鈴木智彦氏がハマるヤクザBL、ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』の世界

フリーライター、鈴木智彦氏が絶賛する、ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』ガイド。
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鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

基本に立ち返ると違うのは恋愛対象が女か、男かの一点です。一般的なヤクザ劇と『囀る~』はそこが決定的に違う。でも言い返せばそこだけしか違わない。物語の肉付けは一般社会のそれだし、細部はリアルに現代ヤクザです。物語のたった一要素を裏返しにするだけで、物語が劇的に変わる。想像以上に。

2015-05-20 07:48:36
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

今までなぜ気付かなかったのか悔しかった。本来、「男と女」にある恋愛とセックスを、「男と男」に置き換えるだけなのに。でも一般の常識から外れるのはそこだけで、先の展開は男と女のそれから外れない。ノーマルの俺が『囀る~』を読めた一因でもあります。たとえばこんな場面が分かりやすい。

2015-05-20 07:50:08
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

「ここにいるヤツら何人分咥え込んだかも憶えてねぇんだろ」 「もう5人しかいねえよ、竜崎ィ」 「てめ…」 「そんなに俺の下半身が忘れられないならよ…いつでも来な?ご自慢の真珠入り、ケツの穴空にして待ってっから…な?」 「いつまでもそこにいられると思うなよ。雌が!」(一巻第三話)

2015-05-20 07:50:54
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

雌が!というセリフは明らかに侮蔑の響きを持っている。ヤクザは男社会なので、女は格下ということでしょう。調べてみると男と男のセックスでも(ゲイでも)、どうやら挿れられる側が女のような位置になるらしい。は、もう8時じゃん。でも今日はもうちょっと書くか。

2015-05-20 07:55:16
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

『囀る鳥は羽ばたかない』の中で、1巻の第3話は、世界観を理解する上でとても重要なパートです。前記のシーンはカタギだった頃、主人公の矢代が連れ込まれ、何人もの男に輪姦された事務所を、嫌がらせとして再訪させられる場面になります。竜崎は矢代を犯したひとりで、続くシーンも象徴的でした。

2015-05-20 07:56:50
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

「松原組の奴ら、いつでも締め上げる準備出来てますから。奴らにどっちが上か分からせる良い機会です。武闘派だろうが知ったこっちゃないです」 「やめとけ、あれは個人的なもんだろ」 「関係ないです。頭のメンツは俺らのメンツですから」 「俺のメンツがいつ潰れたって?言ってみろ七原」(3話)

2015-05-20 07:57:58
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

引用したシーンをみてわかると思います。前述したように男と男のそれあっても、セックスでの関係性は挿れる側が攻め、従属させる側です。挿れられる側が女性、受けで従属する側です。わかりやすくいうと、犯すのは凸の側で、犯されるのは凹なんです。ここに新たな価値観は登場しない。ちょい乱暴かも。

2015-05-20 08:04:00
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

だから道心会(一次)真誠会(二次)では平田がトップの親分で、矢代以下、すべての組員は平田と盃を結び直した若い衆、もしくは舎弟に当たるはず。でも『囀る~』ではそのあたりの事情が不明瞭です。ディティールは不要だからでしょう。でも皮肉なことに、ヨネダさんはヤクザ劇を描き込んでいった。

2015-05-20 08:08:00
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

漫画家のインタビューでみるように、キャラが勝手に走ったのかもしれない。想像するしかありません。本来、編集サイドからすれば、BL愛好家のニーズを満たすことが第一のはず。でも2巻の第7話から、話の主軸は抗争です。ここもよかった。BL愛好家の萌え要素をすべ共感できる感性は俺にない。

2015-05-20 08:12:49
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

三角と矢代、ヤクザ的に観ると『囀る~』は2人の若頭の物語です。そこに本来ならあり得ない愛とセックスが絡みついて、既存のヤクザ劇では不可能な領域まで重層化する。あ、先代の三角にとって矢代は元オンナで、肉体関係のあった若い衆(か舎弟か判然としない)という設定です。俺の推しキャラです。

2015-05-20 08:15:34
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

※ おっさんはエヴァを観ても、碇ゲンドウとリッちゃんに感情移入する生き物です。俺は48歳です。脱線しすぎだな。読み返したほうがいいかもだ。話がとっちらかってるはず。

2015-05-20 08:17:10
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

箇条書きみたいだな。まぁいい。補足。セックスでの挿入の形態で、能動と受動という位置づけが社会に出来上がっている…なんてことは、俺の仕事にない気づきでした。実際はその先にある生殖…妊娠するのが女性の側という理由からかも。男が男とセックスしても妊娠することはないのに。不思議です。

