村上春樹風ダラダラ小説 前編

村上春樹が書いたような話を適当に書いてみました。
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PUNK №𝕏🦔™𝄇 @suzumori

「『宝石箱』が食べたい」とオギヤが言った。オギヤは大学の友人たちの間では『おぎやん』とか『オギャア』とか言われてそこそこちやほやされている、化粧をするのがちと嫌いな僕の彼女だ。僕はオギヤの要望には極力応える覚悟は出来ていた。

2010-11-12 23:48:42
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オギヤは僕の彼女なのだから、彼女のリクエストには『オトナの余裕』を持って応えていかないと、僕の人生は彩り豊かなものへとならないだろう。だが待てよ。僕はキッチンで考えこんだ。

2010-11-12 23:54:24
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こないだアナルセックス券は使ってしまったけど、まだノーマルセックス券は2枚ほど残っていたはずだ。まだ僕は渇望をしていない。彼女のわがままなリクエストを“たった今”僕は聞き入れるべきなのだろうか。

2010-11-12 23:55:48
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振り向くと下着姿のオギヤが居た。「『宝石箱』食べたい。買ってきて」そう言い残すとオギヤはまたベッドに入ってしまう。どうせ明日になれば何もかもすべて忘れてしまうのだろう。それでも僕は『宝石箱』を買ってこなければならなかった。

2010-11-13 00:00:54
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狛江駅に着いた僕は駅前からタクシーに乗った。「「とりあえず」僕は言った。『宝石箱』を売っているところに行って」「『宝石箱』は宝石屋に行けば良いですかね?でも24時間やってる宝石店なんてそうそうないですよ」

2010-11-13 00:05:03
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「いや、そんな無理な注文を、僕は、あなたに、言わない」僕は真面目な顔で真摯な口調で応えた。「その『宝石箱』は食べれる宝石箱なんだ。解るだろう?」これで運転手も納得しただろう。僕は満足気にシートに持たれた。

2010-11-13 00:08:53
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「あ…ああ、あの『宝石箱』のことですね。アイスクリームの。でもあれ確かとっくの昔に発売中止になってたんじゃないかな?」運転手の導き出した解答は、まったくもって予想外の解答だった。宝石箱というアイスクリームがこの世にあるのか?

2010-11-13 00:14:52
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「うん、それだ」僕は当たり前のように答えた。タクシーは走り出す。多摩川を越えて神奈川県K崎市に向かっているようだ。川沿いのラブホテルの看板が見える。タクシーは居酒屋の暖簾を潜り抜けるかのごとく軽やかにラブホテル「イェスタディ」に入った。

2010-11-13 00:24:30
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「こんなところに、本当にここに、『宝石箱』があるのかい?」僕は尋ねた。運転手は前を向いたまま応えた。「…だから来たんじゃねえか」それはそうだ。降りるか。僕はメーターに目を遣ると5000円札を取り出した。そういえば、僕はまだこの運転手の顔を知らない。

2010-11-13 00:31:09
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駐車場からフロントへの通路を探す。この年になって1人でラブホテルのフロントを訪ねることになるとは、オギヤが夜中に突然「『宝石箱』を食べたい」などと言わない限りあり得ない展開だった。廊下でゾウガメが倒れていたが無視した。

2010-11-13 00:39:03
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「一人かい。ヒヒ」絵に描いたようなくたびれた茶髪のマントヒヒが値踏みするように僕の瞳を見つめる。「あんたはいつだって独りだった。そうだろ?でも寂しいから電話で女を呼ぶのさ」

2010-11-13 00:50:20
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書きかけの小説になんて、何の価値も無いさ。何もね。ダラク・ハートフィールドは1937年の初冬にその事実に気付いていた。僕は人並み程度には、それを理解しているつもりだった。だが今の僕には、眠りを貪ることしか考えられない。おやすみなさい。さようなら、バイバイよ。

2010-11-13 23:36:50
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“朝がまた来る。曇り空の遊歩道で自らの遊歩背を鑑みながら進むと、右手の田園都市から飛来した焚き火の灰が目の前を通り過ぎた。今日がより良い一日となる兆しと感じ、足を止めてしまう。私は不幸を望んでいる。”ダラク・ハートフィールド著『ジ・ダラク・フィールド』より

