ア・ニンジャ・サドン・ライズ・アンド・スクイーズ#3

ニンジャが出て搾る!
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@nezumi_a

ア・ニンジャ・サドン・ライズ・アンド・スクイーズ#3

2015-04-25 16:33:18
@nezumi_a

十五分後。ヌレバメガネ社のビル屋上は「外して保持」と書かれた黄色いテープで区切られていた。一見すれば犯罪現場の検証に見える光景だが、ここに一般のマッポは居ない。クローンヤクザが物的証拠を回収し、ヨロシサンの研究員がソウル痕跡をデータと照合している。01

2015-04-25 16:36:10
@nezumi_a

ブルースティングとアイアンスタッグのバイタルサイン消失を受け到着した、ソウカイヤの調査部隊である。ビル上空からオフホワイトニンジャ装束に身を包んだニンジャが降下してきた。「ドーモ、ヘルカイト=サン」鑑識班テントから現場指揮のクローンヤクザが現れ、ヘルカイトに一礼した。02

2015-04-25 16:39:06
@nezumi_a

ヘルカイトと呼ばれたニンジャは、交差するカタナの周りを六つの門で囲った特殊なエンブレムを身に着けていた。これはソウカイニンジャの中でも限られた手馴れにしか与えられぬ「ソウカイ・シックスゲイツ」の称号を表すものだ。03

2015-04-25 16:42:06
@nezumi_a

「ドーゾ」指揮ヤクザはファイルと紙コップに入ったホット・サケを手渡す。汚染大気によって昼なお暗いネオサイタマの空は寒い。ヘルカイトは身体をサケで温めながら報告書に目を通した。ファイルの一番上には両名の顔写真と「死亡な」のスタンプがある。彼はそれを見て鼻を鳴らした。04

2015-04-25 16:45:08
@nezumi_a

「ブルースティング=サン、アイアンスタッグ=サン両名の死亡を確認しました」「見れば分かる。犯人の痕跡はどうだ、通報は未見のニンジャとのことだが」「スリケンの痕跡はありません。また残留ソウル反応はソウカイヤのデータバンクに該当なし。しかし」クローンヤクザが言いよどむ。05

2015-04-25 16:48:10
@nezumi_a

「しかし、なんだ。報告しろ」「ハイ、レモンです」「レモンだと?」ヘルカイトはレポートから顔を上げて指揮ヤクザの顔を見た。何の代わり映えのないCY−11の厳しい顔だ。ページをめくると、ナムサン、苦悶の表情を浮かべるブルースティングの生首、その口にレモンが詰め込まれている。06

2015-04-25 16:51:06
@nezumi_a

「現場から幾つかのレモンを回収しました。鑑識の結果待ちですが、ブルースティング=サンの口に詰められた物と同質のものかと」指揮所のUNIX画面にも、焦げた物や銃弾で抉れたと思しきレモンが映し出されている。ヘルカイトは「ソウル反応な」の注釈を、オバケを見るような目で見る。07

2015-04-25 16:54:07
@nezumi_a

「犯人は戦いにレモンを使うのか?」「わかりません」感情を表す事の少ないクローンヤクザだが、指揮ヤクザの表情からは明確な困惑を感じ取れた。「フーム」ソウカイヤにも、己のジツやカラテに適した道具を使う者は存在する。だが、生の果実をイクサに持ち込むケースは聞いたことがない。08

2015-04-25 16:57:10
@nezumi_a

ヘルカイトは屋上を見渡した。白線で囲まれた爆発四散痕が二つ。砕けたニンジャソード、弾痕、暴発した銃。ここは終わった戦場だ。自分の任務は現場検証の立会いであり、犯人の特定ではない。「どうもこうもない、単なる狂ったレモンマニアの犯行で片をつけていい話ではあるまい」「ハイ」09

2015-04-25 17:00:08
@nezumi_a

ヘルカイトは指揮ヤクザにトコロザワピラーへの報告を押し付けると、次の現場に向かうべく屋上から飛び降りた。「イヤーッ!」強化和紙とバイオバンブーで作られた四角いステルス凧を展開すると、ビル風に乗り汚染スモッグによって蓋をされたネオサイタマの空に舞った。10

2015-04-25 17:03:56
@nezumi_a

事故死したガーゴイルの穴を埋める形でシックスゲイツに昇格したヘルカイトであったが、そのニンジャ特性と相俟って未だに外回りの仕事が多かった。(クソッ、ガーゴイルの野郎にアゴで使われる事がなくなっても、俺に回ってくる任務は変わらないじゃないか!)11

