うなじを夏の日射しに焼かれながら、海辺でカニ釣りに夢中だったのを覚えている。だだをこねた私から押し付けられた、調子が悪いはずの道具で苦もなくバケツを一杯にしていく手際は魔法としか思えなかった。今でも「何でもできるお兄ちゃん」に会えると思うと、親戚が一同に会する年末も億劫ではない。
2010-12-15 01:33:06談笑していたカップルの片割れが駅で降りるや否や、残された方が吊革を頼みに肩を震わせ、泣きじゃくるに至った経緯はわからない。詮索したい気持ちよりも驚きが勝ったのか、車内は氷をのんだように静まり返る。泣きあぐんで面をあげたときに、顔色が映えて見える夕方の車窓は、せめてもの救いである。
2010-12-15 23:32:57涼みに足を踏み入れた自分を棚にあげて、がらんとした書庫に寂しくなった。勉強熱心な人を見るのが好きなんだなと独りごちたところに、しこたま図鑑類を抱えた姿と出くわした。語学が一緒だけど、生物専攻だとは知らなかった。「いや、花屋でバイトしてるから」って、そこまで熱心なバカは初めて見た。
2010-12-15 23:58:40匂いから夕餉を当てながら、家に帰るまでの道のりは楽しい。意外と像を結ぶもので、特徴があるカレー等は玉ねぎを炒めるところから想像がつく。鍵穴から洩れる角煮をかぎとり、キッチンの主へ愛をどう表したものかと悩んでいたら扉が開いた。魚眼レンズから百面相を見られたらしく、笑いを堪えている。
2010-12-16 00:26:36泊まりの出張で街に繰り出す同僚の誘いは断った。ビジネスホテルで靴を脱ぐタイミングは、未だに正解が分からない。ひとわたり明かりのスイッチと暖房まわりを確かめ終えたところで、ベッドに倒れこむ。元恋人の番号にかけて、出てくれたことだけで泣き出しそうなのだから、よほど弱っているとみえる。
2010-12-16 00:55:48仕事を辞めたことを打ち明けられないまま、今朝も公園で時間をつぶす。一と月前までの酷使とはうってかわって、手帳は白い。制服姿で今日発売の週刊誌を熱心に読む姿が目に入った。寄り添うようにベンチに腰をおろしてみる。話を聞くうち、自分ばかり気の毒がっていた気持ちが晴れてくるのがわかった。
2010-12-16 01:13:08ベランダで流れ星を探して、目を凝らすうちに体が冷えた。近頃、楽しかった思い出の話が驚くほど噛み合わないのは「神経衰弱」めいている。いつのまに忘れてしまったのかもわからず、部屋の隅に飾られるプリザーブドフラワーの花束が風化しないのすら恨めしい。会いたいと願う相手は、ここにはいない。
2010-12-18 01:23:35