- dairokusendai
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「避けろおぉぉぉぉぉ」 川内の怒声とほぼ同時に、舵が装甲列車に向かって大きく切られた! 水上機関車は、並走しながらも、分厚い装甲を身にまとった大要塞との距離をどんどんと詰めていくのであった!
2015-04-10 22:10:23夕張が舵を切ると同時に、直ぐ近くの海面に巨大な水柱が跳ね上がった! その飛び散った水しぶきはダダダダダダ!!と凄まじい音を立てながら、客車の天井に打ち付けられた! 開けっ放しにされた窓からは容赦なく海水が塊となって入ってくるので、もう座席もびちょびちょになってしまっている。
2015-04-10 22:29:04「こりゃまるで水族館だな」 川内が機関室の方をみながら、ニヤリと笑った。水上機関車が回避運動をして、客車が右に左にと揺れるたびに、客車内に溜まった海水も併せて右に左にと波を立てた。
2015-04-10 22:34:48「航空機、全機発艦準備せよ!」 川内がそう言って、瑞鶴の方を振り向く。瑞鶴は何も言わずに頷くと、自分が一番信頼している小隊の矢を、矢筒から抜くと、少し広めに作られた乗車口に立った。川内は誰にも悟られないようにホッとした顔をした。
2015-04-10 22:40:42ズドーン! ズドーン! 外れた砲弾といえども、お腹を底から揺らすような、衝撃を機関車に乗っている全員に与える。水上蒸気機関車に不慣れな第一艦隊、特に体の細い秋月なんかは揺れるたびに、よろめいて何かに腰をぶつけている。
2015-04-10 22:46:25「秋月ぃ、こんなんでへこたれてたら駄目よ! こっちの列車砲の衝撃はこんなもんじゃないわよ! 対空電探を起動! 敵戦闘機の索敵に従事せよ!」 川内が嬉々としてビギナーを笑いながら、指示を出す。秋月の真面目な返事が帰ってくると、車内電話のスイッチを入れた。
2015-04-10 22:49:43しばらく夕張と話しいたが、受話器から聞こえる夕張の声が説教臭くなると、途端に通信を叩き切って、今度は車両後方。列車砲の管制を行っている足柄と衣笠に電話をかけた。すると、衣笠の少し弾んだ声が受話器から聞こえてきた。 「川内さん! いつ? いつになったら撃ってもいいの!」
2015-04-10 22:53:39「後、105秒待ったら良いわよ。足柄に伝えて頂戴。30秒に一回、あんたが一番得意な距離にまで近づいてあげるから、そのタイミングでやつの頭を吹き飛ばしてやりなさいってね」 衣笠が足柄に報告しているくぐもった声が聞こえる。すると今度は足柄が応答した。
2015-04-10 22:59:03衣笠と比べて足柄の声は落ち着いていた 「最初はどっち?」 「たぶん撃てても八発なのよ、撃沈を優先させたい。徹甲弾でお願い」 「了解。八発あれば仕留められるわ」 足柄は自信満々に返事をした。なかなかの戦闘狂で自信家だが、それを裏付けるだけの実力が彼女にあった。川内も心配していない
2015-04-10 23:06:06「砲戦、よーい! 目標的装甲列車!」 客車の後ろから、列車砲が照準を合わせるために砲塔が動く大きな音が聞こえてきた。敵の艦載機や潜水艦の反応はない。川内は隣で測量器具を覗き込んでいる綾波や叢雲に逐次確認を取りながら、焦る心を抑えた。まだだ、まだ早い。そう何度も言い聞かせる。
2015-04-10 23:22:27この5500tの見栄っ張りは、焦る心をおくびにも出さずに不敵に笑っている。敵をしっかりと見据え、綾波からの測距報告に特別な反応を示さないが、内心では、早く号令を出したくてうずうずとしていた。焦るな、焦るな。舌なめずりしたくなるのを必死にこらえながら、腕を組んで堪える。
2015-04-10 23:26:20「ってえぇぇぇぇぇぇ!」 綾波の報告とほぼ同時に、川内の声が響き渡って、ほんの少しだけ遅れて凄まじい爆音とともに、20.3㎝列車砲から、巨大な砲弾が発射された。凄まじい爆音と共に開け放たれた窓から硝煙の匂いが客室内に一気に流れ込んできた!
2015-04-10 23:37:34瞬間、遅れてやってきた衝撃がびりびりと地面を伝わり、ガタガタと後ろから前へと衝撃が走るのに併せて、窓が揺れた。腹の底がびりびりと痛いほどに震える。爆音のせいで、列車砲に近い方の耳がキーンと耳鳴りをする。黒い煙は、海風にさっと吹き飛ばされて消えてしまった。
2015-04-11 00:18:34川内や足柄を初めとした多くの艦娘が、この巨大な列車砲を好むのは、この煙や匂いそして体じゅうを駆け巡るこの衝撃が、昔を、70年前とどこか似ていて心地よいからかのかもしれない。あるいは、人の体を持っていると実感できるが故なのかもしれない。
2015-04-11 00:26:10列車砲から放たれた徹甲弾は、大きな弧を描きながらみるみるうちに数万メートル先の装甲列車に迫る! それを艦娘たちは固唾をのんで見守っていた。川内は鎖付きの懐中時計を眺めて、弾着までの時間をカウントする。 そうする間にも、水上機関車は敵装甲列車との距離を一旦開けていた。
2015-04-11 00:35:51「3……2……1……だんちゃーく!」 しかし装甲列車の方をみても水柱も、貫通してできた穴すらも見受けられない……装甲列車は相も変わらずに直進を続けている。 「叢雲、何があった」 沈黙に包まれた客室内で川内が苦々しそうに、叢雲に尋ねた。
2015-04-11 00:40:14「跳ねた。敵装甲に命中するも、装甲を貫通できずに弾かれちゃったわ!」 叢雲の声に全員が落胆の表情をみせる。すると間髪入れずに車内電話が鳴り響いた。川内が応答すると、足柄だった。 「川内ゴメン! 角度が悪かったわ! 今度は上手く当てるから!」
2015-04-11 00:43:38少し強引さを感じる物言いだった。これは私の仕事だから、お前らは何も心配するなと、言おうとしているのかもしれない。 「初弾命中ご苦労! 次も当てて頂戴! あと18秒で再突撃よ!」 川内も、大きな声で思いっきり見栄を張ってから通信を切った。
2015-04-11 00:47:36もう既に、再び装甲列車との距離をつめはじめている。綾波が再び測距機を片手に距離を読み上げている。今度こそ貫通してくれ、さっきのが偶然弾かれただけなのだと証明してくれ……その場にいた全員が半ば祈るように、して再びあの衝撃が走るのを待ちわびた。
2015-04-11 00:50:48次の一撃も当たった。さっきとは違う場所に、まるで吸い込まれるようにして命中した。本来なら、二度も連続で命中させた足柄の砲撃の巧さに誰もが感嘆することだっただろう。しかし、その砲弾も、また弾かれてしまったのだった。
2015-04-11 00:54:0720.3cm列車砲をもってすら貫通できない装甲列車。その言葉に誰もが震撼した。そして追い打ちをかけるように、砲弾が彼女たちの乗る水上機関車に降り注いだ……!
2015-04-11 00:55:19