よかろう」「妻の名はイルダ」「我が妻の名はイルダか」27

2015-03-05 23:12:38
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「違う、我が妻だ!」「きりがないぞ、我が弟よ」白夜が肩をすくめて見せた。「私は誠実に約束を守ろう。ねじけた貴様とは違う、まことの王であるゆえに」「……」「この星に浸入した者あり」「胡乱な」夕闇は腕を組み、椅子にもたれた。「貴様の闘争願望には呆れたものだ!妄想に付き合わせるな」28

2015-03-05 23:15:34
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事実、星に戻るなり、白夜は一方的な思い込みをもとに、村ふたつ森ひとつを焼き打ちし、生き残った者たちも全て殺した。社交界での他愛ない会話、上位ネットワークを行き交う様々な噂や天候などを独自に解釈・読み解いた結果、星の一部が反光芒テロリスト集団の潜伏地と化していると誤認したのだ。29

2015-03-05 23:17:55
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「住人も際限なく空気の中から無限に生み出せるものではない。繁殖させねばならんのだ。コスト!それを理由もなく殺しおって。来季の収穫にも響く」「灰は肥沃な土を生む」白夜がうっとりと呟いた。「なにより、我が星に反光芒テロリストの棲家が無い事をこの目と耳で実感できた。喜ばしい」30

2015-03-05 23:20:04
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

「ヘドが出る!夢見心地めが」夕闇は吐き捨てた。「イルダの名にはまるで釣り合わぬ……」「現実を見ろ、〈西の夕闇〉」白夜は勿体つけながら言った。「侵入してきたのは……青ざめた馬の一団だ」「青ざめた馬だと?バカな……」「上位ネットワークを通じ、光芒会議がもたらした、確かな情報だ」31

2015-03-05 23:23:41
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

アルビノの王はしばし無言。血管の浮いた手でグラスを取り、口に含んだ。やがて呟いた。「……青ざめた馬……?だがなぜ我が星に。理由があるまい」「我が星だ」「奴は<蠱惑>の殺害をこころみ、<火の諍い女>に阻まれた。死んだとも聞くぞ?」「理由?そんな上等な連中ではない!」 32

2015-03-05 23:25:22
ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

白夜はバカにしたように言った。「光芒会議はたかが賞金稼ぎ風情を不自然なまでに恐れておる。死刑囚どもに私掠の権利を与え、銀河の秩序を乱す、それを見て見ぬ振りで済ませるなどと……」「目的も無しにこの辺境まで?」「然り。何をするかわからぬゆえに、充分に警戒せよとの通達であった」33

2015-03-05 23:26:38
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「どちらにせよ、光芒貴族相手に表立って事を構えることはあるまい。犬に近いが、犬ではない」「怯懦!」白夜がピシャリと言った。「これは我が武勇をもって銀河秩序に貢献する好機だ!既に奴は光芒法を破っておる。事前通知無しの大気圏突入!難癖つけて捕縛・処刑しても中央からは咎め無し」 34

2015-03-05 23:27:17