ア・ニンジャ・サドン・ライズ・アンド・スクイーズ#3

ニンジャが出て搾る!
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@nezumi_a

偶発的遭遇で戦闘になったケースが数件報告されているが、ホーンドアウル、トランプル、ライトニングサヴェージの三名はヘルカイトの報告を受けて現場に急行し、そして返り討ちにあった。これらのニンジャは、いずれも出世欲だけが突出したサンシタばかりだった。25

2015-04-25 17:49:12
@nezumi_a

無名のまま殺しても査定には結びつかない。ヘルカイトは対象の価値を高める為に仲間を犠牲にしたのだ。そしてシックスゲイツなどの上位役職ニンジャは、ミッションに際してある程度の自由裁量権を持つ。つまり、他を出し抜くことが出来る。(あとはこの俺が仕留めれば……)26

2015-04-25 17:52:08
@nezumi_a

ヘルカイトが出世コースを描いていると、液晶画面に小さくIRCウインドウが開き、「ダイダロス」の文字が表示された。『ドーモ、ヘルカイト=サン。残業おつかれさまです』緑色のゴシック体がヘルカイトにアイサツした。「ドーモ、ダイダロス=サン。仕事が片付かないんですよ」27

2015-04-25 17:55:07
@nezumi_a

ヘルカイトは口頭で答えた。このUNIXシステムは備え付けのマイクでダイダロスとの交信を可能する。タイピングの妨げにならない為、ヘルカイトは情報の精査を続けた。(ダイダロス=サンは文字のみか。ということは、ネットワークに接続中だな)28

2015-04-25 17:58:09
@nezumi_a

ノミカイ関係の通報や街頭カメラの監視など、ネットワーク部門の仕事は山ほどある。見た目こそ静かだが、電算室は不夜城となっていた。『随分仕事熱心じゃないですか、ヘルカイト=サン』「損をすると実際得になる。そういうことですよ」ヘルカイトはミヤモト・マサシのコトワザで答える。29

2015-04-25 18:01:06
@nezumi_a

相手はソウカイネットワークの管理者であり、ヘルカイトが調べている内容は全て把握されていると考えるべきだ。つまり彼の狙いも知られている事になる。『私としては服務規程に違反しなければ、特に咎めることはしません。ゲイトキーパー=サンも同様でしょう』「ありがとうございます」30

2015-04-25 18:04:28
@nezumi_a

『現場はどうですか』ヘルカイトは無駄話をする気分ではなかったが、相手はシックスゲイツの先輩でありデータバンク管理者でもある。機嫌を損ねても旨味は無い。「シックスゲイツといっても変わりは無いですよ。毎日飛び回っていると、ダイダロス=サンの様な内勤が少々羨ましい」31

2015-04-25 18:07:07
@nezumi_a

『適材適所というやつですよ、ヘルカイト=サン』「ネットワーク部はどうなんです。俺らが駈けずり回るよりよっぽど効率がいいはずなんですが」『ははは、これは手厳しい』堅牢な情報統制に定評のあるソウカイネットの対応が遅れたのは、スクイーズの活動内容が目立ちにくいがためでもある。32

2015-04-25 18:10:06
@nezumi_a

レモンを搾る怪人。その噂はネオサイタマ市民の間に疫病のごとく広まり、その影響でドンブリポン社を含む飲食産業の売上も下降。賃金未払いによる従業員の退職や、店長のカロウシによって閉店に到る店舗も出始めていた。33

2015-04-25 18:13:33
@nezumi_a

『今回の件で、ドンブリポンなどの外食産業は消費が落ち込み、株価も下落。ヤンバナサシミ社を解体した折りにタダ同然で手に入れた水産加工部門も同様です。このまま業績が回復しなければ、第2クォーターの決算報告は血を見る事になるでしょうね』34

2015-04-25 18:16:33
@nezumi_a

『それと、バイオレモン農園を閉鎖させました。尤もこれは効果が無かったようですが』農園を強制閉鎖されたことでレモン農場経営者が自殺したが、そのような些末事はソウカイヤの知ったことではない。文字だけの表示にもかかわらず、ダイダロスが苦笑しているのが読み取れる。35

2015-04-25 18:19:07
@nezumi_a

『宴会と言えば、金曜日に私たちもやりますね』「朝礼でも言ってた暑気払いをやるって話、ホントなんですか」 『近いうちに大きなミッションが動きます。そのための景気付けといったところでしょう。シックスゲイツは参加確定なので、メッセージが行っているはずですが?』36

2015-04-25 18:22:30
@nezumi_a

ヘルカイトは内心で舌打ちをした。読んでいないフリを通して欠席するつもりだったからだ。馴れ合いの宴会など冗談ではなかったが、これで参加しないわけにいかなくなった。(それにしても、よく喋る男だ。それとも、これが奴の素なのか?)37

