獣人探偵の事件簿

陣営:同盟 出自:異界の血 経験1:許嫁 経験2:絶技 信念:美学 続きを読む
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ただのつける @kinoakira

「アンタ、昔はいい身分だったのでしょうね。その服、随分と流行遅れですよ」 女の目を見つめる。 「今は没落でもしたのですか、いいえ。そんなことを言うのはよしましょう。不幸は皆に等しく訪れますから」 手袋に包まれた手の魔法が焔になってもなお止まらない。 「けれどね」 #dtv_pod

2015-05-20 02:44:33
ただのつける @kinoakira

「それで、アンタ以外の人の幸せを壊して。人を殺す道理にゃあならんのですよ」 「お美しい、”元”マダム?」 「お黙りなさい!」 瞬間、それが弾ける。 炎が収縮し一瞬に爆ぜるのを待っていたかのようにウィリアムは跳んだ。 着弾地点は瞳を見ればすぐわかる。 #dtv_pod

2015-05-20 02:47:09
ただのつける @kinoakira

だらりと下げていた腕を腰のサーベルに。 一直線に抜剣する。 息を呑む女の目の前に着地し、静かに宣告する。 「ディテクティブが秩序と正義を愛するのは、当然のことなのですよ」 刃を返し、峰でもってウィリアムは魔法師を打ち据えた。 「ちっと痛いのは我慢してくださいね」 #dtv_pod

2015-05-20 02:51:01
ただのつける @kinoakira

倒れ込んだ魔法師に、狐は静かに言った。 「狐は騙すもんですから、虚偽なんて端っから売るほど持ってるものを。今更貰ったって持て余すだけですよ」 そのまま気を失った魔法師を最寄りの兵士詰所まで、引きずっていって疑われたのは無論言うまでもない。 #dtv_pod

2015-05-20 02:57:23
ただのつける @kinoakira

ウィリアムは困惑していた。 昨夜、襲いかかってきた魔法士を殴り倒し、無理やりに兵の詰所へと引きずっていき、当直の兵をたたき起こし、引き渡した。 それから、疲れた体を引きずりながら宿に戻り泥のように眠っていたところを、早朝にたたき起こされることになった。 #dtv_pod

2015-05-21 02:12:19
ただのつける @kinoakira

安宿の扉が外れんばかりに叩かれた音と、わめき散らす声は彼の鋭敏な聴覚にあまりにも優しくない。 のっそりと起き上がり、一応の身支度を整え扉を開けた。 「へいへい、なんですかねえ。こんな朝からがご苦労さんです」 横柄な物言いに、訪ねてきた兵士は眉をひそめた。 #dtv_pod

2015-05-21 02:14:16
ただのつける @kinoakira

「貴様は重要参考人と相成った。直ちに出頭せよとのお達しである。疾く来られよ」 昨日のことだろうか、と取り敢えずサーベルを佩き、貴重品だけ手元に手早くまとめて部屋を出ると入れ違いに複数人の兵がどやどやと彼の部屋に押し入っていった。 「ちょっと、何ですか一体!」 #dtv_pod

2015-05-21 02:17:26
ただのつける @kinoakira

「貴様の持ち物は重要な証拠物であるために此方で一旦預からせてもらう。有り難く思え、得物と貴重品は勘弁してやろう」 「……冗談じゃあありませんよ、全く」 部屋にあるのは全て彼にとって必要な捜査資料であり、商売道具だ。破損でもしたりしたらそれこそ目も当てられない。 #dtv_pod

2015-05-21 02:20:05
ただのつける @kinoakira

しかし、剣呑な雰囲気だ。 もしもここで下手に突っかかてしまえばますます拘束時間が長くなり、必然的に資料の返却も難しくなるだろう。 「大事に扱ってください」 自分の身元保証人のことを考えると避けたい事態でもある。 #dtv_pod

2015-05-21 02:22:21
ただのつける @kinoakira

まるで下手人にでもなったかのように兵士に連れられて詰所へ向かうと先客がいた。 驚くべきことに、着物を纏い腰に刀を刷いたその男もまた困ったような顔をしている。 「何や盛況やなあ」 他にも何名か、同じように待たされている人間がちらほらと見受けられた。 #dtv_pod

2015-05-21 02:25:49
ただのつける @kinoakira

そして、彼ら全員と自分の共通点といえば。 全員が、全員。形は違えど「片刃の剣」を持っていることだった。 カタナをはじめとし、湾曲したシャムシールもその類に入るらしい。 「なんとも。大雑把なことですねい」 荒すぎるくくりに溜息しか出てこない。 #dtv_pod

2015-05-21 02:28:42
ただのつける @kinoakira

「ほんまに」 ウィリアムの独り言を聞いた着物の男が同意した。 「弱いものいじめはあきまへんなあ…。こっちは流浪の身やっちゅうのに」 男はイチタと名乗り、独特な言葉遣いで自らの立場を明かした。 立ち居振る舞いの隙の無さから言って、相当の使い手であることが見て取れた。#dtv_pod