2015-04-25 17:07:05
@nezumi_a

ソウカイヤは実力主義だ。ミ主君ラオモトの勅命を受けられるほどに昇格すれば、このような使い走りともオサラバできる。しかし、ミッションをこなすほどに、使い勝手の良い偵察ニンジャとしての評価が高まり、査定ポイントの大きな荒事は他に奪われるという悪循環に陥っていた。12

2015-04-25 17:10:10
@nezumi_a

その印象を払拭するには、武勲を、カラテを証明するしかないのだ。ビルの谷間を風めいて翔けながら、ヘルカイトは先ほどの現場を反芻していた。(レモンだと?ふざけやがって、あんな訳の分からない事件になど構っていられるか!)その時、進路上に突然、「遠回りは得」のコトワザが光った。13

2015-04-25 17:13:05
@nezumi_a

それはクジラめいて悠然と空を行くマグロツェッペリンが表示する今日のコトワザだ。日替わり表示されるミヤモト・マサシの警句は、ラオモトの意向によるものだ。「!」そのコトワザに啓示めいたものを感じたヘルカイトは、ソウカイヤのシノギで起きたノミカイ・インシデントの通報を調べる。14

2015-04-25 17:16:15
@nezumi_a

「これは」ヘルカイトは唸った。数日前からレモン絡みのケジメ級トラブルが発生している。多い日は一日に十件を超えていた。確かに異常な出来事ではあるが、ソウカイヤが関知するほどの内容ではないのもまた事実。実際これらの案件はサラリマンの内輪揉めとして処理されていた。15

2015-04-25 17:19:08
@nezumi_a

しかし今回、ニンジャが殺された。この事実は大きい。ニンジャを殺せるものは限られているからだ。ヘルカイトは思考する。確かにソウカイヤの外敵は多いが、主敵である罪罰影組合とは停戦協定を締結済みであり、恐るべき手馴れと噂されるローシ・ニンジャは、レモンなど使わない。16

2015-04-25 17:22:09
@nezumi_a

最近名前を聞くようになったニンジャスレイヤーとやらか?しかし、奴とてこのような手口のニンジャではなかったはず。(ブルースティング=サンとアイアンスタッグ=サンは決して弱いニンジャではなかった。あのコンビネーションは確かなものだ)17

2015-04-25 17:25:08
@nezumi_a

取るに足らぬと切り捨てた現場だったが、ソウカイヤに敵対するニンジャが居るとなれば話は別だ。討伐すれば査定対象になる。「ヤクザキッチン、そしてレモン」ヘルカイトのヒミツめいた呟きはすぐにネオサイタマの喧騒に消え、聞く者は居なかった。18

2015-04-25 17:28:09
@nezumi_a

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2015-04-25 17:31:14
@nezumi_a

それから一週間後。ストココココ、ストココココ、ストココココ……。UNIX電算音で満たされた広大な空間、壁に沿って並べられたファイアウォール、漂う冷気。ここはダイダロスの居城と化しているフロアだが、一般のニンジャが報告書作成や資料閲覧に利用する端末も用意されている。20

2015-04-25 17:34:08
@nezumi_a

UNIX喫茶めいた個室の端末で、白い息を吐きながら黙々とタイピングを続けるヘルカイトの姿があった。ヘルカイトは屋上の一件から、スクイーズと名乗るレモンを搾るニンジャの足跡を追っており、杜撰に蓄積された被害報告を丁寧に洗い直し、情報の痕跡を掬い上げていった。21

2015-04-25 17:37:23
@nezumi_a

(奴の出現には法則がある。無作為にレモンを搾っているように見えるが、一定の間隔でウチのシノギに現れる)ソウカイヤに敵対したニンジャの慣例に従い、スクイーズにも賞金が掛けられた。遅かれ早かれそいつは狩り立てられ、ボロ犬めいて死ぬことだろう。22

2015-04-25 17:40:07
@nezumi_a

実働部隊の先鋒はスカウト部門が兼任しているが、スカウトと一口に言っても平和な部署ではない。敵意のあるニンジャと相対し、傘下に加わらなければその場で抹殺する。実力本位の威力部門なのだ。中でもソニックブームは確かなカラテで頭角を現している出世株だ。23

2015-04-25 17:43:16
@nezumi_a

スカウト部門には鼻の効くニンジャも多い。(そろそろ本格的な討伐ミッションが組まれるか……)ヘルカイトがスクイーズの出現パターンを把握していながら今まで放置していたのは、スクイーズの脅威度判定が上がるのを待っていたためである。24

2015-04-25 17:46:18