急に寒くなって、うたたねから覚めた。深夜の浴室、細く開けたすりガラスから振られる細い腕が、膝から降りていった猫を招いている。ぬるい湯をすくいとって掌から舐めとらせるのが好きなのだ。くすぐったそうな笑い声から、のけものにされているような気がしてきて、不貞寝を決め込む僕は大人げない。
2010-12-07 01:24:45午後の講義をさぼって、有名な遊歩道に繰り出した。押し葉にするんだと拾っていた落ち葉が、ときどき手の甲をくすぐってくる。「蜜柑色」の和名を持つルージュをひいて笑う唇が、遠景のオレンジと共に見られる時間は「今、ここ」しかないことに打ちのめされながら、彼女は母親似なんだなと考えていた。
2010-12-10 02:43:59お礼にと誘ってくれたランチは、洒落たレストランだった。がちがちに緊張しながら取り出したプレゼントの古びた見てくれに、がっかりしたような視線が周りのテーブルから感じられる。古本屋の包装だから限界がある。運よく手に入れた稀覯本の貴重さは二人だけが知っていると思えば、かえって誇らしい。
2010-12-10 03:27:40これも安藤忠雄がつくったらしいよと話しても、気乗り薄のはずだった。見覚えがあるコートを素通しの渡り廊下に見かけ、そらでかけられる番号を押してみる。鞄を探す動作を確かめて電話を切った。光り始めた星を見るように目をそらしたのは、親しげな連れの詳細を見続けたくなかったせいもあるだろう。
2010-12-11 18:34:45雨が降ると濡れる渡り廊下は、京都の高瀬川沿いにあるこれ http://www46.tok2.com/home/arc/kyoto/kyoto_05.htm
2010-12-11 18:40:00相談に乗る半ばから、朝までコースだと確信していた。駅へ送る途上の並木道、銀杏に足をとられたところをかばって、軽く寄り添う格好になる。「雨ニモ負ケズ、湯デノミ落チル」とおどけていたマスカラが滲むのだから、涙は温かいに違いない。下心には恋心も含まれることを認めてもらうには、まだ早い。
2010-12-11 23:13:41朝ぼらけから初詣に繰り出していた頃は、イベントの一つでしかなかった。ご利益を信じたい気持ちから、手品を魔法と信じていた頃を思い出す。本気まじりだからこそ、ややピークを過ぎた人波に揉まれながら願をかけた。地主神社の方が相応しいかもしれないけれど、カップルが妬ましいのは避けられない。
2010-12-12 00:00:58hinemosu_notariさんは、「朝の車内」で登場人物が「見つめる」、「靴」という単語を使ったお話を考えて下さい。 http://shindanmaker.com/28927 #rendai
2010-12-12 01:56:53「曇った窓ガラスを見たら何を思いつく」「タイタニックの一場面かな」「助けて、と鏡文字を書く漫画もいい」「ぞっとしないな」「靴を投げ捨てた方が事件性は強くなるか」「通勤前に時間を割いているのに、そんな目で見るのはよさないか」「狭いまま固定されたシートで悪態をつきたくもなるじゃない」
2010-12-12 02:06:08駅に着く予定時間に、先に食べておいてと添えて返信した。開いた鞄の底に折り畳み傘が見当たらない。玄関に広げたままだったことを思い出しながら、高架下から差し伸べた甲で雨脚の強さを確かめる。傘を振りながら駆けてくる姿が見えた。メールを送った時間から逆算するに、夕食は二人分が残っている。
2010-12-13 15:52:26日が傾くのを待ち焦がれた。暮れの寸志を頼みに、靴屋に駆け込む。畳の上に真新しいモカシンは似合わないかもしれないけど、おろしたての靴を部屋の中で履く特別さには換えられない。明日に会うひとは気づいてくれるだろうかと思うだけで、歩き心地を確かめる足取りは踊るようにステップを踏み始める。
2010-12-13 22:28:36何もこんな時期を選ばなくても、と言われても空しいだけだった。いつか来る日がいま来たに過ぎない。電飾で飾りたてられた並木道は瞬きもせず、真顔の僕と足を止めて泣き出す彼女を照らし続ける。去年のクリスマスに贈った手袋を叩きつけられたのは決闘を「申し込む」ようだな、とぼんやり考えていた。
2010-12-13 23:56:46オフィス街に近い高架下は飯屋がひしめき、ランチには困らない。相席を頼まれたのは、目もさめる美女だった。俺が避けたニンニク入りの餃子を、二人前たいらげて去るのを見送ってから、箸が進んでいなかったことに気づく。とんだチキンだと苦笑しつつ、またすれ違える確率を考えるだけでも楽しくなる。
2010-12-14 00:28:35