2015-05-20 08:23:19
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

やばい時間だ。むりくりまとめ。恋愛対象を男にするとゴツゴツ突っかかった場面がすんなり進みました。ヤクザは極端な男社会で、一般には色恋がないグレーな世界ですが、BLだと男湯は女湯、すなわち極楽です。恋やセックスが生まれない場所ほど天然色になる。だからヤクザは最高の題材なんでしょう。

2015-05-20 08:26:48
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

これだけは書いておきたい!『囀る~』に入り込めた理由はまだあって、例えばBLはホモの物語なんですけど、矢代はホモじゃないんです。前述したカタギ時代、組事務所で犯されたエピソードがありますよね。矢代は組事務所前に全裸で捨てられます。以下、事務所から出てきた三角のやりとりです。

2015-05-20 08:29:17
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

三角「おい、そこのホモ」 矢代「……」 三角「寝たフリしてんじゃねぇぞ、オカマ」 矢代「……」 三角「無視か。いい根性してんなぁ。この変態が」 矢代「そうそれ!」   変態…異常な性衝動の究極として、男とのセックスがある。これがすごく物語に入り込む手助けになった。

2015-05-20 08:31:54
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

書きたいことは他にもたくさんあんですが、最後に『囀る鳥は羽ばたかない』というタイトルの理由に触れておきます。奇抜なタイトルだけど、もちろんちゃんと意味がある。幼なじみ(ノンケのはずがホモになってる)はこうつぶやく。 「矢代の自己完結はガキの頃から備わった自防衛なんだろうな」

2015-05-20 08:36:21
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

2巻のラスト、ヒットマンに銃撃された矢代は、病院のベッドで過去を回想します。 「俺は全部受け入れてきた。なんの憂いもない。誰のせいにもしていない。俺の人生は誰かのせいであってはならない」 1巻の2Pにはこう書かれています。漂えど沈まず、されど鳴きもせず。囀る鳥は羽ばたかない。

2015-05-20 08:39:52
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

機会があれば、ぜひ『囀る鳥は羽ばたかない』を購入し、一読してみてください。読めばわかんだよ。つべこべいわんでも。面白いです。保証します。Twitterのアカウントを消し、作品作りに没頭しているヨネダコウさんのために。そして、人生をもう少しだけ楽しむために。取材にいってまいります!

2015-05-20 08:44:42
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

おばんです(北海道弁)。朝方、憑依されたが如くヤクザBLの最高傑作『囀る鳥は羽ばたかない』(ヨネダコウ作)に発狂し、花火を打ち上げたまま終わってしまいました。「ポン中とキチガイが最強」(在阪定暴力団組長)とは言いますが、今日は頭の冷えてる時間を使って、少しだけ書きたいと思います。

2015-05-20 23:07:25
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

連投してるのは『囀る鳥は羽ばたかない』3巻が6月1日に発売されるためです。 ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』特設ページはこちら! bs-garden.com/feature/saezur… 『囀る鳥は羽ばたかない』公式Twitterです! twitter.com/saezuru_comic

2015-05-20 23:09:27
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

まずは今朝最後に書いたツイートを補足します。 「1巻の2Pにはこう書かれています。漂えど沈まず、されど鳴きもせず。囀る鳥は羽ばたかない」 文字数の関係ではしょりましたが、1巻の章タイトルでして、2章と3章のそれを使用し、語呂合わせで順番を逆にしております。かっこいいんだもん。

2015-05-20 23:11:02
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

さらに言い訳がましく恐縮ですが、俺はあくまで『囀る~』をヤクザ作品としてとらえていることを理解して欲しい。BLとヤクザの要素が複合していれば、そこには触れる。でもBL作品を評論するつもりはないし、ヨネダコウという書き手を語っているわけでもないんです。それは他の人がやればいい。

2015-05-20 23:13:12
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

ヨネダコウさんは元々BL作家として多くのファンを獲得、高い評価を得ています。ファンの方々に「そこなの!」「まさに萌え!」と共感してもらうことはたぶん書けない。頭で理解はしても、萌えを取り込んで心を爆発させることは出来ません。簡単な理由です。俺は男で俗に言う腐男子でもないからです。

2015-05-20 23:16:28
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

「アンチノミー的な相反することで成り立ってるものとか、ひとの矛盾した言動とかに興味があって、そういうところを描きたい気持ちはあります」(『美術手帖2014・12月号』ヨネダコウ・インタビューから抜粋)。こうした部分を膨らませ、持論を展開できません。稚拙になる。あまりに分野が違う。

2015-05-20 23:17:44
鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO @yonakiishi

同じ『美術手帖』のインタビューの質問「日常的な話はもちろん、矢代みたいなドMの若頭という実際はいないだろう人にも実在感がありますよね」という部分なら言いたいことがある。推測から導かれた誤認だからです。繰り返しますが俺にとっての『囀る~』は今までに読んだことのないヤクザ劇なんです。

2015-05-20 23:20:26