生きている人間が一番怖いでしょう

水谷なっぱ @nappa_fake

死体が転がっている。それはオフィスの真ん中に当たり前のように、そこが死体となった彼女の居場所であるかのように。悲鳴をあげる事すらできなかった。その死体は間違いなくわたしの同僚のモノで、見慣れた顔があんな風に歪むだなんて思ってもみなかった。 #生きている人間が一番怖いでしょう

水谷なっぱ @nappa_fake

腰を抜かしたわたしはなんとか携帯電話で警察を呼んだ。彼らは迅速にやってきて、オフィスはあっという間に人の群れでいっぱいになる。何度も同じことを聞かれたが答えられることは少ない。「朝出勤してきたら、あそこに同僚が倒れていました」それだけ。 #生きている人間が一番怖いでしょう

水谷なっぱ @nappa_fake

警察の見解では朝方同僚は何者かーおそらく男性ーに襲われた。抵抗はしたようだが力負けしたらしい。その何者かの心当たりについて聞かれたが何も知らない。警察は数日間に渡り何度となく調査に来た。が、悲劇は終わっていなかった。また、死体が転がっていた。 #生きている人間が一番怖いでしょう

水谷なっぱ @nappa_fake

警察の調査の中、死体は堂々と前と同じところに転がされていた。前と同じようにわたしの同僚で、やはり女性で眼鏡で目元にほくろがあって……？なんだか前との共通点が多いような……。気のせいだろうか。－－－しかしそれは気のせいではなかった。 #生きている人間が一番怖いでしょう

水谷なっぱ @nappa_fake

死体遺棄は続いた。毎回同じ場所に同じ共通点を持った女性が死体として転がされている。怖い。共通点はわたしも例外じゃない。このまま事件は続くのだろうか？上司や他の同僚も不安そうだ。部長に至っては日がな喫煙所にこもって誰かしらと不安を溢しあっていた。 #生きている人間が一番怖いでしょう

水谷なっぱ @nappa_fake

そんなある日手紙が届いた。『あの場所で待っています』なんだろう？今あの場所と言われれば死体遺棄の現場だろうか。時間は特に指定されていない。行くべきか行かないべきか。しかし手紙は毎日届いた。その間にも死体が増えていく。行くしかないのだろう。 #生きている人間が一番怖いでしょう

水谷なっぱ @nappa_fake

早朝、死体遺棄の現場に行くと誰もいなかった。が、そこである匂いがすることに気がつく。今までは感じなかったのに今日は痛烈に感じるこの匂いはーーー「っ！！？」後ろから鈍器が振り下ろされたのを紙一重で躱す。そのまま回し蹴りを叩きこんだ。 #生きている人間が一番怖いでしょう

水谷なっぱ @nappa_fake

そこには部長がうずくまっていた。「な、にを、する……」「それはこちらのセリフです。部長、貴方が犯人だったのですね」「うる、さい……！大人しく殺されろ！！」起き上がり迫りくる部長に渾身の拳を突きつける。部長は苦悶の表情で床に倒れこむ。 #生きている人間が一番怖いでしょう

水谷なっぱ @nappa_fake

「っ、死体を見つけて悲鳴すら上げられない女が、」「死体より生きている人間が一番怖いでしょう」「くそ」「殺人の動機は警察に説明してくださいね」倒れこむ部長を放棄して警察に電話する。いつかのようにオフィスはあっという間に人の群れでいっぱいになった。 #生きている人間が一番怖いでしょう

水谷なっぱ @nappa_fake

殺人の動機はかつて部長が置換の冤罪に問われたとき、それを言い出した女性と死んでいった彼女たちやわたしの特徴が似ているから、という事だった。逆恨みとは違うかもしれないが似たようなものだろう。部長は逮捕され職場は首になった。 #生きている人間が一番怖いでしょう

水谷なっぱ @nappa_fake

後味は悪いがこれも仕方のないことだ。部長の過去に興味はない。これで解決したならそれでいい。死んでいった同僚たちを思い忍ぶ。わたしはたまたま無事だったけど、無残に殺された彼女たちの思いはきっと部長が一生をかけて償うものになるのだろう。 #生きている人間が一番怖いでしょう