【メモ用】芝村さんの虫除けその2(現代編と平安(相模)編+別番組)
3/26:背中をバンバン
給湯室で茶を淹れていると、背中をバンバン叩く女がいた。 死にそうな顔で腫れた手を胸元で抑えている。 茶を淹れながら上を見て、何を言うべきか考えた。 紅茶を淹れる方法はいくつもある。いい方法もある。悪い方法もある。 俺はそう言って席に戻った。 2
2015-03-26 16:03:37翌日。背中をバンバン叩く女からハンマーで背中を叩かれたんですよと彼は言った。 俺は紅茶を飲んだ後、目を細めた。 そっちだったか。 人生は良いこともある。悪いこともある。 3了
2015-03-26 16:05:033/28:虫愛ずる姫?
今は昔、虫を愛する姫君がいて、多様な芋虫を集めて並べて顔を近づけてみていたところ、それもう大層な評判にて、垣根の先には求婚を申し込むでもないのにおのこが並んでおりました。
2015-03-28 01:20:41おお、なんと恐ろしく、なんとおぞましきこと。 眉を描くこともなく、香を焚き詰めるでもないその様子に、おのこたちは恐れました。 一方の姫はそんな様子など気にもせず、芋虫の様子を瞬きもせずに紙に描きとっておりました。2
2015-03-28 01:21:37そこに風でも吹いたかのごとく、さわりときたるおのこが一人。 古風な夏束帯をつけ、おいかけも眩しき姿にて、特に挨拶もなしにて姫の横に座り、笑って睨みをきかせました。 傍に置いた太刀を見て、おのこたちは我先に去り、庭は春の静けさを取り戻しました。 3
2015-03-28 01:22:27風に吹かれ悠然と待つこといくばくか。顔をあげて姫君は驚きました。 ーー源憲尊は何故ここに? ーー何。この荒家ならば心静かに休めると思ったまででして。 ーーそうなの? そうだ。聞いて私、見つけたの。芋虫は足が六本なのよ。 ーーははぁ。姫君は昔から目の付け所が違いますな。 4
2015-03-28 01:23:14おのこがまろやかに笑うと、姫君は我が春が来たかのように笑いました。 ーーそんなことを言うのは憲尊だけよ。皆それがどうしたというのだもの。 ーー分かっておらぬのです。世の人々は、貴方の事も。貴方の笑顔も。 ーーいけない。私、今日も顔を隠して笑うのを忘れていたわ。 5
2015-03-28 01:23:54おのこはひとしきり笑った後、居住まいを正しました。 ーー姫。私と共に相模の国にでも行きませぬか。 ーー何故? ーー私がそこに行くからですが。 ーーそうなの? きっと大出世ね。おめでとう。でも 返事の全てを聞く前に。おのこは席を立ちました。 6
2015-03-28 01:24:42ーーいや、失礼。お気に召されるな。人生でただ一度、ただ一回だけ、思うことを、口にしただけです。おさらばを。貴方に誰よりも神仏の加護を。 おのこは去り、庭の外でもう一度、神仏の加護をと声をあげました。 7
2015-03-28 01:25:223/29:相模編追加
今は昔、相模国に朝廷より遣わされた一人のおのこがおりました。 姓は源氏名は憲尊、六尺に近づく身の丈を持った太刀持たぬ超戦士にて、目は涼やかで淡い絶望で瞳を飾り、何が楽しいのか、いつでも微かな笑いを浮かべておりました。 9
2015-03-29 23:34:27秋毫も犯さず、神仏にももはや祈らず、ただ民のために戦い続ける憲尊を民草口を揃えてこう呼びました。武勇輩、ぶゆうのともがらと。 10
2015-03-29 23:35:04相模湾に、一際星の振る夜の事でした。 落ちてきた天狗の数は四百を数え、既に多くの村が、畑が、火を吹いて燃えておりました。天狗とはよく言ったもので、星は地上で爆ぜる時に狗の遠吠えのような音を立てるのでした。 11
2015-03-29 23:35:48遠く、燎原の勢いで燃える炎に横顔を照らしながら、一人の舎人が声をあげました。 ーー御大将、今一度、出陣はできませぬか。 舎人見上げる巨大な人形、戸の開いた操者の間にて、憲尊はそっと指に這わせた虫を木に戻し、操者の間を照らす青く淡い光にて、その瞳を輝かせました。 12
2015-03-29 23:37:20ーー何度でも戦おうぞ。民は悲しんでいる。 相模にて郎党となった者たちは朗々とした憲尊の声に生気を得て、手にした雷弓を掲げて再び戦いの誓いを立てました。 ーーわが妻は いたく恋ひらし 飲む水に 影さへ見えて 世に忘られず だから戦うのだ、命をかけて。 13
2015-03-29 23:46:48ーー御大将、三日月の元気を充し、また甲を変えますゆえ、しばしお待ちを。糧食を猿に持って行かせまする。 操者の間の中で頷く憲尊は、木を伝って小柄な人影が寄るのを見ました。手を伸ばし、操者の間の戸に降りれるよう、手助けをします。 14
2015-03-29 23:47:38操者の間の中で頷く憲尊は、木を伝って小柄な人影が寄るのを見ました。手を伸ばし、操者の間の戸に降りれるよう、手助けをします。 猿と呼ばれた娘は、憲尊の顔を見て顔を曇らせた後、すぐに皮肉そうな直面にて口を開きました。 ーー大将、いつも笑ってるね。 ーーそうか? 15
2015-03-29 23:48:20