ジ・アイランド・オブ・ドクター・ベップ #7

過去ログが溜まりすぎて140字に収まらなくなった
0
劉度 @arther456

脱出用潜水艦の前半分が吹き飛ぶ中、チ級は潜水艦の亀裂から海へと抜け出した。手近な潜水艦の破片を掴み、捕食する。吹き飛んだ右手が再生を始める。だが、完治するのを待っている時間は無い。潜水艦が出てきた海底トンネルを見つけると、チ級は先へと進んでいった。 21

2015-04-24 21:56:32
劉度 @arther456

機銃が唸る。戦闘機が風を切る。プラズマが海を灼く。「なんて奴だ……」ツギハギの深海棲艦の大半は海中に没した。だが、近江は未だ健在だった。現代艦の艦娘とは、ここまで強靭なものなのか。部下の深海棲艦に追撃を命じつつ、装甲空母姫は内心戦慄していた。 23

2015-04-24 21:59:46
劉度 @arther456

「おい、提督!」艦娘側に合流した提督に通信を投げる。『なに?』「今どこにいる!」『後ろに下がった!電ちゃんに肩車してもらってる!』「なら安全だな。後方に待機している電以外の艦娘も全員前に出せ。こちらも全戦力を突っ込ませる。一気に畳み掛けるぞ!」 24

2015-04-24 22:03:05
劉度 @arther456

『分かった!』艦娘たちの後詰が動き出した。それに応じ、残りのツギハギたちも戦力を前面に集中させる。今だ。「全軍、総攻撃を開始する!我に続け!」装甲空母姫は全戦力を、すなわち、自分自身を近江に向けて突撃させた。航空機の支援に続き、主砲を近江に向け発砲! 25

2015-04-24 22:06:24
劉度 @arther456

不意を突かれた近江に一発が命中した。煙を靡かせながら、近江の二つの顔がこちらを向く。「また」「貴方ですか」「ああ。三度目の正直だ。今度こそ貴様を倒す」今度は海の上だ。主砲の反動だの地形だの、陸の煩わしい掟に縛られる必要はない。船としての本分を存分に発揮できる。 26

2015-04-24 22:09:34
劉度 @arther456

「「やらせませんっ!」」近江が主砲を放った。空母姫はそれを回避。プラズマが髪先を焦がす。空母姫の反撃の発砲も、近江に回避される。お互い並走しながら砲を撃ち合う同航戦になった。海上を駆ける空母姫の周りに、次々と水柱が立ち上がるが、空母姫はそれを恐れない。 27

2015-04-24 22:12:50
劉度 @arther456

砲は向こうの方が強い。手数も向こうの方が多い。だがあれは所詮人間だ。相手の進む方向に、当たることを期待しながら撃っているだけだ。加速を、波を、風を、放物線を予測計算し尽くして散布界を狭めていく、船の戦い方ではない。故に装甲空母姫には、勝算があった。 28

2015-04-24 22:16:02
劉度 @arther456

そして先に当たったのは、やはり装甲空母姫の16インチ砲だった。「ああっ!」「くうっ!」「貰った、沈めぇ!」動きが鈍った所に、間髪入れず全門斉射。近江の体に砲弾が突き刺さり、爆炎が彼女たちの体を焦がす!だが近江はまだ沈まない。双胴艦の耐久力が、艦娘である彼女にも備わっている。 29

2015-04-24 22:19:16
劉度 @arther456

「負けません!」「私たちは倒れません!」ボロボロになりながらもなお、近江は気丈に反撃する。「こんな体でも認めてくれる博士のためです!」「こんな体でも差別されない研究のためです!」「あなたは私たちの幸せを」「邪魔するんですか!?」「知るかっ!」空母姫も砲を撃ち返す。 30

2015-04-24 22:22:28
劉度 @arther456

「貴様らの生い立ちなど、知ったことか!私は、怒ってるんだ!」今の空母姫を動かす熱は、心の中に燃え上がる怒りの炎だった。同胞を無惨な姿にされたことへの怒り、反撃するのに艦娘と手を組まなければいけない怒り、そして近江という艦娘一人に苦戦する自分への怒りだった。 31

2015-04-24 22:25:41
劉度 @arther456

「くうっ!?」近江のすぐ側に、爆弾が落ちた。機銃と直掩機をくぐり抜け、一機の彗星が落とした爆弾だった。その一瞬の隙をついて空母姫は加速、近江の前に躍り出る。「しまった!?」近江は急いで曲がろうとするが、もう遅い。空母姫は全ての砲門を開き、狙いを定めた。 32

2015-04-24 22:28:55
劉度 @arther456

「今までのお返し全部だ。持っていけぇぇぇ!」放たれた砲弾は、全て近江に突き刺さった。なおも踏み止まろうとする近江だったが、空母姫の艦載機が、トドメに魚雷と爆弾を投下する。「プロフェッサー……!」「申し訳、ございません……!」双胴の艦娘は、爆炎の中に消えた。 33

2015-04-24 22:32:11
劉度 @arther456

「散々手こずったが、これで終いだ」腕を組み仁王立ちする空母姫は、爆炎を見送る。その頭上を彗星が飛んでいった。戦いの途中に割って入ったあの式神は、どの艦娘のものだろうか。目で見送ると、式神は翔鶴の飛行甲板に降り立った。翔鶴はこちらに目も向けず、島へ向かって駆けていく。 34

2015-04-24 22:35:26
劉度 @arther456

面倒臭い女に借りができてしまったが、お陰で勝負はついた。「提督、近江を撃沈したぞ」『……そっか。感謝するよ、姫さん!』「まあ、姫だからな」『総員!敵は殲滅した!これより前方の島に向かい艦砲射撃を行い、地上施設を徹底的に破壊する!』 35

2015-04-24 22:38:45
劉度 @arther456

島へと向かう艦娘たちが、提督に呼びかける。『提督、おかえりなさい!』『伊勢!私がいない間、艦隊は大丈夫だった?』『安心するがよい。吾輩がしっかり守っておったからな』『サンキュー、利根ちゃん』『司令官さん、そろそろ重いのです……』『もうちょい頑張って』 36

2015-04-24 22:41:59
劉度 @arther456

和気藹々とした会話が筒抜けだ。海上の敵は全滅したとはいえ、まだ戦闘中なのに。呆れる一方で、装甲空母姫はそれを提督らしいとも思った。こういう艦隊なら、誰でも帰りたくなるだろう。だからこそ、同じ気持ちなのに帰ることが許されない提督のコピーが、少し哀れにも思えた。 37

2015-04-24 22:45:27
劉度 @arther456

装甲空母姫はいなくなったコピーの事を想う。何だかんだ言って、数日苦楽を共にした仲だ。死なれては気分が悪い。チ級も同じ気持ちのはず。どうにか見つけ出して、引っ張ってでもあの島から連れ出したい。しかし通信に反応しないチ級に、装甲空母姫の不安は高まるばかりだった。 38

2015-04-24 22:50:21
劉度 @arther456

【ジ・アイランド・オブ・ドクター・ベップ】#7おわり #8へ続く

2015-04-24 22:50:54