稲川淳二の『つぶやき怪談』(2015.03.28)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

こんばんは、稲川淳二です。 それでは、今回の「つぶやき怪談」そろそろ始めましょうか。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

節電のために、部屋の明かりを消して、 怖ーい噺で楽しんで下さい。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

稲川淳二の「つぶやき怪談」、怖・楽しい時間を、共有しましょう。 何が起こっても、責任はとれませんけど。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

静岡県の山裾にある原生林で、 深夜にドラマの撮影がおこなわれていたんですが、 時刻は既に、夜中の１時を回っていて、 さすがに疲れと眠気が襲ってくる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、ここで、シーンが変わるんで、 照明などのセッティングの間、しばらく休憩が入ったんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

煙草を一服する人、コーヒーを飲みながらひと息つく人、 そんななか、若手女優の、仮に未華さんとしておきますが、 ひと休みしようと、スタッフに告げてロケバスに向かった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

季節は、春まだ浅い４月の初めですから、 夜中の原生林の中はことの外冷える。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

葉の落ちた黒い木々の間を抜けて行くと、 向こうに明かりを消したロケバスが見えてきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

車内灯をつけていないところを見ると、 中で仮眠をとっている人達がいるんでしょう。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

大きな音たてないように、そっと扉を開けて、乗り込むと、 月明かりの幽かな明かりで、車内の人達がボンヤリと見えた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

あちこちから寝息が聞こえてくる。 空いている席を見つけて腰かけると、 背もたれを少し倒して目を瞑った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると急に眠気をもようしてきた。 ・・・・と、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ウウウ、・・・ウウ―ッ・・・ウウ―ッ・・・」 近くで呻き声がする。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（・・・誰だろう、随分苦しそうだなァ） と思っていると。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『ハァハァハァハァ・・』 「う―ん・・・う―ん・・・う―ん・・・・・」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

車内のあっちからも、こっちからも聞こえてくる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（寝息じゃない。呻き声だ・・・・・）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「苦しい・・・・、苦しい・・・・、助けて―・・・・」 後ろで、女の声がしている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（おかしい！？・・この人達・・・撮影の人達じゃない・・・・、 このバスの中にいるのは、皆、生きている人じゃないんだ！）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と思った途端、全身が凍りついた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（直ぐに、司書ここから出なくちゃ） 慌てて、席を立とうとするんですが、恐怖で身体が動かない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

逃げ出したくても、逃げられない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（見ちゃ駄目だ） と自分に言い聞かせて。 息を殺して、じっと目を瞑った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

冷えた汗が、顔面から首筋を伝って流れ落ちて行く。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（苦しい・・・・・、苦し―・・・・・、苦し―・・・・・） 背後で、女の呻きが大きくなってきた。