2015-05-21 02:32:59
ただのつける @kinoakira

ウィリアムはイチタに親近感を感じた。 彼の服装、立ち居振る舞い、得物は自らの父を思い起こさせるものがあった。 東より日の出る国、その風俗を身に纏った人物であった。 他愛のない話をして時間を潰していると、兵を引き連れた男が入室してきた。 #dtv_pod

2015-05-21 02:38:08
ただのつける @kinoakira

士官の格好をした男がぐるりと部屋を見回すのを、ウィリアムはじっと見つめていた。 「アンタ、何者です?」 ぶっきらぼうに、そう言い放った。 「貴様。なんて口をきく。自らの立場がわかっていないようだな」 すらりと抜かれた剣の切っ先を高い鼻面に突きつけられる。 #dtv_pod

2015-05-28 01:36:51
ただのつける @kinoakira

下士官達の鋭い視線が狐を射抜く。 「いやあ、だって。……そのお人は、アンタがたのご上司じゃあないでしょう」 観察するのが、生業の仕事。そして、男の言葉は刃になる。 「アンタちょっとばかし絹擦れの音が大きい、それから。靴、あってないでしょ。少し」#dtv_pod

2015-05-28 01:40:04
ただのつける @kinoakira

「指揮官の服ってのは、大体その人にあわせて採寸するもんですよ。背格好が似てる程度じゃ着られても、脇が甘くなったりするもんです。靴だってそう、前の方は外反母趾だったんじゃないですかねえ。足の横幅がすこおし大きいように見えますし。急に体型が変化するのは考えづらい」 #dtv_pod

2015-05-28 01:43:45
ただのつける @kinoakira

「それにアンタ。一番最初にアタシのこと見ましたよね?そりゃあ目立つ面構えなのはわかっちゃいますがね。もすこし、視線に気を使ったほうがいいですよ。人のこと、言えた義理じゃあございませんが」 「何を馬鹿な、貴様。上官に失礼だぞ!」 恫喝する下士官を狐は冷たい目で見る。#dtv_pod

2015-05-28 01:47:16
ただのつける @kinoakira

「信じる信じないはご勝手ですがね。狐は人を化かすもんです、人に化けるもんです。手練手管はわかりきってますからねえ。…信じたほうが、よいですよ」 指揮官の顔が、ぐにゃりと歪むのが見えたかと思うとウィリアムに切っ先を突きつけていた男の首が、飛んだ。 #dtv_pod

2015-05-28 01:52:51
ただのつける @kinoakira

剣閃は見えなかった、否。 抜刀していなかった。 男が腕を横に薙いだかと思うと、それが刃になり一瞬のうちにその首を斬り飛ばしたのだ。 重い音を立てて驚愕の表情を浮かべてそれが床に落ちた。 その音で、時の止まった室内は恐慌に陥った。 #dtv_pod

2015-05-28 01:56:14
ただのつける @kinoakira

その一撃は、ただ速かった。 抜刀しても、男には届かない。 リーチは向こうの方があるのだ。 取るべき行動は一つ、ウィリアムは背中にかけている着流しを素早く掴み、剥ぎ取った。 そして、指揮官に扮していた男に放り投げる。 #dtv_pod

2015-05-28 02:03:25
ただのつける @kinoakira

着流しは、狙いたがわず、男にバサリと覆いかぶさり、視界を奪い去る。 それは一瞬のこと。 そして、一歩、二歩と抜刀の予備動作と共にイチタが迅雷の抜刀をした。 男が、着流しを取り去った時にはもう遅い。 「あきまへんなあ」 「余所見は」 一閃。 #dtv_pod

2015-05-28 02:07:06
ただのつける @kinoakira

袈裟懸けに斬りつけられた男が倒れるのを見ながら、宙に舞った着流しをウィリアムが受け止める。 「いやあ、お見事です」 着流しの裾には、少しの重りが取り付けられている。 ただの布では投擲の際に上手く纏わりつかせることはできない。 これが、狐の仕掛けの一つ。 #dtv_pod

2015-05-28 02:10:07
ただのつける @kinoakira

「備えあれば、憂いなし。やなあ」 血振るいし、納刀するイチタが飽きれたように言った。 「準備しすぎて困ることは、ありませんからねえ」 のんびりと、しかし油断なく。 ウィリアムは言った。 #dtv_pod

2015-05-28 02:11:47
ただのつける @kinoakira

ゴルディウス領内にて。 ウィリアムは、情報収集に勤しんでいた。 領主には既に許可は取ってある。 前回の反省を、生かしてのことだ。 #dtv_pod

2015-05-28 02:24:25
ただのつける @kinoakira

「それで、この頃。妙なよそ者が来たんだよ」 「余所者?」 商店主の言葉に、ウィリアムは首をかしげた。 「それは、どんな」 「なんっつーか、さ。妙な感じなんだ」 店主は声を潜める。 「ソイツは、ずっと昔から知ってた気がするんだ」 #dtv_pod

2015-05-28 02:27:21
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