ローンペア Report 1:「鴇の共謀者」

星月夜　禁森６話－４ @hosidukuyo

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「Ａプラス、ですか」 担任面談で渡された、卒業試験の成績は想定より低かった。日本の偏差値で言えば「７５前後の想定が６８程度だった」くらいか。まあ戦闘能力などを加味した成績を偏差値で例えるのは不適切かも知れないが、他に丁度良い分かりやすい指標も無いから仕方ない。 1

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「そうだ」 担任が無慈悲に肯定する。残念ながらやはり見間違いや誤字では無かった。まあ、俺もこの人もそんなヘマはしない。 「クロード・イングラム。魔力、体力、知力…基本スペックはＡ以上。学力も申し分ない。腕力や耐久はＢくらいだが、これは対した減点じゃない」 2

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魔力辺りは多いに越したことはないが、肉体がちょっと弱い程度なら術式や知略でカバーできる。「普通」の学校と同じで重要なのは学力や素行だ。 「俺はその辺は問題ないって顔してるな、イングラム？」 「ええ…固有術式、抜きでＡ＋なら納得出来ます…ですが」 3

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「素がＡ＋、その上固有術式がＳＳＳ級となれば…まあ総合Ｓ＋以上だろうな。誰でもそうする」 「でも先生はそうしなかった」 そう、純粋な総合力なら今の俺は確実にＳ級以上の筈だ。 「つまり…どういうことか分かる、な？」 …俺はこの人類史上最大の難問について暫し熟考した。 4

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俺は既に何度か実戦にも参加し、数十体の『誓約者』達を討伐している。この数字は仲間の大人の援護があればこそだし、俺より若くしてサシで３桁を倒した規格外な者もいるらしい。が、それでも俺の年でこれだけの実力を持つ者は、魔術師世界人口推計一千万の中でも百人はいない筈だ。 5

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勿論、相性の問題もあるし、総合の評価であるから、Ａ級やＢ級相手に不覚を取らないとは言わない。それでもあの物騒な術を抱えながらＳ以下ということは有り得ない。担任本人もそう言っている。となれば…答えは一つ。 「…先生…どこからの圧力、でぇっ！？」 なんかボードで頭を叩かれた。 6

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「俺の知る限り、貴方はそんな体罰をする教師では無い筈ですが、やはり誰かに脅されているのですか？」 「俺の知る限り、お前はそんなアホな結論を出すのに１０分も掛けるような馬鹿じゃあなかった筈だが？」 流石、俺に物を教えられるだけのことはある。頭の回転の速い返しだ。 7

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「…何がおかしいっていうんですか」 「前提だ、馬鹿者…どうして素行がＢやＡだと思った…」 素行の欄を見る。軒並みＥやＦが並んでいる。Ｆというのは"pennyless"に該当する。日本語で言う「一厘の価値なし」という奴だ。偏差値なら30とか25とかその辺の奴だ。なにこれ。 8

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「先生、誰かにイタズラされてますよコレ」 「俺のミスということにしなかったことは褒めてやる、と言いたいところだが、大事な成績表へのイタズラを許すと思われているのなら大いに心外だな」 …いや、分かっている。さっき一度見たもん。見た記憶を無くそうと全力で自己暗示をかけただけだ。 9

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「…俺は何もしてませんよ」 「そうだ。お前は何もしていない」 「他の馬鹿共みたいに、校則違反だの遅刻だの不純異性交遊だのはしてませんよ」 「それは褒めてやる。というか褒めている」 確かに校則・社会規範の順守の項目だけはＡ評価だ。 「だがそれだけだ」 10

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「そうじゃない。評価が悪くなることもしていないが、良くなるようなこともしていないだろう」 ―確かに課外活動やボランティア、部活…そういった物は必須項目しかやってこなかった。 「成績の為にやるのは…何か違いませんか？」 そして成績が絡まなければやりたいモノでもない。 11

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「それに友人も作ろうとしていない」 「何がいけないんです？馬鹿みたいに羽目を外して馬鹿な仲間を作れとでも？それこそ評価される為だけに！？」 「イングラム、言いたいことは分かる。俺も昔はそうだった。誰だってそういう時期はある」 12

