反体制派詩人、ウラジーミル・ビソツキーへのレクイエム

1980年のモスクワ五輪。西側諸国がソ連のアフガン侵攻に抗議し、出場をボイコットした負のイメージがつきまとう五輪として知られるが、この期間中。当時、社会を風靡していた詩人、ウラジーミル・ビソツキーが亡くなった。今、生きていれば77歳。プーチン時代に何を思っただろうか。
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Masaaki Sasaki @izasasakima

①【ビソツキーへのレクイエム】1980年のモスクワ五輪は社会主義体制下に生きた多くのロシア人に、美化されて記憶されている。冷戦下の西側陣営がソ連軍のアフガニスタン侵攻に抗議して選手団の派遣を見送った「ボイコット五輪」だったとしても、そうした負のイメージは知識人やエリート層に強く、

2015-05-04 23:17:13
Masaaki Sasaki @izasasakima

②【反体制派詩人ビソツキーへのレクイエム】一般の庶民には古き良き郷愁の念を思い起こさせる。モスクワは整備され、きれいな街並みへと生まれ変わった。店には品物があふれ、人々は見たことのない舶来品も手にした。初開催のスポーツの祭典は米国と覇を競い合った時代の栄光の薫りを放つのである。

2015-05-04 23:18:17
Masaaki Sasaki @izasasakima

③この五輪期間中、実はモスクワっ子にとってもう一つ忘れ得ぬ大きな出来事があった。それは、ソビエト政府への不満や反戦への願いを歌や芝居に込め、カリスマ的な人気を集めていた時代の寵児(ちょうじ)、ウラジーミル・ビソツキーの死だった。享年42。詩人、歌手、俳優と多彩な表現者であった彼は

2015-05-04 23:19:03
Masaaki Sasaki @izasasakima

④常に社会の底辺に生きる弱者の側に立ち、独特のしゃがれ声とギターの弾き語りで大衆に訴えかけた。体制に歯向かうあまりにも過激な歌詞のため、生前、作品のレコード化は許されなかった。その代わり、労働者が働く工場やインテリが集う大学で頻繁にコンサートを開いた。会場はどこも満員。

2015-05-04 23:19:39
Masaaki Sasaki @izasasakima

⑤【ビソツキーのレクイエム】人々は会場でひそかに録音されたテープをダビングしてまわし、彼の魂のメロディーにふれた。酒に溺れ、晩年はアルコール依存症を患った。死因もモルヒネ治療による心臓発作とされる。ソ連共産党の厳しい情報統制下で、 pic.twitter.com/jGvqhahHRB

2015-05-04 23:23:04
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⑥モスクワ五輪期間中はことさらプロパガンダ色に染まっていた国営主要メディアは、若き異端者の死を一切、報じなかった。しかし、訃報は口々に市民の間で広まった。葬儀が行われた、彼が最期まで舞台を演じたモスクワの pic.twitter.com/QJKylTV9vh

2015-05-04 23:26:49
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⑦タガンカ劇場には数万人が花束を持って列をつくり、その日は競技会場の観客が減少したという逸話も残る。「ビソツキーがそれでも激しい抑圧を受けなかったのは、彼のファンに政府高官が含まれていたからだ」。米紙ニューヨーク・タイムズの当時のモスクワ特派員はビソツキー現象をそう分析している。

2015-05-04 23:27:54
Masaaki Sasaki @izasasakima

⑧実際、反体制派を取り締まるべきソ連国家保安委員会(KGB)の最高幹部も、ビソツキーの歌を聞いていた。KGB議長として、反体制派のシンボル、アンドレイ・サハロフ博士らの弾圧に辣腕(らつわん)をふるい、80年代前半に最高指導者の書記長ポストまでのぼりつめたユーリ・アンドロポフは死後

2015-05-04 23:30:44
Masaaki Sasaki @izasasakima

⑨【ソ連反体制派詩人へのレクイエム】アンドロポフ書記長がビソツキーの歌を好んで聞いていたことが明らかにされた。アンドロポフ体制の元でKGB諜報員の実績を積み上げたウラジーミル・プーチンもビソツキー世代の一人だ。KGBの後身、 pic.twitter.com/DyZ8krY1DG

2015-05-04 23:32:12
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⑩KGBの後身、FSB(連邦保安庁)長官を経て大統領に就任したプーチン氏はたびたび、演説の中にビソツキーの言葉を引用する「ビソツキーの詩はわれわれに教えを諭している」とも語っている。70年代に作られた「狼狩り」というビソツキーの歌に pic.twitter.com/86pmFUJlnL

2015-05-04 23:34:07
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Masaaki Sasaki @izasasakima

⑪狼狩り」というビソツキーの歌にこんな歌詞がある。「今は狼狩りの真っ盛り 灰色の猛獣は老いも若きも狙われる…」ソチ五輪に向け、テロ犯罪の取り締まりが強化された。無関係とみられる犯人の親類や友人までが「灰色」と疑われ、弾圧を受けているという。「五輪に乗じた治安機関の勢力拡大」

2015-05-04 23:35:16
Masaaki Sasaki @izasasakima

⑫批判もあり、捜査の苛烈さは現代の「狼狩り」のようにも思える。モスクワ五輪は魂の歌手の死とともにあった。存命であれば今年で76歳。果たして彼はプーチン時代にどんな歌を世に送り出しただろうか。ソチにはビソツキーの銅像が建つ。 pic.twitter.com/9t5U9hZ9L8

2015-05-04 23:39:26
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⑬【反体制派詩人ビソツキーへのレクイエム】ソチで2度目の五輪を経験するロシアの人々は像の前で、国家の崩壊から復興し、さらにはウクライナ情勢で欧米と対立するようになったこの激動の34年間に何を思うのだろう。 pic.twitter.com/nITMekU1A0

2015-05-04 23:41:34
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