ある英雄の栄光と失墜
はじめに
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#落ちぬい二次 、始まります。本作は #不知火に落ち度はない の二次創作であり、オフィシャルではありません。感想・突っ込みなどは #落ちぬい タグでお願いします
2015-03-11 23:42:35本編
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上甲板に六本の柱が聳える巨大な艦が駆逐艦と何本ものケーブルとホースで連結しながら並走している。 「艦長、間もなく所定の補給が完了します」 「わかった。作業が終わったらさっさとずらかるぞ」#落ちぬい二次
2015-03-11 23:44:47![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
柱の艦の艦橋で艦長が指示を飛ばす。この艦はましゅう型補給艦2番艦、おうみAOE-426という。 定係港は佐世保だが、その任務上、定期修理の期間を除きほぼ一年中シーレーンを走り回っている。#落ちぬい二次
2015-03-11 23:46:06![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
艦長は片桐玉三郎大佐。歳は50に近く、腹は少しせり出して頭には白い物も混じっているが、若者以上に気力に満ちた筋金入りの軍人である。海士から部内選抜で大佐まで上り詰めただけに、部下からの信望も厚い。#落ちぬい二次
2015-03-11 23:47:45![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
日本の海上輸送は深海棲艦の出現によって甚大な被害を被った。 燃料から鉱物、食糧に至るまであらゆるものを船による輸入に頼ってきた日本は、輸送船が次々に沈められたせいで生産が滞り、そのままでは国家破産も現実のものと思われた。#落ちぬい二次
2015-03-11 23:49:13![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ロシアは日本が原油の輸入に困窮しているのを見るや、すぐに樺太から北海道に続くパイプラインの敷設を申し入れてきた。それに目先の利益が大好物の財界人は飛び付いたが、保守系の政治家は冷静だった。#落ちぬい二次
2015-03-11 23:52:27![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
ロシアからの燃料輸入に頼るという事は、ロシアに命脈を握られることである。欧州諸国の様に『ガスの元栓を閉じる』と脅されればロシアの言いなりになるほかない。だからロシアのパイプラインへの依存は極力抑え、現在でも中東の数か国からタンカーを使って原油を輸入しているのだ。#落ちぬい二次
2015-03-11 23:54:09![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
艦娘による海上輸送護衛も無論あるが、打撃力に優れる艦娘は護衛よりも攻撃に使う方が良いため、艦娘の慣熟といった側面が強い副次的な任務である。対して在来型の艦艇は燃料と食糧が尽きるまで長期にわたって海上行動ができるため、海上護衛の主力は在来型の艦艇である。#落ちぬい二次
2015-03-11 23:56:20![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
輸送船団に戦闘艦が付きっ切りで護衛せねばならないため、深海棲艦の出現前より海上輸送の絶対量は激減したが、それでも燃料に関しては何とかロシア一国に依存することは避けられている。#落ちぬい二次
2015-03-11 23:58:13![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
シーレーンを絶えず監視し続けるそれらの艦艇は極力長期間に亘って任務を遂行することが求められるが、その上で問題になるのが補給である。燃料や食料が尽きたからといって港に帰っていたのでは非効率だ。そこで用いられるのが洋上補給、つまり補給艦である。#落ちぬい二次
2015-03-12 00:00:18![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
片桐が受話器を掴んで補給先の艦に話しかける。 「おうみ艦長片桐よりいかづち。聞こえるか」 間を措かず、補給先の駆逐艦からの応答が返ってくる。 「いかづち艦長副島です。補給、ありがとうございました」#落ちぬい二次
2015-03-12 00:03:32![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「仕事ですからな。仕事ついでにおせっかいを一つ、3時間後くらいに東からクソどもが襲ってきます。くれぐれもお気をつけて」 「深海棲艦が? しかし、今日の指数は13ですよ」 副島の疑念を受けて、片桐の声に明らかな苛立ちが混じる。#落ちぬい二次
2015-03-12 00:06:13![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「疑われるならそれで結構。出なければ次にお会いした時にいくらでも文句を聞きますよ。だが出るものは出るのです。警戒して損はない」 相手が同じ階級とはいえ、片桐の言葉遣いはだいぶ荒い。しかし相手の艦長はそれを気にする風もない。むしろ遠慮している様子さえある。#落ちぬい二次
2015-03-12 00:07:16![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「いや、疑うわけでは。補給の神様の名前は知っています」 日本海軍が保有する5隻の補給艦のうち、最も信頼されているのが片桐が艦長を務めるおうみである。#落ちぬい二次
2015-03-12 00:08:52![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
補給艦には12.7mm機関銃2挺しか武装がないため普通ならば深海棲艦指数が高いだけでその海域に近付こうとはしないが、片桐の艦だけはどれほど指数が高くても予定通りに補給を行う。#落ちぬい二次
2015-03-12 00:10:20![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
その理由は片桐の特別な技にあった。片桐は海と空を眺めて風を嗅げば、海の機嫌がわかるのだという。 それに従って航海すれば、必ず嵐を避けてべた凪の海を行けた。深海棲艦が現れてからはその出現まで予想できるようになった。#落ちぬい二次
2015-03-12 00:11:44![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
海や深海棲艦の出現を予想する方法を理論に纏めろと命じられたことがあったが、結局できなかった。なにしろ片桐自身にもどういう理屈で予想できるかが分からないのだ。#落ちぬい二次
2015-03-12 00:13:24![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
深海棲艦がいる所には魚がいない、だからそれを狙う海鳥や海棲哺乳類もいない。 深海棲艦は晴れて穏やかな海には滅多に出現しない。 そういう微妙な兆候をもとに無意識のうちに判断しているのだろうが、要するに経験と天性の勘によるもので、他人に教えられるようなものではないのだ。#落ちぬい二次
2015-03-12 00:15:30![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
海を見る技と、小火器しか武装を持たない補給艦で深海棲艦がいる海を渡るくそ度胸。この二つが片桐が『補給の神様』と呼ばれる由縁である。 「ご忠告ありがとうございます。特に東に警戒する事にします」 「そうする事ですな。それではこれで失礼します」#落ちぬい二次
2015-03-12 00:17:38![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
補給ホースとハイラインを解除したおうみは、片桐の予見した深海棲艦から逃れるため最高速を発揮して離脱していった。 4時間後、いかづちから片桐が警告した通りに深海棲艦が出現し、それを見事撃退したとの報が入って、片桐はにやりと笑った。#落ちぬい二次
2015-03-12 00:19:56![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
その日の夕食の席で士官の一人が片桐に話しかけた。 「艦長、自分、次の上陸の時に結婚するんです。式に出席して頂けますか?」 「出たいところだが、すまん無理だ。そのころは海の上だ」 「え? でもその時期って艦長も上陸してるはずじゃ」#落ちぬい二次
2015-03-12 00:21:27