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「でも今は違う、と？やってみれば楽しい、面白いと？」 「俺にとってはな。お前にはどうか知らんが」 「それでもやらなきゃいけなかった、ってことですね」 「少し違うぞ。別にお前が今部活に入っていなかろうが、友達がいなかろうがそれだけでＥやＦはつけんぞ」 13

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担任が意味の分からないことを言い出した。 「…お前、一度でもやろうとしたか」 「それは！」 やろうとしなかった、などとと思っているのか？ 「言っとくがこの中学に入る前のことは知らんぞ」 「でも！」 「小学校でダメだったからって、中学はまた別だろう」 14

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「……」 小学校では…１０歳の時に親が死んだせいもあるが、それ以前からそもそも友達もいなかったし、部活なども「偽善的」に見えてやる気がしなかった。中学や、何度か参加した軍という新しい集団でも、どうせ同じだろう、と確かに思っていた。思ってしまった。だから最初から何もしなかった。15

星月夜　禁森６話－４ @hosidukuyo

「友達は、まあ俺達の見ていないところで頑張ってたのかも知れんが、他ははっきり記録が残ってる。そこから判断させてもらった。俺達やクラスメイトからも何度か誘われたのに、部活なんか体験入部や見学すらしてないだろう、お前」 「そんなの見てみなくたって…大体分かるじゃないですか…」 16

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俺がそう言うと、担任は俺の頭をポンポン、と軽く叩いた。こういうのは好きじゃないが、何故か今は不快に感じなかった。 「お前は確かに頭が良い。だからこそさっさと諦めちまうんだな。でも、まずは試してみろよ。その上で、人と関わるのが無駄って思ったんならそれでいいさ。そういう奴もいる」17

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「そんなの時間の無駄じゃないですか」 「お前、若いうちに時間の無駄しないでどうすんだよ？俺くらいになってからじゃ遅いぞ？」 「それは遅いでしょうね…あダッ！」 ボードで、今度はさっきより軽めに叩いてきた。彼の表情は笑っていた。笑いながら叩かれるのが不快で無かったのは初めてだ。18

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「ま、お前クロスロードの特殊戦闘科志望だろ？」 「はい。というか他じゃまともに訓練も出来ませんからね」 「あそこはチーム戦も多い。嫌でも仲間と関わらなきゃやっていけんぞ。お前にはちょうどいいのかもな」 「まあ、なんとかやってみますよ。戦闘での連携なら少しは慣れてますから」 19

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星月夜　禁森６話－４ @hosidukuyo

そして故郷、ヨークシャーに別れを告げた俺はその特殊戦闘科にやってきた訳だ。 英国立クロスロード大学。一般人も通う名門校である。俺達魔術師は通常、神秘学部に編入されるが、俺の様な厄介な能力の持ち主や集団戦闘を学びたい者は、この学部の中の「特殊戦闘科」に配置される。 20

星月夜　禁森６話－４ @hosidukuyo

特殊戦闘と言っても特殊な戦いをするというより、訓練方法が特殊なのであるが、取りあえず置いておく。ロンドンから電車で一時間西のオックスフォード、その西部に本校があり、神秘学部は更に数十分南西だ。何分、魔術師ばかりの学部なので、ある程度人里から離れている。 21

星月夜　禁森６話－４ @hosidukuyo

今はクラス別に分けられ、入学式の真っ最中である。前以って歌詞をを配られた校歌や国歌を歌っているところだ。周りを密かに見回すと口パクらしき奴もそこそこいる。まあ仕方ないだろう。俺的にはなんか感極まって泣いている連中の方が怖い。千歩譲って卒業式なら理屈は分かるが、今泣くか！？ 22

星月夜　禁森６話－４ @hosidukuyo

しかし中学までは実家暮らしだったのが、これから５年間寮生活となれば早速ホームシックにかかる奴もいるだろう。俺も実家は無人だというのに少し懐かしい。「えっ！？」或いは入学した実感が沸いて、入学までの苦労を今更ながらに思い出したのか。俺レベルになると忘れがちだがここは難関校だ。23