ア・ニンジャ・サドン・ライズ・アンド・スクイーズ

ニンジャが出て搾る!
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@nezumi_a

「ドーモ!焼きたてですよ!」乾杯のタイミングを待っていたイタマエがアイサツをした。配膳マイコが続き、焼きあがったクシで刺されたテリヤキチキンや、大皿に山と盛られたカラアゲ(日本のフライドチキンである)を笑顔で並べていく。20

2015-04-20 20:13:17
@nezumi_a

ネオサイタマ庶民の食は合成魚介食品が主だが、ここ「トリゴダ」のようにチキンを出す店も存在する。何日も会社に泊まり込みだった彼らは、安くて早いだけが取り得のドンブリポンのデリバリーで食い繋いでいた。成型魚介ではない料理で慰労しようというオソマ課長の奥ゆかしい配慮である。21

2015-04-20 20:16:10
@nezumi_a

「ドンブリポンはしばらくいきたくないですね」「いっそ会社の食堂にしてしまいますか」「なら社割を適用しないと」「「「アッハハハハハ!」」」次々と並ぶ鶏肉料理からは食欲をそそる湯気が立ち昇り、サラリマンたちは笑顔でその様子を眺めている。22

2015-04-20 20:19:19
@nezumi_a

ゴトリと置かれた大皿にはテリヤキ、シオ、ネギマ、レバ。他にも鳥の希少部位を使ったクシ焼きが並んでいた。タレのショーユめいた香ばしい匂いが立ち昇り、肉の微かな焦げ目と脂の照りのコントラストが、見る者の心を掴んで離さない。課長がタレ・クシを取り、チキンに噛り付いた。23

2015-04-20 20:22:06
@nezumi_a

成型品では味わえない弾力のある歯ごたえ、溢れる肉汁。合成魚介では味わえない脂の旨みがトモエめいて課長の味覚を貫き、戦い抜いたサラリマンの肉体を優しく癒す。課長は静かに涙を流しながら咀嚼し、飲み込むと部下を促した。「さあ、キミタチも食べたまえ!」24

2015-04-20 20:25:15
@nezumi_a

「「「「「イタダキマス!」」」」」サラリマンたちはカラアゲに群がった。大皿に山と盛られたカラアゲは、この店自慢のメニュー、マウント・カラアゲ。古事記にも記されているという黄金フジサンのごとき輝きを放ち、サラリマンたちの空腹を満たす為に静かに聳えていた。25

2015-04-20 20:28:11
@nezumi_a

ロングチャブを挟んで相手の顔が見えないほどの威容に、一同の顔に笑みが溢れた。ワリバシを割り、小皿が行き渡る。「バーバキューソースはありますか」「私はマヨネーズを」各々が好みの調味料を注文する。その時だ。26

2015-04-20 20:31:17
@nezumi_a

「レモン・シボリマスネ」居合わせたサラリマンの誰でもない声が謎めいたチャントを紡ぎ、同時にハーフカットされたレモンを握る手が、幸福のジグラットであるマウント・カラアゲ上空に突き出された!「イヤーッ!」SPLAAAAASH!27

2015-04-20 20:34:09
@nezumi_a

カラテシャウトと共にオーガニックレモンは瞬時に握り潰され、たっぷりのレモン果汁は突然の雨めいてマウント・カラアゲをしとどに濡らし、隅々まで行き渡った!「「「「「「アーッ!」」」」」」それを成すすべなく見守るサラリマンたち!全ては一瞬の出来事だった!28

2015-04-20 20:37:19
@nezumi_a

残されたのはレモン果汁まみれとなったカラアゲの山。無論、カラアゲを美味しく食べる調味料のひとつにレモン果汁があることは、ここにいる誰もが承知している。しかしそれは個人の味覚、好みによって選択されるべき事柄であり、間違ってもこのような無差別撒布を行っていいものではない。29

2015-04-20 20:40:06
@nezumi_a

このような奥ゆかしくない行為は、重度のシツレイとされ、場合によってはケジメ案件となるのだ!我に返った課長が、絞り尽くされたレモンを見た。そしてそれを握る手の主も。「テメッコラー!タナカッコラー!」「エッ」タナカ係長補佐は、自分の手の中にある絞り尽くされたレモンを見た。30

2015-04-20 20:43:16
@nezumi_a

「エッ」顔を上げると、場の全員が怒りの表情でタナカ係長補佐を見ていた。「エッ」「「「「「ザッケンナコラー!」」」」」怒り爆発!コワイ!「アイエエエエエ!これは違うんです!違うんです!」「何が違うッテンダコラー!」「今すぐケジメしろッコラー!」「レモンッコラー!」31

2015-04-20 20:46:18
@nezumi_a

先ほどまでの和気藹々とした空気は既に無く、いまはタナカ係長補佐のケジメを求める声で団結!「ザッケンナコラー!」「グワーッ!?」短気で知られるドガキ係長のカラテストレートが、タナカ係長補佐の顔面を捉えた!疲労と空腹でまともな判断力が残っていないのだ!32

2015-04-20 20:49:10
@nezumi_a

「チャルワレッコラー!」「ア、アイエエエエ……」ドガキ係長の営業で鳴らしたヤクザスラングだ!コワイ!タナカ係長補佐は失禁!「ケ、ジ、メ!」「ケ、ジ、メ!」「ケ、ジ、メ!」「タナカテメッコラー!ケジメしろッコラー!」「ケ、ジ、メ!」「ケ、ジ、メ!」「ケ、ジ、メ!」33

2015-04-20 20:52:17
@nezumi_a

ドガキ係長の怒声と無慈悲なるケジメ要求合唱が迫る。もはや血を見なければ収まりのつかないアトモスフィアだ。いまやタナカ係長補佐の顔色はトーフのように蒼白となっていた。ナムアミダブツ、職場の和を乱したタナカ係長補佐は明日にも退職だろう。34

2015-04-20 20:55:06
@nezumi_a

しかし、なぜこの様なインシデントが起こったのか?読者の皆様も不思議に思ったことだろう。その答えは、「トリゴダ」の外にいた。大通りを挟んで向かいのビル、死んだネオン看板の上にユーレイめいて立つその人物こそ、カラアゲ・マウントに慈悲無きレモン果汁の雨を降らせた張本人だ。35

2015-04-20 20:58:07
@nezumi_a

その人物の視線は「トリゴダ」に向けられていたが、歓声とともにタナカ係長補佐の左小指がケジメされるのを見届けると踵を返した。その時、不意に足元の「個室オイラン」のネオン看板が息を吹き返した。断末魔のホタルめいた弱々しい光が、その人物を照らし出す。36

2015-04-20 21:01:11
@nezumi_a

濃紺の装束を身に纏ったその人物は、顔をメンポで隠した……ニンジャであった。「イヤーッ!」ニンジャは掛け声とともに跳躍し、その場を去る。後には僅かなレモンの香りを残されていた。37

2015-04-20 21:05:07
@nezumi_a

ア・ニンジャ・サドン・ライズ・アンド・スクイーズ#1 終わり

2015-04-20 21:05:57
@nezumi_a

◇知◇本日分はいじょうです。ありがとうございました◇続◇

2015-04-20 21:07:32