ニンジャスゴロクログ１

胡蝶の夢291 @butterfly_sgrk

重金属雨の中、ビル街から離れたバラックの迷路で一人の男がショーギのケイマめいて歩く。奇特な軌跡を描いて進む男を周りの通行人はうつむいたまま避ける。次第に男は周りから浮いて悠々と歩けるようになった。ガスマスクらしき銀の覆いの裏で口角が釣り上がる。

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「ダッテメッ、コラーッ！」「スッゾオラー！」ナムサン！　このあたりを仕切っているであろうリアルヤクザたちが男の前に現れた！　働きアリめいた群衆の中で奇抜に動く男を放置しては後々の災いになるとこじつけ、男を呼び止めたのだ。このままでは囲んでボーで叩かれてしまう！

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「クローンに負けた落ち武者風情がよくも吠える」男の囁きを耳ざとく聞きつけたワカガシラがドスダガーを抜き放つ。他のヤクザも同じくして各々の獲物をちらつかせた。うつむき加減で歩いていた群衆はアリの子が散るように近くの建物に逃げ込んだ。「ケジメの後、身ぐるみ剥いでやるよォー！」

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ワカガシラは男の背後にいた部下にちらと目配せをする。そっとチャカガンを構えたヤクザが男の足を狙ってトリガーを引いた！　BLAMBLAM！！　血飛沫が舞い、雨に濡れた土が朱色に染まる。野次馬を決め込んでいた群衆の一人が倒れた。ナムアミダブツ！　眉間に穴が空いているではないか！

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撃たれたはずの男は足を天高く上げているだけで実際無傷。対してチャカガンを撃ったヤクザもまた眉間に穴を開けて倒れている。蹴り足１つで弾丸をはじき飛ばしたというのか！　ワザマエ！

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「カラテ遣いだろうがよォー！」　ワカガシラのシャウトに乗じて周囲のヤクザが殺到する。だが男は冷静にヤクザの獲物を残らず蹴ちらした！　如何にドスダガーとて横から蹴られれば折れる！　チャカガンは銃身が歪曲し使い物にならない！

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怯んだ隙を衝き、男は最接近したヤクザ３人に足刀一閃！　「イヤーッ！」「「「グワーッ！」」」　おお、なんということか！　足刀でヤクザの首が飛んだ！　赤い噴水が数秒続いて倒れ伏す！　宙に舞った首が落ちてくる前に男は別のヤクザの首を刈り落としていた！　ゴウランガ！

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サンシタヤクザを文字通り蹴散らしていく男を見てワカガシラは震え上がった。名誉と誇りを維持するための日常がどうしてこんなことになっている！　足元に首が転がってきた。サンシタの首だ。虚空めいた死人の眼がワカガシラを見上げた。ワカガシラは首に目もくれず逃げ出した。

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ワカガシラは全力で駆けた。一度も振り返らなかった。事務所に飛び込むとありったけのクレジット素子と少量の秘蔵マグロ粉末を持ち出す。（ここでのヤクザ復興はもう無理だ。新しいバラック地帯を探し出してそこでまた一からやり直せばいい）　ワカガシラの決断的戦略的転進！

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「ドーモ、リアルヤクザ＝サン。バタフライです」ワカガシラの背後で冷徹な声がした。歯が噛み合わず、ガチガチと音を立て続ける。振り返って二本目のドスダガーを抜いたが、腕ごと蹴り折られた。「ここの流儀に従ってアイサツしてんじゃあねえか。ヤクザ者ならアイサツくらいきっちりやれや」

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「アイエエエエ！　ニンジャナンデ！？」　ワカガシラのウカツ！　高い知能を持つがゆえに男から尋常ならざるソウルの気配を知覚してしまった！　遺伝子に刻まれたニンジャに対する恐怖が呼び起こされる！

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「あ、てめえもそうなるのかよ。じゃあ要らね」バタフライはためらいなくワカガシラを足刀で切り刻んだ。後に残ったのはクレジット素子とマグロ粉末のみ。バタフライは懐にそれらを手に取ると、隠し床下があるのに気づいた。ニンジャ聴覚は偽床下の音響すら聞き取る。

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偽装床を引き剥がすと鉄錆たツヅラチェストが顔を出した！　複雑かつ強固な錠前を前にして瞬時に蹴り斬った。中を改めると冷凍マグロが眠っていた。「ひひ、儲け儲け」　目を細めてバタフライは金品をひとつ残らず持ち出し、リアルヤクザ事務所を後にした。