2010-11-14 08:56:08
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【前回までのあらすじ】バーミヤンにてプーアル茶を飲もうとミニポットに茶葉を入れ、熱湯を注いだのだが、欲を出して茶碗まで湯をかけて温め、本格的な独り深夜茶会を開催しようとしたが、茶碗の湯を捨てる際に左手中指に熱湯がかかり、悲鳴を上げてしまった午前0時25分。

2010-11-15 00:46:22
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「最近、あんたみたいの多いよ」マントヒヒは言った。「独りに耐えきれなくなって、勝手に自滅していく。男はみんなそうさ。仕事じゃ気丈に振る舞ってても、性癖には敵わないのさ。で、どんな女が良いんだい?」マントヒヒは顔をくしゃくしゃにして笑った。

2010-11-15 00:52:43
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「僕は『宝石箱』が欲しい。どうやらそれは食べられるらしい。アイスクリームであると言う有力な説もある」僕は1ナノミクロンも表情を変えず言った。

2010-11-15 00:58:48
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するとマントヒヒは、何でまあこの男は、クイーンサイズのベッド上で全裸になっている私に対してそんなつまらないことを?という顔をして、ブルーベリー色の小さなメモ紙を差し出した。「これに住所と名前、メールアドレスとアカウント名を書いて211号室へ」

2010-11-15 01:01:37
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どこか残念そうな表情を浮かべているマントヒヒの目の前で自分の個人情報を書き込んでいくのは、意外にも悪くない経験だった。僕は何も逆らわず何も尋ねず、ただブルーベリー色のメモ紙に萎びた鉛筆で記入をした。こりこり。

2010-11-15 01:09:55
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僕がメモ紙から顔をあげると、茶髪のマントヒヒはごつごつした左手の人差し指と薬指のツメでメモ紙を摘み上げた。ほぼ同時にフロントの引き戸が右から左に移動した。シャット・アウト。僕はエレベーターを探すことにした。

2010-11-15 01:16:06
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きっと男女二人がやっと乗り込めるような狭さのエレベーターがあるはずなのだ。エレベーターに乗り込んだ瞬間に、山手通りでは出来ないような激しいキスをしたり、乳房を揉まれながら「やだもう…部屋まで待てないの?」などと言う不器用な男女がいるはずなのだ。

2010-11-15 01:24:44
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誰にも見られない、誰も手を出せないエレベーターの中で、衝動と打算と支配欲で後先を考えずにただ行動を繰り返すだけの人びとを、監視カメラから覗く生活を夢見ていた。僕はいつだって望んでいた。しかし、その夢は叶うことは無かった。

2010-11-15 01:31:56
PUNK №𝕏🦔™𝄇 @suzumori

村上春樹 中国のネットで読み放題(笑) via AERA 吊り広告

2010-11-15 09:25:20
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そのようなエレベーターを、僕は探した。数秒前に通り過ぎたドアの番号をちらりと見る。2008。ドアの番号が示すには、今、僕がいる階は20階のようだった。いつの間に僕はあのフロントから20階に?

2010-11-15 23:55:02
PUNK №𝕏🦔™𝄇 @suzumori

そういえばこの前、アメリカで一番権威がある映画賞を受賞したアニメは、老人が家の下に潜っていくアニメだった。僕はいつも思うのだが、僕自身を納得させるのがとても上手だ。下の階へ下がる手段を探して、角を曲がる。目の前にはぼやけた色の壁の両隣りに林立するドアの狭間をモーゼのように進む。

2010-11-16 00:00:06
PUNK №𝕏🦔™𝄇 @suzumori

「・・・2209.2208.2207.2206.2205.2204.2203・・・・・・2202」もう何分歩いたのだろう。控えめに光る黄金色のプレートは、僕が何度も通り過ぎたであろう2202号室のドアの前に、僕が再び立っているという事実を静かに伝えてくる。

2010-11-16 00:08:24