S-M 春

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あ阿々。 @rainbow_solara

1 もー今日寒い! 晴れてるのに風は強いし冷たいし。 冬が戻ってきたみたい。 マフラーに顔を埋める。 家に着いたらあっついコーヒー淹れて昨日買ったケーキ食べよ。 そんなことを考えながら足を速めた。 『きゃっ!?』 頬にヒヤッと何かが落ちてきた。 嘘、雪!?

2015-03-11 11:22:47
あ阿々。 @rainbow_solara

2 思わずそこに手を当てる。 でも…あれ、濡れてない…? 顔を上げた。 そこには濃いピンクの枝垂れ梅。 微かに薫る甘い香りと一緒に花びらをまき散らしている。 わぁ、綺麗…。 そうか、もうこんな季節なんだ。 日々の忙しさとこの寒さですっかり忘れてた。

2015-03-11 11:22:52
あ阿々。 @rainbow_solara

3 ちゃんと季節はまわるんだなあ…。 ぼんやり見上げていると、ちらり、白いものが降ってきた。 今度は本当に雪。 青空に白とピンクが舞う。 風花。 寒さを忘れて、しばらく見惚れていた。 ポケットの中の電話が鳴る。 あ、忘れてた。 もうすぐ帰るってメールしてたんだっけ。

2015-03-11 11:22:58
あ阿々。 @rainbow_solara

4 すばる待ってるな。 落ちた花びらを一枚拾ってそこを離れた。 あそこの神社、梅林があるんだよね。 今度一緒に行かないかな。 花粉しんどいから嫌って言うかな。 相変わらず風は冷たいけど、何だか気分があったかい。 足取りも軽い。 もうすぐ春。

2015-03-11 11:23:03
あ阿々。 @rainbow_solara

1 「嫌や、そんなん」 お花見提案速却下。 「花粉でしんどいんに、なんでそんなん行かなあかんねん」 そう言うと思った。 私にはわからない悩み。 それ言われちゃ何にも言えない。 いいもん。 明日にでも一人で行くもん。 眉間に皺を寄せてコーヒーを飲むすばるを見つめた。

2015-03-11 20:02:06
あ阿々。 @rainbow_solara

2 もう時計の針がてっぺんを回ろうかとした頃。 「コンビニ行こ」 デザート? 誘われて外に出た。 『車?』 「ん?いや、歩こ」 珍しい。 いっつもこの時期外歩きたがらないのに。 眼鏡にマスクして、完全防備。 不審者。 いや、この季節珍しくはないか。

2015-03-11 20:02:22
あ阿々。 @rainbow_solara

3 コンビニで甘いものとお酒と。 寒いからあったかい缶コーヒーも一本買って、二人で分け分けして飲みながら歩く。 「そっちちゃうで」 家の方向に曲がろうとしたら止められた。 「こっち」 手を取られて反対の方向に歩き出す。 『どこ行くの?』 「ん?」

2015-03-11 20:02:38
あ阿々。 @rainbow_solara

4 答えがないまま、引っ張られてついて行く。 …あ、わかった。 着いたのは昼間言ってた神社。 少し離れたところからでも濃密な香りが漂う。 『嫌だって言ったのに』 「夜なら花粉マシやろ」 『暗いし』 「大丈夫やって」 人気のない境内を進む。

2015-03-11 20:03:02
あ阿々。 @rainbow_solara

5 「ほら」 澄んだ空気の中、ぼんやり浮かび上がる梅の花。 そうだ、今日は満月だ。 最低限の照明しかない足元を月が照らす。 白紅桃咲き乱れて匂い立つ。 その中を二人で歩く。 静かな境内。 聞こえるのは花が舞う音と私たちの足音だけ。 喧騒から切り離されて、二人っきり。

2015-03-11 20:03:17
あ阿々。 @rainbow_solara

6 昼の鮮やかな色彩とは違って、青白い光に照らされた花はその主張を抑えて静かに佇んで私たちをただ見守ってる。 「こんだけあったら梅酒作り放題やな」 …もー、ムード台無し…。 『…何か、こういうとこのって薬使って梅維持してるから、実は食べられないんだってよ?』

2015-03-11 20:03:34
あ阿々。 @rainbow_solara

7 「何やつまらん」 花より団子? そんな興味もないくせに。 笑いが込み上げる。 「寒。もぅええ?帰ろ?」 『うん』 上げた顔に落ちるキス。 …あ、マスク。 顔を見合わせて笑って。 邪魔な布は下にずらして、もう一度。 満開の花の中、今度はしっかり唇を合わせた。

2015-03-11 20:03:47
あ阿々。 @rainbow_solara

1 「桜は?」 『桜どっちでもいい』 「梅がええん?」 『うん』 「ババくさいな」 『よく言われる』 「長いこと一緒におるけどお前の趣味ようわからん」 『何回も同じこと聞かれてるけどね』 「俺に?」 『すばるに』 「そうやっけ?」 『毎年同じこと言ってる』 「覚えてない」

2015-03-12 17:32:04
あ阿々。 @rainbow_solara

2 『でもまあ、毎年何だかんだで付き合ってくれてるよ』 「…ほんまに?」 『覚えてない?』 「毎年かどうかは覚えてない」 『それもどうかと思うんだけどなあ』 「嫌か?」 『慣れた』

2015-03-12 17:32:09
あ阿々。 @rainbow_solara

3 「覚えてることもあんで?」 『例えば?』 「コーヒーは砂糖入れないとか、生クリームのケーキ好きとか」 『何それ』 「イベント事よりこういう季節もん好きやろ?」 『まあそうだね』 「犬より猫とか」 『…それはどっちでもいいなあ』

2015-03-12 17:32:13
あ阿々。 @rainbow_solara

4 「んー、ほんとは最初からガツガツやるよりゆっくりした方が好きとか」 『っ、なっ!?』 「仕事行く前に襲われんの好きとか」 『ちょ、やめっ!』 「やめろ言われてもやめたらあかんとか」 『~~~っ!』 「いてっ!叩くなって!」 『知らない!』 「待てって」 『手離して!』

2015-03-12 17:32:17
あ阿々。 @rainbow_solara

5 「嫌や。でもそやろ?」 『知らないってば!』 「声でかい」 『っ!ん…むぅ…』 「…ッは…な?」 『…外…』 「ん。だから早よ帰ろ」 『…』 「ゆっくりやったるから」 『…絶対嘘』 「努力はする」 『…嫌って言ったら…』 「知らん」 『…もー…』 「好きやろ?」 『…バカ』

2015-03-12 17:32:22