叢雲教会

赤肩 @fuyutuki67

「神に祈るヤツなんてこの仕事にゃ向いてないよ」着任式が終わって同期の桜と語り合っていた時、彼らは口々にこう言っていました。確かに、私は主の御心と共にある人間です。日に三度の祈りを欠かさず、主に関する文献を学ぶ日々でした。 #短編鎮守府

赤肩 @fuyutuki67

主がこの世界に遺された教えは素晴らしい。この教えのように生き、この教えを伝えて最後を迎えられればこれは最上の喜びです。しかし、世界には動物以上に主の教えから程遠いモノ達が存在し、そのモノたちが人間を模したモノに殺されていると知った時、自分の無力さを痛感しました。 #短編鎮守府

赤肩 @fuyutuki67

人を模してはならぬという禁忌が侵され、果てはその禁忌のモノたちが教えと程遠いモノと殺し合っている。飲み込めない、とてもこの様な世界を飲み込むことは私にはできない。ですが世界にはまだ主の救いが遺されていました。私の最後の希望、万能の願望器は実在している。 #短編鎮守府

赤肩 @fuyutuki67

教会を飛び出して軍の試験を受け合格し、この廃教会を改装した鎮守府に着任することができました。「お祈りは済んだかしら？」細くも引き締まった身体、すらりと伸びた足に黒いストッキングを纏った人を模したモノ、叢雲さんは今日も不機嫌のご様子でした。 #短編鎮守府

赤肩 @fuyutuki67

「ええ、すみません」鎮守府といえどここは元教会、祈る場所があるということは幸せな事です。「いいご身分だこと、で？今日の出撃先は？」床をコツコツと槍の石突きで叩く叢雲さん。「なりません」「はぁ？またそれ、いい加減にしてよね」どの様な立場になろうとも教えを破るなんて…… #短編鎮守府

赤肩 @fuyutuki67

「教えだかなんだか知らないけどね、本営からの催促何回目だと思ってるの？」何度でも構いません、あのモノたちを救うに無用な殺生を止めることが何の罪になりましょうや。「あーまた始まった」教会の地下奥底、漆喰で塗り固められ壁に埋もれた部屋にそれはあった。 #短編鎮守府

赤肩 @fuyutuki67

艦娘、深海棲艦、そして人間、三者の調和を顕現させる万能の願望器。まだ主と人間が共に生きていた頃、神は二対の願望器をお造りになられた。その願望器を再度この世界に顕現させる方法を記した神官の書、これを手にした時、私は使命を感じました。 #短編鎮守府

赤肩 @fuyutuki67

願望器の名はムラクモチャンノミミノアーレ。古の言葉でムラクモチャンは奇跡、救いを意味しミミノアーレは溜め込む物、神聖な器を意味している。 #短編鎮守府

赤肩 @fuyutuki67

私は必ずやこの願望器を顕現させてこの無益な争いを終わらせてみせます。無論、流される血は尊く必要最低限でなければなりませんが……。「なんでもいいけどね！そのムラクモチャンってのやめなさい！」「何故です？貴女と同じ祝福された名前ですよ？」「そういうことじゃなくてね……」 #短編鎮守府

赤肩 @fuyutuki67

叢雲さんは重い溜息を一つ吐かれると去って行ってしまった。迷いがあるならば相談して頂ければ良いのに。なんにせよ、彼女たち艦娘と提督共、彼らが忘れた古の役目の通り願望器を顕現させる役割を果たして貰わねば……な。 #短編鎮守府

赤肩 @fuyutuki67

約束の日は近い、艦娘と提督が集い互いに衝突し合う時が来れば我々の前に願望器が現れ主の奇跡をこの目で見ることができる。何も使命を持たず生きてきた私に、必ずや主の奇跡を見せてくれよ、人型共。 #短編鎮守府