2015-04-25 18:25:09
@nezumi_a

思えば昇格してからも、他のシックスゲイツのメンバーとはこれといった交流はなかった。ヘルカイトは組織内でのし上がる事だけを考え、これまで生きてきた。ミッションで組むことはあっても、同僚や部下など居ない、孤独な日々であった。38

2015-04-25 18:28:12
@nezumi_a

(能力だけがモノをいう組織だと思っていたが、立場が違えば見えてくるものも違ってくるということだろうか)ヘルカイトは空を行くニンジャだ。それゆえに視野は広く、いろいろな物が見える。そしてそれは彼の生き方、考え方にも通じていた。(そうだ、組織といえば)39

2015-04-25 18:31:19
@nezumi_a

「ザイバツ、でしたっけ?この一件、連中の挑発という線はないんですか」レモンを搾るニンジャは遠くガイオンにまで現れていた。『停戦協定を結んだとはいえ、ネオサイタマ侵攻を諦めたわけではないでしょうから、この件が協定破棄の口実という線は十分に考えられますね』40

2015-04-25 18:34:13
@nezumi_a

早急な謝罪と身柄の引渡しを要求する強い抗議文に、キョートでのスクイーズの活動が窺い知れた。それ自体は痛快であったが、不可侵条約が危うくなるとなれば笑っていられない。今やスクイーズの搾るレモンは、キョート・リパブリックとの外交問題へと発展しつつあった。41

2015-04-25 18:37:17
@nezumi_a

だが、とヘルカイトは考える。彼自身はマルノウチ抗争に参加しておらず、シックスゲイツの武勲を噂に聞くのみだ。(もしも抗争が再発すれば、それはチャンスではないか?)ニンジャ組織同士の抗争となれば、活躍する機会も増えるだろう。そうなれば自分の出世も早まる。42

2015-04-25 18:40:10
@nezumi_a

いや、だめだ。適材適所。ダイダロスがそう言ったばかりではないか。斥候ニンジャの筆頭たる自分がイクサの最前線でカラテを奮う展開など考えにくい。情報の伝達、連携、そういった前線支援という形での登用をされるのは間違いないだろう。43

2015-04-25 18:43:09
@nezumi_a

『しかし、どうしたことか。私は少し意外に思っているのですよ。ヘルカイト=サン。貴方はこんな地道な仕事をするようには見えなかった』「何の事ですか」『貴方は出世意欲が強い。それは前から知っていました』「……」ヘルカイトはタイピングの手を止め、モニターを凝視する。44

2015-04-25 18:46:09
@nezumi_a

「ガーゴイル=サンの件でしたら、あれは事故ですよ。ダイダロス=サンも検分に立ち会ったからご存知でしょう」ヘルカイトは背中が冷えるのを感じた。汗が室内の冷気で急速に冷えているのだ。(ローター機関部の細工は全て燃え尽きた。物理的な細工だからIRCにも記録は無いはず……!)45

2015-04-25 18:49:06
@nezumi_a

「……」ダイダロスの反応を待ち、ヘルカイトは沈黙する。『彼は惜しいことをした。ただ、もう少しだけ他人の悪意というものに敏感であるべきでした。そうすれば、ヘリのUNIXが突然フリーズする事も無かった』「な!」ヘルカイトは思わず椅子を蹴倒し立ち上がっていた。46

2015-04-25 18:52:07
@nezumi_a

告げられた意味を咀嚼し、モニターを睨む。ダイダロスの言葉は既に消えていた。(あの事故は俺の仕込みだけではなかったというのか!だが何故それを明かすダイダロス=サン!)『あれは事故でしたよ』表示される無機質なゴシック体フォント。ヘルカイトはダイダロスが笑いを確かに聞いた。47

2015-04-25 18:55:09
@nezumi_a

ヘルカイト秘密を共有する意味を考えようとしたが、ロクな答えが出そう無いので止めた。「仕事がありますので」それだけを言うと、UNIXからフロッピーを抜き、席を立つ。『また遊びに来てください。話し相手は歓迎しますよ』そのメッセージには答えず、ヘルカイトは電算室を後にした。48

2015-04-25 19:11:31
@nezumi_a

電算室から出てきたところで呼び止められた。「ドーモ、ヘルカイト=サン」呼び止めたニンジャの胸にも、ヘルカイトと同じ形のバッチがあった。彼の名はヒュージシュリケン。シックスゲイツの一人だ。「ドーモ、ヒュージシュリケン=サン。なんですか、オレは忙しいんですが」49

2015-04-25 19:14:13